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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第四節 再びの城塞都市、新たな旅の始まり

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第146話 報告する者、報告を受ける者

「<範囲指定:周囲三十メート:テイム>」

“ボタボタボタボタボタボタボタボタ”

下水道の天井から落ちる無数のスライム、その様子を眺める三人の男たち。


「天多、通路上のスライムたちを<統合>してくれ。排水路のスライムたちは汚泥の中に何か落ちてないか探して、見付けたら俺の下に持ってきてくれ」

既に作業と化したスライムたちのゴミ回収、エステバンと下水道管理局職員はその手際の良さに唯々感心する。


「エステバン、ちょっといいか?」

シャベルからの呼び掛けに嫌な予感が走るエステバン、下水道管理局職員は“私は何も知りません!!”と言わんばかりに後退る。

管理用通路にしゃがみ込みスライムたちが集めた“王都の落とし物”を麻袋にしまっていたシャベルは、その場にそぐわないペンダントと短剣を前にエステバンへ意見を求める。エステバンはしばらくペンダントと短剣を凝視すると首を横に振り、「ダメな奴だ」と言葉を返す。

下水道管理局職員は急ぎ両手で耳を塞ぎ、視線を巨大なビッグワームの進化体に向けると“魔物の進化は不思議だな〜”と努めて学術的興味に思いを馳せる。考えてはいけない、関心を持ってはいけない。下水道管理局職員は、この短い時間で人生の儚さと生き残る為に必要な事を学んだのであった。


「そうか、ならこちらで処分しよう」

「矢鱈なところで売りに出すなよ? 足が付くと面倒なことになるからな」

エステバンからの助言に苦笑いで返すシャベル、二人は何とも言えない表情を浮かべつつ王都の闇の深さを噛み締めるのであった。


「職員さん、排水路の問題箇所は以上でいいか?」

「はい、突然の依頼変更にもかかわらずご対応いただきましてありがとうございました。この後下水道管理局庁舎の方で先程発見された隠し部屋の報告がありますので、ご協力をお願いします」

そう言い頭を下げる下水道管理局職員の姿に、仕方がないとばかりに肩を竦めるエステバンとシャベル。

三人は互いに顔を見合わせ苦笑いを浮かべると、大きくため息を吐き地上出口を目指すのであった。


――――――――


「はぁ? 下水道通路に隠し部屋が見つかった? お前は一体何を言ってるんだ?」

その日下水道管理局所長テムズ・レイノルドは、突然現れた高位冒険者の対応に頭を抱えることとなった。

白金級冒険者エステバン、“雷剣のエステバン”の二つ名を持つ王都では知らぬ者のいない超有名人の登場に何事かと急ぎ受付ホールに駆け付ければ、金級冒険者の付き添いで下水道のスライム退治の依頼に来たと言う。


「シャベルはこれまで下水道というものを見たことがないらしくてな、下水道を詰まらせるほどスライムが繁殖する現場というものが理解できないって事で、スライム退治の依頼を受けたらしい」

確かに下水道施設のある都市は限られる。それらは王都や公爵領・侯爵領の領都といった大都市であり、伯爵領の領都になどでは地上排水路で排水処理を行う事が一般的であった。


「作業が終わったらエステバン様方を所長室にご案内してもらえるかな? シャベル様は下水道自体見ることが初めてという話だし、ぜひ感想を聞かせてもらいたい」

要は観光、下水道施設などを訪れて何処が楽しいのかとも思ったが、そうした物を見たこともない者にとっては噂でしか聞いたこともない下水道施設というものに過大な期待を膨らませてしまったのだろう。何かとんでもない事態が発生したのかと緊張していたテムズ所長は、例え金級冒険者といっても所詮は田舎冒険者とシャベルのことを内心見下しつつ、取り越し苦労であったことにホッと胸をなで下ろす。


そうと分かれば心も軽くなるというもの、この機会に王都の有名人である“雷剣のエステバン”にお近付きになり冒険譚の一つでも伺えればと、部下の一人を下水道のスライム退治依頼の見届け人として送り出したのはいいが、帰ってきた部下の口から語られた言葉はテムズ所長の予想の斜め上どころではない、理解の遥か彼方の内容のものであった。


「先ず冒険者ギルドに依頼したスライム除去作業についてですが、これ以上ない形で完遂していただけました事をご報告申し上げます。また、シャベルさんの処理能力の高さから滞っておりましたスライム除去作業予定箇所を順に回っていただき、計十二箇所のスライムを追加除去していただきました事を付随させていただきます」

「はぁ? 計十二箇所って、それは冒険者ギルドに依頼していたスライム除去作業の重点作業箇所のことか?」


「はい、あまりの作業の過酷さに敬遠されている十二箇所です。各排水路の合流地点、次々とスライムが集まってきてしまう為作業の終わりが見えないと依頼放棄が続出する重点作業箇所になります。

その為通常排水路に流れが生まれるか規定数討伐する事で作業終了とされる箇所ですが、完全な形で作業が行われたことを保証致します」

部下の言葉は信じられない内容のものではあったが、その表情からは“雷剣のエステバン”に対する忖度からくる発言ではない真剣さが伺えた。

だが次に語られた言葉は、テムズ所長を混乱の淵に落とす事となるものであった。


「それと合わせましてご報告申し上げます。三号排水路に下水道管理局の管理下にない隠し部屋と思しき施設が発見されました。内部は会議室程の広さの空間となっており、どのような目的で誰が作ったものであるのかは不明、下水道の安全確保の観点から冒険者ギルドに協力を要請し調査の上埋め戻し作業を行う必要があるものかと。

王都の安全保障という意味でも王城への報告が必要な案件であると考えます」

「・・・・・・」


それはただの観光であったはず、王都の地下下水道というものを知らぬ田舎者の金級冒険者が王都冒険者ギルドのコネを使い冷やかしに来た、それだけの話であると思っていた。


「テムズ所長、そういう訳ですまないがこの後の会談は省略させてもらえると助かる。俺も冒険者ギルドに報告を行う必要があるんでな。

それとシャベルの依頼完了証明と、追加依頼の処理を頼めるか?」

「そうですね、大変残念ではありますがそのようにいたしましょう。後程冒険者ギルドには正式に協力要請を送りますので、ギルド長によろしくお伝えいただきますようお願い申し上げます」

突如発生した予期せぬ騒動、テムズ所長は後の処理を他の部下に任せると、状況を確認する為今回シャベルたちに同行した職員と共に地下下水道へと向かうのであった。


――――――――


「エステバン、今日は色々と世話になった、礼を言う」

「ハハハ、まぁ本当に色々あったからな、その言葉は素直に受け取っておこう。また何かあったら冒険者ギルド本部に顔を出してくれ、職員の誰かに言えば俺のことは分かるはずだからな」

そう言いニヤリと笑うエステバン。都市防衛の関係上金級冒険者以上の高位冒険者の動向は冒険者ギルドの管理下に置かれており、王都冒険者ギルド本部に所属する白金級冒険者のエステバンが何処で何をしているのかという情報は、当然のように冒険者ギルド本部に把握されている。

エステバンの言葉は、暗にシャベルの情報も冒険者ギルド本部によって把握されていると伝えるものなのであった。


“コンコンコン”

「失礼致します。白金級冒険者エステバン様が戻られました」

「分かった、入ってもらってくれ」

冒険者ギルド本部受付ホールでスライム退治の依頼報酬精算を済ませたシャベルに「後の面倒事は俺がやっておく」と告げたエステバンは、シャベルを見送った後報告の為ギルド長執務室へと足を向けていた。


「エステバン、シャベルの付き添いご苦労だった。それで、スライム退治の方はどうだったんだ?」

「あぁ、まぁ何て言うか、俺の想像の斜め上とでも言うのか、とにかく凄かったな」

まるで値踏みでもするかのような表情で報告を求めるギルド長に、エステバンは肩を竦めながら言葉を返す。そんなエステバンの態度に、ギルド長は眉を顰めながら先を促す。


「先ずスライム退治だが、あれをただのスライム退治といったら、これまでの冒険者がやっていたことは何だったんだって話になっちまうな。

仮にギルド長が下水道の五百メートの範囲のスライムを排除してほしいと言われたらどうする?」

エステバンの問い掛けに“コイツは一体何を言ってるんだ?”といった訝しみの表情を向けたギルド長は、暫く考えた後に「網でも張って作業範囲を固定化した後に、範囲内のスライムを掬って細切れにするとかか?」と返事をする。


「お〜、やっぱりギルド長は俺たち一般的な冒険者とは違うわ、考えが深い。普通はナイフを括り付けた棒でスライムを適当に切り付けて弱らせてから、点検用通路に持ち上げて細切れにするんだけどな。

でもシャベルは違った、アイツ、範囲内のスライムを一瞬にして処分しちまいやがった」

「はぁ!? 一瞬にしてってそんな事できる訳が・・・」

ギルド長は咄嗟に否定の言葉を上げるも、エステバンが嘘を吐くとも思えない。そして暫しの沈黙の後、ある考えに辿り着く。


「まさか、<魔物の友>か。あのスキルであれば制限なしに<テイム>可能、確かスライムとビッグワームであれば<テイム>できると聞いていたが」

ギルド長の言葉に「お〜、流石ギルド長。王都ギルド本部で冒険者の統括業務をしているのは伊達じゃない!」と言って拍手するエステバン。そんなエステバンに「茶化すな」と苦言を向けるとギルド長は言葉を続ける。


「それじゃシャベルは排水路のスライムを広範囲に渡り<テイム>し、指定範囲から追い出したってことか」

「まぁ普通ならそう考えるよな、見た目だけならスライムがいなくなるわけだしな。ただ下水道管理局がどう考えるか、依頼はスライムの除去、横に退けただけじゃ依頼達成とはいえないだろう?」

そう言い口元をニヤけさせるエステバンに、ムッとした表情で先を促すギルド長。


「正解は下水道管理局から指定された討伐範囲のスライムを全て<テイム>した後に、従魔の特殊個体スライムに吸収させちまっただな。討伐こそしていないが、指定範囲内のスライムが綺麗さっぱりいなくなったってわけだ。依頼内容通りスライムは除去された訳だから誰も文句は言えない、あれには開いた口が塞がらなかったわ」

エステバンからの報告にギルド長はこめかみを揉みながら、“そんなこともある”とこの件を心の隅に押し流す。


「因みにそのスライム、分裂も出来るぞ? ギルド長もカッセルからの報告で知ってるだろう、“スライム使い”の二つ名の話。シャベルの話じゃ<統合>と<分裂>ってスキルだったか、盗賊冒険者をスライムで溺れさせるって言ってたな」

だがエステバンから齎された追加情報に目を見開き驚きの表情を向ける。


「エステバン、そのスライムが<分裂>するって話は本当なのか?」

「あぁ、“エステバンは俺が何で“スライム使い”と呼ばれているのか知らないだろう”って言って実演して見せてくれたんだよ。下水道管理局職員も呆気に取られていたぞ?」

“スライム使いシャベル”に手を出すな、陸の上で溺れさせられるぞ。

ダンジョン都市カッセルの冒険者の間で噂される金級冒険者シャベルの逸話が本当であったことに、ギルド長はミゲール王国の冒険者を統括する者としてどう対処していいのか頭を抱える。


「あと“蛇使い”って二つ名があるって言ってただろう、城塞都市ゲルバスでそう呼ばれているとか。その二つ名の由来になってる従魔も見せてもらったぞ? ありゃとんでもねえぞ、シャベルが言うには“進化したビッグワーム”って事だったが、俺の見立てじゃ大魔境のフォレストスネークよりヤベーな。

それが二体、あんなのを従えてるんじゃそりゃ金級冒険者にもなるわ」

そう言い肩を竦めるエステバンの言葉に途端表情を硬くするギルド長、そんなギルド長の変化に訝しみの視線を送るエステバン。


「どうしたんだギルド長、そんな顔をして。そりゃヤバい魔物を連れてるって聞いて警戒する気持ちは分からんでもないけどよ、テイマーが強力な魔物を連れて歩くのは剣士が魔剣を腰に下げるのと変わらねえだろうよ。その辺のテイマーは魔物をただ連れ歩くだけだから街の連中から警戒されちまうが、シャベルはダンジョンアイテムである従魔の指輪にしまい込んでるんだ。

周囲の人間の心情も考慮する冒険者はそうそういるもんじゃねえと思うけどな」

「・・・百六十三体だ」


「はぁ?」

「だから今エステバンが報告したフォレストスネークより危険な進化したビッグワームが百六十三体いるんだよ。シャベルって男は妙なところで生真面目でな、自身のテイムした従魔をすべて従魔登録している。スライムが二体、進化したビッグワームが百六十三体、ホーンタイガーが一体、ミミックが一体。

何をどうすればホーンタイガーやミミックがテイムできるのかは分からんが問題はそこじゃない、エステバンの話が本当だとすれば、シャベルは少なくとも大規模な傭兵団並みの戦力を有しているという事になる。これは脅威以外の何物でもないということだ」

ギルド長の言葉に「はぁ? シャベルの奴そんな力を持っていながらあれ程丁寧な仕事をするのかよ、アイツ偉ぶった態度なんかまったくしなかったぞ? むしろ俺が気付かなかったような話を色々教えてくれたくらいだぞ?」と驚きの声を上げるエステバン。

その後エステバンから下水道のスライム退治の依頼が新人冒険者の教育に繋がる話や、下水道におけるスライムの役割とスライムがいなくなった際の危険性についての話を聞き余計に頭を抱えるギルド長。シャベルがただ強力な従魔を従えただけのテイマーなどではなく、様々な発想を思いつく知恵者であることが扱いにくさに拍車を掛ける。


「あっ、最後に一つ、下水道に隠し部屋があったぞ。シャベルの従魔が発見したんだが、後で下水道管理局から正式に調査依頼が入るはずだから、そうした調査に長けた人材を押さえておいたほうがいいぞ? 具体的にはトラップや隠し扉の発見や解除を行える専門家かな? 俺にはよく分からんが、シャベルの話じゃダンジョンにある隠し部屋には大概トラップが仕掛けられているから警戒するに越したことはないってことらしい。俺の報告は以上だな」

「おい、ちょっと待てエステバン、お前たちはその隠し部屋の中を確認してきたんだろう、その報告が残っているぞ」

ギルド長の言葉にエステバンは首を傾げてから口を開く。


「そうは言ってもな、何もなかったんだからしょうがねえよ。下手に現場を荒らす訳にもいかねえし、そうしたことは専門家に任せたほうがいいだろう?」

そう言い肩を竦めるエステバン、ギルド長はそんなエステバンをジッと睨みつける。


「そうそう、ギルド長は知ってるか? スライムって奴は環境に合わせてとんでもない進化を遂げるらしいぞ。鉱山の坑道に棲む鉄を食うアイアンスライムや様々な鉱物を食べるメタルスライム、岩場で岩を食うロックスライムや切り株に擬態するウッドスライム、溶岩に棲むマグマスライムなんていう意味の分からないスライムもいるらしい。スライムって奴は環境次第で本当に何でも食っちまうもんなんだな」

「・・・そうか、報告ご苦労。お前が女の話以外をよその冒険者から教わるなんて初めてじゃないのか? まぁ勉強になったんならよかったよ。報酬は口座の方に入れておく、後で確認してくれ。下水道管理局に送る冒険者の選定はしておこう」

ギルド長の言葉に手を振りながらギルド長執務室を下がるエステバン。部屋に残されたギルド長は一度大きなため息を吐くと、机の引き出しから冒険者の資料を取り出し、該当冒険者の選定に当たるのであった。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 各ギルド長からすれば寝耳に水どころか、キンキンに冷えた氷水をぶちまけられた気分でしょうね(笑) 田舎の冒険者が3K(キツい、汚い、臭い)な仕事引き受けてくれたわ~位に待ってたら、…
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