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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第四節 再びの城塞都市、新たな旅の始まり

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第148話 王都モルガノ、そこは人々の思惑が蠢く都

鼻腔を擽る芳しい香り、フェルトマ宰相はティーカップを手に取ると、立ち昇る芳香を味わってから口を付ける。


「創国産の紅茶ですか、産地は広林州ですかな?」

「ほう、分かるか。つい先日新しい茶葉が届いたものでな、昨年は天候が安定していた為品質が良いとの話であったよ。

それで、例の金級冒険者について何か分かったか?」

そこは王城の一室、ミゲール王国の中枢国王執務室。皮張りのソファーに腰を下ろし紅茶を楽しむフェルトマ宰相の向かいには、部屋の主であるミゲール王国国王ダストフ・グラン・ミゲールが同じくティーカップを手に取り言葉を向ける。


「はい、中々に興味深い者でありました。詳細はこちらの資料に纏めておきましたが、先ずは実際に会ってみた印象から。

ライド伯爵との事前打ち合わせとの名目で同席させましたが、冒険者にありがちな強い自己主張は見られず、さりとて強気に流されるといった遜った者でもなく、ただあるようにしてあるといった人物でありました。

言葉遣いは丁寧で、身分不相応な態度は一切ないのですが、芯があると申しましょうか、冒険者というよりかは研究者や学者といった様子でありました。

王都に参ってから最初に向かった先が王都地下下水道施設であったといいますから驚きです」

フェルトマ宰相の言葉に「ほう」と呟き興味を示すダストフ国王、その目は続きを話せと先を促す。


「地下下水道は一般の者は立ち入ることが出来ませんが、冒険者であればスライム除去作業の仕事が王都下水道管理局より常時依頼として出されています。そこでシャベルは王都冒険者ギルドに向かい依頼受注を行ったのですが、金級冒険者が見習い冒険者の仕事であるスライム除去の仕事を受けたことで他の冒険者が反発、一騒動起きたところを白金級冒険者“雷剣のエステバン”が仲裁に入り、ギルド長の判断で二人して王都下水道管理局に向かったとの事でした。

普通であればそこから地下下水道に赴きおざなりにスライム討伐を行って引き上げるのでしょうが、シャベルの場合は下水道管理局職員の想定を上回る成果を熟したとの事でございました」

「それはどういう事であるのか、下水道へ潜りスライムを始末しただけではないのか?」

下水道のスライム退治で想定を超える成果を出す。話の内容にいまいちピンとこないダストフ国王は、フェルトマ宰相に詳しい説明を求める。


「はい、それはシャベルの持つスキルと従魔に起因します。シャベルはテイマーの外れスキルと呼ばれる<魔物の友>というスキルを持っていますが、これは複数の魔物を<テイム>出来る代わりに<テイム>可能魔物が限られるという特殊なスキルとなります。一般的にはスライムとビッグワームしかテイム出来ないとされていますが、シャベルによればある程度の信頼関係の置ける敵対的でない魔物であれば<テイム>出来るとの事でございました。

そしてシャベルが行ったことは、この<魔物の友>による<テイム>で下水道のスライムを管理下に置くというものでした。ただこれではスライムにある程度の指示が行えるというだけで、問題の解決にはなりません。そこで従魔である特殊なスライムによって<テイム>したスライムを吸収させるという事を行ったのです。

これはこの特殊スライムの<統合>というスキルに依るもので、<テイム>したスライムを全て一体に纏めることが出来るという信じがたい物でありました。シャベルはこのスキルと従魔の力により、王都下水道管理局が長年抱えていた問題を一日にして解消してみせたのです。

この事は王都下水道管理局の報告書にも記載されていますので確かな事実でございます」

フェルトマ宰相は「二枚目の資料をご覧ください」と言って王都下水道管理局から齎された情報を指し示す。


「・・・フェルトマ、この“地下下水道における新人冒険者育成利用の可能性”と“地下下水道におけるスライムの役割に関する考察”は一体何であるか」

「はい、それはシャベルが下水道内で“雷剣のエステバン”に対し語った話の内容を、同行した下水道管理局職員が報告書として纏めたものであります。シャベル自身の体験から導き出された考察でありあくまで個人的な意見ではあるものの、一考の余地のある素晴らしいものであり、冒険者の育成や王都の衛生管理の観点からも重要な指摘であった為付随させていただきました。

専門的に下水道に関わっていた訳ではない一冒険者であるにもかかわらずこうした発想が出来るという事は、シャベルという金級冒険者の人物像を知る上での参考になるものであるかと」

フェルトマ宰相の言葉に唸りを上げるダストフ国王、それはこの報告が金級冒険者シャベルの深い知性を現すものであり、癒し草栽培技術の確立やポーションEXのレシピ作成が偶然の産物などではない知性の発露であることを示すものであったからである。


「欲しいな、この者の齎す成果はミゲール王国にとって有益なものである。内に取り込めないものか」

ダストフ国王の言葉にフェルトマ宰相は暫し考え込むと、難しそうな表情で自身の考えを示す。


「確かにこの金級冒険者シャベルは武力ではなく研究者として非常に有用な人物です。ですがその発想は自身の生活から生まれる知性の発露であり、こちらが求める物事に対する研究とは質を異にします。

例えば魔道具職人のようにこちら側が求めるものを指示し、それに対して欲しい答えを出させることが難しいのです。聞かれたことに対しては自身の考えを口にしますが、それが必ずしもこちら側の求めるものとは一致しない、研究者としては扱いが難しい部類となるでしょう。

それよりもシャベルが望む環境を用意し好きにさせておいた方が結果として有用な成果を示すかと。

その分かり易い例がライド伯爵領の城塞都市ゲルバスです。シャベルはテイマーが迫害されず多くの学びを得ることができる地としてゲルバスに訪れ、誰に求められた訳でもなく自発的に城塞都市におけるごみ問題の解決案の提示や癒し草栽培の可能性を発案し、スタンピード発生時にはテイマー冒険者や戦闘職以外の冒険者を纏め上げ都市防衛に大きく貢献したとして、ゲルバスの名誉市民勲章を贈られています。

ライド伯爵はシャベルを“鏡のような人物”と評しています。こちらの接し方ひとつで大きく結果を変えてしまうのです。その事がよく分かる調査資料が六枚目となります」


フェルトマ宰相に促され六枚目の資料に目を通したダストフ国王は、顎に手を当て「ふむ」と考えを巡らせる。


「フェルトマ、ライド伯爵から提案されていた金級冒険者シャベルが王家に買い取りを打診していたものは確認してまいったのか?」

「はい、実際にこの目で見て、こうしたものが存在するのかと驚きを隠せませんでした。同行させた鑑定士によれば最高品質の品であるとか、その価値がどれ程のものとなるのか見当もつかないと申しておりました」

フェルトマ宰相の言葉に、「さて、どうしたものか」と腕組みをするダストフ国王。ダストフ国王は資料を捲り、ある項目に目を止めるとフェルトマ宰相に確認を取る。


「はい、これは冒険者ギルドからの情報となります。正式に登録されたものである為正しい情報であるかと。詳しい事は城塞都市ゲルバスの冒険者ギルドに問い合わせる必要がありますが、“蛇使いシャベル”の二つ名は城塞都市ゲルバスに於いては知らぬ者はいないと言われています」


「ふむ、であればこうした形はどうであろうか。過去の事例からして、多大な功績を上げた者に対する報奨措置として使われていたはずであるが」

「なるほど、国庫からの支払い予算にも限度がありますからな。王家の面目を立てつつ周囲を納得させるには良い手であるかと、問題はシャベル本人がどう思うかですが」


議論は続く、王家の思惑と面子、シャベルの人生が大きく変わるかもしれない決定は、ミゲール王国のトップたちの手により下されようとしているのであった。


――――――――――――――


「<ウォーター>」

“ザバザバザバザバザバザバ”

“““““プルプルプルプルプルプル”””””


ライド伯爵家王都屋敷、その庭園の片隅に並べられた幾つもの盥。その盥に向かい生活魔法<ウォーター>を掛けるシャベルの姿に、屋敷の使用人たちは首を傾げる。


「シャベル殿、それは一体何をしているのですかな?」

そんな使用人たちの疑問の声は屋敷の主であるライド伯爵にも届き、庭園に姿を見せたライド伯爵は興味深げに声を掛ける。


「これはライド伯爵閣下、お恥ずかしながら登城までの間どう時間を過ごしてよいのか分からなかったものですから、お屋敷の方々に頼み盥を購入して来て貰ったのですよ。

盥の中にはお屋敷裏の排水路から集めてきましたスライムが入っています。与えていたものは生活魔法<ウォーター>で作った魔力水になります。

スライムの生態を記した「スライム使いの手記」によれば、スライムは身体に取り込んだ物を半日から一日の内には完全に消化してしまうとか。こうして魔力水に漬けておくことで、臭みのない良質なスライムにする事が出来るのです。

私は職外調薬師である為ポーション作製の際に多くの手間と材料を必要とします。その材料の中に乾燥スライムというものがあり、普段からこうして素材を用意し自作しているのですよ」


シャベルはそう言うと、慌てて「あっ、ちゃんと排水路は清掃しておきましたので、スライムがいなくなった事で臭いが酷くなることはありませんから」と言葉を添える。ライド伯爵が側にいた執事に顔を向けると、執事は頷きでシャベルの言葉を肯定する。

国王陛下との謁見の為に王都に来ているのに一体何をしているんだと思わなくもないものの、根が真面目なシャベルの人柄に触れ心が温かくなるライド伯爵。


「なるほど、そういう事でありましたか。それはそうと明日は王城での謁見ですぞ、本日は早く休み明日に備えるようにしていただきたい」

「はい、ご心配をおかけします。明日はどうぞよろしくお願いします」

ライド伯爵の言葉に身を正し深く頭を下げるシャベル。ライド伯爵はそんな緊張した様子を見せるシャベルに笑顔を向けると、「こうしてみるとスライムも中々可愛らしいものですな」と声を掛けるのであった。


―――――――――――――


夜が更ける、貴族街の各屋敷内には魔道具の明かりが灯り、静かな夜の闇に光を放つ。


「全く忌々しい、ライド伯爵など偶々運よく領内にダンジョンが発生しただけの田舎貴族ではないか。それが癒し草の栽培技術を確立し王家に献上する? 何様のつもりだというのだ」

男はグラスのワインを一気に飲み干すと、苛立たしげに声を荒らげる。


「ライド伯爵は我らの要求を無視し、薬師ギルドに預けたエリクサーを自分たちで購入し、癒し草の栽培法と共に王家に献上するのだとか。

ただエリクサーを献上するだけでなく、王家の利益となる産業を併せて献上する事で発言力が増すことは必定、今後はあまり強い要求は出来なくなってしまうものかと」

「クソッ、田舎貴族がぬけぬけと」

‟パリンッ”

床に叩き付けられ砕け散るグラス、配下の者の言葉に男の苛立ちは更に高まっていく。


「閣下、ご指示通り、兵の手配は完了しております。不幸な事故に駆け付けた閣下はライド伯爵の遺言に従いライド伯爵領の経営に参画する。

全ては閣下の人徳の賜物であるかと」

騎士が頭を垂れ報告を行う。男は大きく息を吐き、苛立ちを抑える。


「して、不確定要素の金級冒険者の対策はどうなっているか、テイマーでありながら二つ名を持ち金級冒険者にまでなった者だ、計画の為の邪魔は排除せねばならん」

「ご心配なく、既に手筈は整ってございます。所詮は魔物頼みのテイマー、一人では何も出来ぬ半端ものでございます故」

口元を歪ませ主の言葉に応える騎士、男は「ほう、してそれは一体どういったものであるのか」と問い掛ける。


夜の闇に深く沈む王都、その暗がりに蠢く欲望は、無辜なる者たちを呑み込まんと静かに動き出そうとしているのであった。

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by@aozora

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更新お疲れ様です。 ダストフ国王、比較的まともな感性の持ち主のようで少し安心しました…家臣の忠言を考慮できない王様ほどヤバい存在はそうそう居ないですからね。 そして案の定現れるバカの集まり…国の未来…
カウンター特攻型シャベルくんになんて言うことを… 愛の重いワームとスライムちゃんの絶ゆるは怖いぞぉ
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