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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第四節 再びの城塞都市、新たな旅の始まり

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第133話 旅立ち、それは突然に

シャベルが薬師ギルドのギルド長執務室でライド伯爵家のアジル執務補佐官と会談を行ってから一月、シャベルは再び監督官の下に呼び出される事となった。

監督官屋敷に着いたシャベルが通された部屋には監督官であるベルサップ・ケープ、冒険者ギルドゲルバス支部ギルド長バラニム・タイニング、薬師ギルドゲルバス支部ギルド長レザリア・ビッセン、ライド伯爵家執務補佐官アジル・ライドと錚々たるメンバーが顔を揃えていた。

シャベルは緊張した面持ちになりながらも、案内された席に腰を下ろす。シャベルの着席を確認したテネシー補佐官は各人の前に資料を配ってから話を始めるのだった。


「皆様、お忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます。本日は今後の城塞都市ゲルバスの在り方にも関わる重大な話がありお集まりいただきました。

先ず皆様にお配りいたしました資料ですが、ゲルバスの街壁南側に作られた癒し草栽培区画周辺域における魔物討伐数の推移となります。既に一月前の情報を基にアジル執務補佐官を通じライド伯爵閣下にはスライムの欠片をすき込む新栽培方法の危険性と栽培結果についてご報告申し上げてありますが、それからさらに一月の状況を観察し続けてまいりました。

結論から申し上げれば対処可能ではあるが無視できる数字ではない、これが城塞都市以外の場所で起きれば被害は甚大となる可能性が高いと言えます」


テネシー補佐官は冷静に、淡々と事実だけを述べていく。そこには下手な希望的配慮などはなく、明確に新栽培法の危険性を指摘する。


「そうですね、ここまではっきりと数字として示されてしまえば、この結果が城塞都市の位置的特殊性と言い切ることは難しいでしょう。昨年度の魔物討伐数との比較からも原因は新栽培法にあるという事は明らか、スライムの欠片を栽培地区の畑に混ぜる事で土地全体の魔力が上昇した、つまり魔物にとってより魅力的な場所へと変わったという事が証明された。

かねてより魔物が魔力豊富な土地、魔力豊富な餌を求める事は知られていましたから、それが具体的な形で立証されたと見ればなにも不思議ではない。

ただ問題はこの新栽培方法によって齎される利益です。癒し草の人工栽培の道筋が立ってしまった以上、それを隠し通せるはずもない。前回の会談でシャベル殿より提案された件ですが、ライド伯爵閣下は素晴らしい解決法であると大変感心されておりました。


ですがシャベル殿が仰るように薬師ギルドに販売目的で出されたエリクサーを引き上げてそのまま王家に献上する事は、ライド伯爵家が冒険者よりエリクサーを取り上げたとの醜聞になりかねない。そこで一度ライド伯爵家が薬師ギルドから買い上げ、改めて王家に献上する事が決定いたしました。

薬師ギルドセルロイド支部には連日エリクサーへの問い合わせは来ていましたが、分割や後払いでの購入申し込みや値下げ交渉ばかりで最初の条件とした一括払いによる買い取り申し込みが一件もなかった事から、今回の決定となりました」


アジル執務補佐官は疲れたような表情で大きくため息を吐く。薬師ギルドセルロイド支部ばかりでなくライド伯爵家にもエリクサーを引き渡すよう要請する旨の書状が多く寄せられていたことも、この決定の後押しとなっていたのである。


「冒険者ギルドとして報告いたします。監督官様からお問い合わせがあったこの二カ月の魔物納品数と冒険者たちに対する聞き取り調査によって分かった魔の森の変化ですが、癒し草栽培区画で本格的に新栽培方法が始まった二カ月前からの魔獣の納品数に大きな変化は見られませんでした。

魔の森に関しては南側浅部の魔獣に活性化の兆しが見られるもののスタンピードを起こす程の大きな変化ではなく、冒険者ギルドとしては魔の森と城塞都市を隔てる草原地帯が魔の森内部と変わらない状態となったのではないかと推察しております。


懸念材料として考えられるのはファイヤーバードのような鳥系魔物に関してですが、あれらは癒し草には見向きもしませんので問題ないかと。この事は昨年シャベルが草原地帯における作物栽培の実験を行った際に明らかになっております。

他はマッドモンキーのような壁をよじ登る可能性のある魔物ですが、栽培区画周辺の塀に沿って設置された堀により防げているものかと。この事は資料にあります堀で討伐された魔物の種類と個体数の調査結果からお分かりになっていただけるものかと」


バラニムギルド長は今後とも栽培区画周辺部の魔物狩りを継続することが安全性確保には必要としながらも、管理維持は容易であると述べ報告を締めくくるのであった。


「薬師ギルドから申し上げます。栽培区画における本格的な新栽培方法の導入によりポーションEXの定期的な製造に目途が立ちました。これにより城塞都市ゲルバスの独自商材としてポーションEXを商業ギルド経由で販売することが可能となりました。

今後の課題としてはスライムの欠片を安定的に確保する方法の確立です。スライムはどこにでもいる魔物ではありますが、定期的に使用するとなればその確保が重要となります。王都や領都のような大都市では下水道などに大量繁殖していますが、城塞都市ゲルバスのように無駄なく都市構成が行われている街に於いてスライム繁殖の余地は少ないかと。

現在は魔の森浅部や都市周辺の草原地帯で捕獲していますが、今後の定期的な使用を考慮し、排水施設を利用したスライム繁殖計画を提言いたします」


都市計画に組み込んだスライムの繁殖、これまで厄介者とみられていた溝川(どぶがわ)が、別の意味で都市の根幹になろうとしている。シャベルは嘗てスコッピー男爵領で“溝浚(どぶさら)い”と呼ばれ宿泊や店での食事はおろか買い物すら拒否された時の事を思い出し、“人や状況の違いでここまで事態が変わるものなのか”と複雑な気持ちを抱かずにはいられないのであった。


「皆、報告ご苦労。城塞都市ゲルバスの現状は皆にも共有できたものかと思う。問題は今後の動きであるが、シャベル殿にはライド伯爵閣下と共に王都に向かっていただきたい。

シャベル殿の懸念したようにライド伯爵家に対する各貴族家からの圧力は日増しに高まっている、これは城塞都市ゲルバスに於いてポーションEXの生産が安定的に行えることになった現状も大きく影響しているのだろう。

貴族の利益に対する嗅覚は鋭い、城塞都市ゲルバスの成功は各貴族家の嫉妬心を大きく搔き立てている事だろう。残念ながら醜く欲深な姿も貴族の本質であるゆえにな。

そうした状況に於いて王家に権利を献上し改めて王家から許可をいただいて癒し草栽培を行うというシャベル殿の発想は、秀逸と言わざるを得ん。他貴族も王家の前では何も言えんだろうしな。

シャベル殿、頼まれてくれるだろうか?」


冒険者は自由の民である、その行動はたとえ貴族であろうとも縛る事が出来ない。ましてや相手は都市発展のため私財をなげうち癒し草栽培の研究を行い成果を上げた功労者、ポーションEX製造というあらたな産業をもたらした救世主。城塞都市ゲルバスだけでなくライド伯爵領としても無下にすることの出来ない人物。


「はい、もとはといえば王家に癒し草の栽培方法を献上すべきであると言ったのは俺です。そのために動くことに何の躊躇もありません。

ここ城塞都市ゲルバスは俺たちテイマーを受け入れるだけでなく都市の一員として認めてくれています。これはよそでは見られないこと、比較的テイマーが生活し易いとされるダンジョン都市ですら、テイマーは外れ職、お荷物として見られていましたから。

場所によっては忌避の対象にもなりかねない、それが魔物を武器とし魔物と戦うテイマーという存在です。


現在冒険者ギルドではテイマーへの従魔の指輪の貸し出しを通じ、城塞都市におけるテイマーの地位向上を目指しています。テイマーにとって魔物とは相棒であり武器です。村や街の中で冒険者が剣を抜き身で歩いていれば周囲から人は遠ざかります、同様に人にとって脅威となる魔獣を連れて歩けば人から忌避されるのは道理。

剣は鞘に納めるべきであり、従魔にとっての鞘が従魔の指輪となります。

今回の件で城塞都市ゲルバスが今まで以上の発展を遂げその噂を聞き付けた志あるテイマー冒険者が増えれば冒険者ギルド並びに城塞都市ゲルバスの力となってくれることでしょう。

確かにテイマーだけでは魔の森深部の探索は難しい、ですが中部までの探索であれば問題なく行えるだけでなく、丁寧な仕事を行うと解体所の評判も上がっていると伺っています。

この流れをより確かなものとするために俺に出来ることがあるのであれば、喜んで力を尽くさせていただきたいと思います」


シャベルの言葉に満足げに頷くベルサップ監督官とアジル執務補佐官。その後今後の予定が話し合われ、シャベルは二日後アジル執務補佐官と共に領都セルロイドのライド伯爵の下に向かう事が決定したのであった。


――――――――――――


「すまん、皆話を聞いて欲しい」

冒険者の宿“鷹の爪”、金級冒険者パーティー“魔物の友”の定宿であるそこの食堂では、リーダーであるシャベルがパーティーメンバーのクラック、ジェンガ、メアリーを集め、今後の活動についての話し合いを行っていた。


「皆にはすでに話しておいたことだが、俺がライド伯爵様のお供として王都に向かう事が正式に決定した。これは城塞都市ゲルバスにおける癒し草栽培を国として正式に認めさせることに必要な事であり、他貴族のライド伯爵家に対する干渉をやめさせるための措置となる。

皆には迷惑ばかりかけて申し訳ないが、了承してほしい」

シャベルはパーティーメンバー一人一人の顔を見てから深々と頭を下げる。パーティーリーダーとは名ばかりに自分勝手に動くことに罪悪感を感じつつ、少しでも皆のためになることはないかと頭を働かせる。


「頭を上げろ、シャベル。シャベルが俺たちテイマーや城塞都市の冒険者のために奔走しているってことは知ってるから安心しろ。

近頃はポーションばかりかハイポーションの代わりになるポーションEXが定期的に店に並ぶようになって、今まで以上に安全に魔の森の探索が出来るようになった。

これは全てポーションの供給体制確立に尽力してくれたシャベルのお陰だ。シャベルが城塞都市に来る以前は、ハイポーションはおろかポーションを手に入れる事すら苦労していたんだ。そのころに比べたら天国みたいなもんだ」


「そうね、前なんかポーション類は前線に向かう冒険者パーティーに優先的に売られていて、私たちテイマーや補助職の冒険者には碌に回ってこなかったんだもの。その頃に比べたら雲泥の差よ。

それに従魔の指輪がテイマー仲間にも浸透したおかげで、街の中でのテイマーに対する忌避感はほとんどなくなったと言っていいわ。冒険者ギルドでのテイマー講習会も順調で、自身の従魔と真摯に向き合う事が結果的に高い収入につながるという考えが浸透し始めているわ。

もっとも去年共にスタンピードを乗り越えた連中は、言われるまでもなく棍棒を持って従魔と共に戦っていたんですけどね。私たちの訓練方法を参考により自身の従魔との連携を深めていってるわね」


クラックとメアリーの報告に、自身の試みが城塞都市で着実に実を結んでいるとほほを緩めるシャベル。


「それでリーダーはどうするんだ、ライド伯爵様のお供ってことは自分の馬車で向かう訳じゃないんだろう?」

「あぁ、移動はライド伯爵家の用意した馬車に乗り込むこととなる。王都までの移動となると往復で二か月以上になるからな、宿は引き払って、牽き馬の日向は従魔屋で預かってもらおうと考えている」

シャベルの言葉にそうなるだろうなと頷くパーティーメンバーたち。


「それと魔の森の癒し草畑をどうするかだな。一応この二か月の栽培実験の結果は薬師ギルドに報告してあるし役割は果たしたと言えるんだが、せっかく作ったのに放置っていう訳にもな。もしよかったらお前たちに」

「「「イヤイヤイヤ、魔の森で畑を維持できるのはシャベル(リーダー)だけだから、俺たちには管理できないから」」」


「そうか? 管理自体はアーマービッグワームたちが行ってるし、皆には癒し草の収穫だけでも」

「「「畑に辿り着くのが大変だから、魔の森中部でも北の森は魔獣の数が多すぎるから。確かに冒険者は近寄らないけど、それって厄介な森だから行かないってだけだから」」」


パーティーメンバー全員に突っ込みを喰らい残念そうにするシャベル。

「しようがない、畑の皆には明日話をして撤収するか」と呟くシャベルに、“魔の森中部でそんな事が出来るのはシャベル(リーダー)だけだから!!”との突っ込みをグッと堪える、パーティーメンバーたちなのであった。


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