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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第三節 人の欲望、人の闇 ~ダンジョン都市カッセル編~
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第79話 冒険にとって大切な事、それは生活基盤の確立

シャベルたちの冒険者パーティー登録は恙無く終了した。

冒険者ギルドカッセル支部で登録されたシャベルをリーダーとした金級冒険者パーティー“魔物の友”の情報は、王都モルガノに送られ記録される。

以降パーティーを解散する、もしくは脱退する等の理由により削除申請を行わない限り、記録上はパーティーメンバーとして扱われる事となる。


受付の女性職員が心配した様にダンジョン都市においてテイマーのみでパーティーを組む様なもの好きはいなかった。これは偏にテイマーの火力不足、攻撃力不足に起因するものであった。

一般的にテイマーはテイムしたい魔物がいる場合その魔物を瀕死の状態にまで追い込み意識薄弱になったところでテイムを行うものとされている。

これはただ討伐するよりもよほど困難な行為であり、テイマーが強力な魔物を従える事が困難とされる要因の一つと言われている。テイマーという職業にも他の職業のように熟練度と呼ばれるものが存在し、強力な魔物をテイムするにはこの熟練度を上げる事が重要とされている。

熟練度を上げるポイントは自身がいかに魔物と意思疎通を取り自在に操る事が出来るのかであり、より多くの魔物と戦闘を熟す事が熟練度を上げる為には必要であるとされている。

これは剣術や魔法の熟練度を上げる事と同じであると言えるだろう。

より強い魔物を手に入れるにはテイマー自身がより多くの戦闘を経験せねばならず、その為にはより強力な魔物が必要と言う矛盾が、テイマーが不遇職と呼ばれる所以であるのだろう。


しかしてシャベル率いる“魔物の友”の場合はどうであろうか?

十体のフォレストビッグワームという強力な魔物、魔物同士ばかりかテイマー自身も武器を持ち戦闘を行うというスタイル。

数の有利を最大限に生かし格下ばかりでなく格上にも戦いを挑めるといったパーティーの在り方は、その実態を知らない者にとっては理解の範疇を越えたものと言えるのだろう。


「無事パーティー登録が出来たな」

シャベルは自身の冒険者ギルドカードを眺めながらそう呟く。

ギルドカードには名前の他にこれまで刻まれる事の無かった項目、所属パーティー名という欄と、“魔物の友”というパーティー名が記載されていた。


「そうね、こうして見るとなんか感慨深いわね。

これまでも臨時のパーティーに参加する事はあったけど、こうして固定のパーティーに所属した事って無かったのよね」

そう言い同様に自身のギルドカードの眺めるメアリー。


「俺は以前ここカッセルでパーティーを組んでいたことがあるぞ?最もほとんど雑用係みたいな事ばっかりさせられてたけどな。それと魔物を使った罠の解除、宝箱なんかは結構罠が掛けられていてな、一回の冒険で二体の魔物を失う事なんてざらだったよ。

その割には魔物調達の手伝いもしてくれなくてな、半年もしないうちに脱退したよ。

パーティー加盟はリーダーの許可が必要だけど、脱退は自分で出来るからな。その後絡まれるのも面倒だったんで、その足で城塞都市に向かったんだ。今考えれば無茶な選択をしたもんだよ」

ジェンガは苦笑いを浮かべながら過去の出来事を振り返る。


「俺はテイマーとしてではなく斥候として参加していたことがある。俺の場合運よく斥候職だった熟練冒険者と知り合ってな、斥候の手解きを受ける事が出来たんだよ。

それに剣術スキルも持ってたしな、何かと重宝されたものさ。

でもまぁ御多分に漏れずパーティー内の人間関係がな、最終的には俺が悪いって事で追放処分を受けちまった。

そんな事があって人とパーティーを組みのがちょっと嫌になってた時期があって、テイマーとして活動するようになったって訳さ。俺もあの頃は若かったからな~」

そう言いどこか遠くを見つめるクラック。人に歴史あり、それぞれが様々な人生を経て今ここに集まっている。

シャベルはこの仲間たちが“魔物の友”というパーティーの事を、過去の嫌な思い出として振り替える事の無い様にと願わざるを得ないのであった。



「いらっしゃい、何名だ?」

そこは街門の門兵から教わった比較的安全であろうとされる宿屋であった。

“大地の怒り亭”、元銀級冒険者上位だった男性の営むそこでは、入り口から入って直ぐ受付カウンタでオーガの様な大男が受付業務を行っているのであった。


「四名だな、男三人、女性一人。部屋の空き状態がどうなっているのか教えて欲しい」

そんな受付にも臆することなく、相手の目を見詰め淡々と話を進めるシャベル。


“なぁ、シャベルの奴ってやっぱりどこかおかしくないか?

俺あの受付の爺さんを見た瞬間ビビって足が動かなかったんだが”

“それ分かる。門兵が言ってたけどこの宿にちょっかいを出す馬鹿はいないって言った言葉の意味がよく分かったわ。

あんなのに上から(にら)まれたら(すく)んじゃって何も出来ないわよ”

“俺こないだのスタンピードを思い出したわ。あの東門前に現れたオーガの群れの中にあの爺さんがいても、全く違和感ないと思う”

互いに目を合わせうんうんと頷くパーティーメンバーたち。

そんな声など聞こえないとばかりに、シャベルは受付での交渉を続ける。


「そうだな、一人部屋は三つ、四人部屋は二つといったところか。この辺じゃパーティー単位で部屋を借りる連中が多いからな、四人部屋や六人部屋はすぐに埋まっちまうんだ」

「なるほど、それじゃ四人部屋を一つと一人部屋を一つ頼む。流石にダンジョン探索の後はむさくるしい男どもと一緒より一人でゆったりと過ごしたいだろう」


そう言い背後で内緒話をしているパーティメンバーに目をやるシャベル。自分の事を言われてるとは気付かずに、「えっ、なに、私がどうかしたの?」と慌てるメアリー。


「ふん、まあいいが、この辺は荒くれも多い、街に出る時は必ず誰かと一緒に行動するようにと彼女によくよく言い聞かせておいてくれ。ウチの宿の宿泊客に何かあったなんてことになったら、目覚めが悪いからな」

「あぁ、十分気を付けよう。彼女もこの街は初めてじゃない、そうした事は心得てるとは思うがな」

そう言い肩を竦めるシャベル。内心では“ダンジョン都市の治安は城塞都市よりも悪そうだ”と警戒の度合いを上げる。


「それと俺はテイマーなんだがテイム魔物の持ち込みは可能だろうか?」

そう言い肩に乗る雫をカウンターの上に降ろすシャベル。

雫はカウンターでコロコロの前に転がると、一度プルプル震えてから身体をニュッと引き延ばし、ぺこりとお辞儀をするように前に倒すのであった。


「ブフォ、あ、うん。そうだな、特に害もなさそうだしスライムなら匂いの心配もないだろう。

ただ食堂などでは嫌がる者もいるかもしれん、その辺は気を付けて欲しい」

受付カウンターの男性は一瞬たじろぎを見せるも、特に問題ないとの判断を下す。カウンターの上で未だプルプルと自己アピールをする雫を肩の定位置に戻したシャベルは、宿からの許可を得る事が出来た事にホッと胸を撫でおろす。


「それと実はもう一体いるんだが・・・」

シャベルはそう言うと小脇に抱えた木箱をカウンターの上に置く。


「この木箱の中に入れているのか?まぁ余り大きくない様なら問題にはならないだろうが、臭いのするもの、狂暴なもの、糞尿を蒔き散らかすものは宿として受け入れることは出来ない」

そう言いハッキリと拒否の姿勢を示す男性に、シャベルは首を横に振る。


「そうした事は無いと思う。なにせコイツのエサは魔力が豊富な物、それは別に肉でも何でもいいんだがこいつが糞尿をするところを想像する事が出来ない」

そう言いカウンターの箱を見詰めるシャベル。


「そうなのか?糞尿をしない魔物って言うのもよく分からないんだがな。それで一体どんな魔物が入ってるんだ?」

そう言い訝しみの視線を送る男性。


「いや、入ってるも何も、コイツだが?

ボクシーご飯だ、ふたを開けてくれるか?」

シャベルがそう言うと箱の蓋がパカッと開かれる。

シャベルはその開いた箱の中に手を翳すと、「<ウォーター>」と生活魔法の魔法名を唱える。


“ザバッ”

掌から溢れる魔法により作り出された水、だがそれが箱の外に漏れ出る事もなく、蓋は勝手に閉まって行く。


「はぁ!?イヤイヤイヤ、はぁ?

ちょっと待て、それってもしかしてミミックか?」

「あぁ、ボクシーと言う。特に鳴き声も上げないし、大人しいものだぞ?当然糞尿もしないしな」

そう言い然も当然の様に再び箱を小脇に抱えるシャベル。

男性は自らのこめかみを手で揉みながら、「いや、まぁ、うん。大丈夫なのか?でもミミックだしな」と何やら思案に耽る。


「あぁ、ボクシーを置いたまま留守になんかしないぞ?流石に魔物を置いたままどこかに行くなんてマネは常識外れだからな。

魔物が問題を起こせばそれはテイマーの罪となる、それくらいの常識は弁えているさ。

駄目というのであれば従魔屋に預けてこよう、何も無理やり置いてくれと言っている訳じゃないんだ、ボクシーはどう見てもただの箱だからな、ダメもとで聞いているだけだ」

そう言い箱の蓋をやさしく撫でるシャベル。ミミックにはそれが伝わっているのか、カタカタと蓋を鳴らす。


「ウッ、まぁいいだろう、問題は起こすなよ?

四人部屋が一人一泊銀貨一枚、一人部屋が銀貨一枚銅貨十五枚だ」

「分かった、取り敢えず十日分頼む。それと聞きたいんだが、ダンジョンに数日潜る場合普通宿屋はどうするんだ?

一度宿を引き払うのか?それとも継続しておくものなのか?」

シャベルが気になった事、それは定宿の扱い。ダンジョンに潜っている最中それはどうなるのか。


「あぁ、ダンジョンに潜って数日戻らない場合、その旨を宿に伝えて一度退去した事にするのが一般的だな。どれくらい潜ってるのかにもよるだろうがムダ金が発生することに変わりはないからな。ただ中には長期滞在料金を支払って部屋を取り続ける者もいる。

その場合どれくらいの期間潜っているのかを伝えその間の食事を止めてもらうのが通例だ。

宿としては食事の無駄をなくせるし、宿泊客は食事代の分宿泊費用から引かれるからな」


宿屋の男性の話になるほどと思うシャベル。宿と宿泊客、互いの信頼関係が出来上がっているからこそ行われる取引といった事なのだろう。

シャベルは金貨一枚をカンターに置き十日分の宿泊代を支払うと、パーティーメンバーと共に部屋に向かう。一人部屋のメアリーには今後の活動について話があるとして一度部屋に向かってから四人部屋に来てもらう事とした。


「さて、早速だが明日からの行動について話そうと思う。

まずダンジョンに潜る際に必要な物資の調達だが、これはクラックに頼みたい。クラックは前のパーティーでは斥候をしていたくらいだからな、いざという時に必要なものなど詳しいだろう。それと非常時に必要なものは全員分用意してくれ、幸い全員中型マジックバッグを持っている、持ち運びに問題が生じる事もないだろう。

それに場所はダンジョンだ、何が起こるのか分からないのはもちろん分断されたり全員がばらばらになる可能性もあるからな。

恐ろしいのはダンジョン内で盗賊行為を働く連中だ。どんな罠を仕掛けてくるのか分からない以上、細心の注意と備えが必要だろう。


ジェンガとメアリーは冒険者ギルド資料室でダンジョンに関する情報を集めてくれ。下手に酒場で聞き込みをするよりもよほど正確な情報が手に入るはずだ。

俺たちはまだダンジョンに来たばかりだ、下手にお宝を求めるより堅実な冒険をした方が余程身になるからな。


俺は薬師ギルドに行ってから蜂蜜スライムゼリーの補充を行っておこう。あれは俺のお手製だからな、と言うかお前ら食べ過ぎだぞ?ダンジョンでは貴重な魔力回復薬にもなるんだ、控えめにしてくれよ?」


シャベルの言葉にサッと顔を逸らす三人。

“こいつら本当に分かってるんだろうか?”

シャベルは一抹の不安を覚えずにはいられないのであった。


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碌な甘味が存在しない世界で蜂蜜ゼリー的なモノはアカンよ…しかも元気になるとか最高か?絶対用もなく食べちゃう。
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