表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第四節 再びの城塞都市、新たな旅の始まり
120/122

第120話 久し振りの笑顔、それは仲間の思い

冒険者ギルドゲルバス支部でダンジョンドロップアイテムのオークション出品手続きとアーマービッグワームたちの従魔登録を行ったシャベルは、冒険者ギルド受付で聞いたクラックからの伝言、“俺たちは全員無事だ、冒険者の宿“鷹の爪”に滞在している。時間が出来たら顔を出して欲しい”との言葉に従い、幌馬車を冒険者の宿“鷹の爪”へと向けるのだった。


「いらっしゃい、一人かい?」

受付カウンターに座っていたのは元冒険者であろう偉丈夫の男性。シャベルは十日間の滞在と馬小屋の使用を頼むと、早速クラックたちの事を聞いてみるのだった。


「ところでご主人、この宿に冒険者パーティー“魔物の友”のクラックが滞在しているはずなんだが、もう戻ってきているか? 冒険者ギルド受付で伝言を聞いてな、宿に訪ねて来て欲しいとの事だったんだが」

「あぁ、クラックたち魔物の友はまだ戻ってきてないな。アイツらはテイマーだから一度従魔屋に寄る必要もあって、いつも帰りは遅いんだ。

何でも従魔との交流を深める事でより連携の取れた動きが出来るとかで、いつも熱心に頑張ってるみたいだ。

で、伝言を聞いてクラックを訪ねてきたって事は、あんた、もしかして“蛇使いシャベル”か? ダンジョンで行方が分からなくなったっていう」


シャベルは宿屋主人の言葉に苦笑しつつ、「あぁ、俺が“蛇使いシャベル”だ」と言葉を返すのだった。

シャベルは宿の外に停めてある幌馬車から日向を外し宿屋の厩に預けると、カバン型マジックバッグに幌馬車を収納し、宿屋主人に「少し出掛ける、夕飯時には戻る」と声を掛け宿を後にする。

道すがら方々を見回しては懐かしさを感じるシャベル。スコッピー男爵領マルセリオの街では感じたことのない“帰ってきた”という温かな思いが、胸の中にじんわりと広がっていく。


「こんにちは、よろしいでしょうか?」

「は~い、ちょっと待ってくださ~い。はいはい、おまたせしました。本日は買い取りで? 獲物はどういった・・・ってシャベルさんじゃないですか、いつ城塞都市に戻られたんですか?」


宿屋を出てシャベルが向かった先はクラック精肉店の店裏にある買取カウンター、この城塞都市ゲルバスで誰よりも世話になった店主ヤコブ・クラックの下であった。


「はい、丁度今日到着したばかりでして、先程宿屋を取って落ち着いたのでご挨拶に。ところでヤコブさんはおられますでしょうか?」

そう言い丁寧な言葉遣いで話し掛けるシャベルの姿に“金級冒険者になって一年近く経つのに、シャベルさんは変わらないな”とどこか懐かしい気持ちになる店員の男性。


「ちょっと待ってください、表の店にいると思いますんで、今呼んできます」

「あぁ、それじゃ中で待たせてもらってもいいですか? 久し振りに“肉丸”君と“骨丸”君にも会いたいんで」


「どうぞどうぞ、あの二体なら食品廃棄物集積場で今日の分の骨や内臓を食べてるところですから。最近じゃ食品廃棄物が溜まる事がなくなって、あそこはすっかり二体の棲み処になってますけどね。

そうそう、スライムたちも元気ですよ。スライムは別の従業員が管理してるんですけど、俺が肉丸と骨丸のテイムに成功した事に対抗心を燃やしちゃって。どうやったらテイム出来るのかしつこく聞いて来るものだから、前にシャベルさんに聞いたスライムに魔力水をあげていたって話や毎日スライムに語り掛けていたって話を教えたら実行したみたいで、見事テイムに成功したんですよ。

今じゃスライムたちもすっかりお客さんの人気者になってるんですよ」


そう言い表の店に走っていく男性店員。シャベルは底辺魔物と蔑まれていたスライムやビッグワームが城塞都市において住民に受け入れられていると知り、嬉しそうに顔ををほころばせる。

“スライムやビッグワームが受け入れられてくれば、他の従魔たちもすこしずつ受け入れられるはず。城塞都市は魔物との距離が近いからか他の街よりも魔物に対する忌避感が薄い。

城塞都市がテイマーにとって過ごし易い街になれば”


テイマーは不遇職である。魔物という人々から忌み嫌われる生き物を味方とし、同じ魔物に対抗する職業である。強い魔物と戦うためにより強い魔物を求める、活躍すればするほど周囲から孤立し忌み嫌われる存在となる。

シャベルはこれまでの自身の経験から、テイマーに対する偏見や忌避感は決してなくなる事はないだろうと半ば諦めていた。

だがこの街は違う、城塞都市ゲルバスは魔物を受け入れ魔物を生活に取り込む事で、より快適な街に生まれ変わろうとしている。

自身は何もすることが出来ない弱い存在である、だが自ら変わろうと足搔く城塞都市の人々に少しでも恩返しができるのなら。

シャベルは城塞都市の人々に出会えたことを女神様に感謝し、自身に一体何が出来るのかを考え続けるのだった。


「シャベルさん、よかった、無事だったんですね。ダンジョンで行方知れずになったと聞いた時は本当に心配したんですよ、こうして元気なお姿を見る事が出来て、本当によかった」

そう言いシャベルに抱き付き背中をバンバン叩くヤコブ。シャベルはその熱烈な歓迎に驚くも、自身がそれだけヤコブに心配を掛けてしまったのだと申し訳ない気持ちで一杯になる。


「ヤコブさん、ご無沙汰しております。その節はヤコブさんをはじめ多くの方々にご心配をお掛けしたようで、本当に申し訳ありませんでした。

何とか無事にダンジョンから戻ってくる事が出来ました」

「いや、いいんですよ、こうして元気な姿で訪ねてきてくれたんですから。色々お話もお聞きしたいですし、どうぞ建物の中へ」


満面の笑みでシャベルを歓待しようとするヤコブ、そんなヤコブの態度に頬が緩むのを止められないシャベル。


「あっ、はい、是非伺わせて頂きます。ですがその前に紹介したい家族がいまして。<オープン:白銀>」

シャベルは引っ張ってでもシャベルを連れて行こうとするヤコブを手で制し、左手を突き出して解放の呪文を唱える。


「「おぉ~~~~~~」」

光を放つ指輪、照らされた地面に現われる一体の魔獣。美しく輝く銀色の体毛、額から伸びる大きな角、それは紛れもない強者の証。


「ダンジョンの宝箱で手に入れた卵から生まれたシルバーホーンタイガーの白銀です。白銀、お二人にご挨拶を」

シャベルに言葉を向けられた白銀は、きりっとした表情のままお座りの姿勢を取ると、“ガウッ”と一声鳴いてからぺこりと頭を下げるのだった。


「おぉ~、なんて賢い、それになんと精悍な顔つき。白銀君といったね、私はクラック精肉店を営むヤコブ・クラックといいます。ご主人のシャベルさんにはとても世話になったんだよ、どうぞよろしく」

身を屈め挨拶をするヤコブ。すると耳をピクピクッと動かした白銀がスクリと腰を上げ、ヤコブの前に移動するや身体を横に向け、伏せの体勢で地面に座り込む。


「シャベルさん、これは?」

「はい、どうやらヤコブさんの事が気に入ったようで、背中を撫でてもよいという事のようです。よろしければ撫でてあげてください、とても滑らかな肌触りで気持ちいいですよ?」

突然の事に戸惑うヤコブ。ヤコブはシャベルからの勧めに従い恐る恐る白銀の背中に手を伸ばす。


“サワッ、サワサワッ、フワッ”

「おぉ~~~~~、これは何とも心地よい。私はこれまでここまで肌触りの良い魔獣の肌に触れたことがない。極上とはこういう事を言うのか、何と素晴らしい」


あまりの触り心地の良さに口元を緩め感想を口にするヤコブ。その後ろでは男性店員が「ヤコブ店長、次俺ですよ、俺。早く代わって下さい!!」と声を荒らげる。


「あの、シルバーホーンタイガーは誇り高い種族ですから、ちゃんと白銀に許可を貰ってからにしてくださいね。ホーンタイガー種は大森林の中層から深層にかけて生息するといわれる種族です。当然その強さは桁違いで、この白銀も単独で魔の森深部に入ってオーガキングを狩って帰ってくるくらいの実力があります。無理強いはそんな魔物を敵に回す行為だと心置き下さい」

シャベルの言葉に途端ビクリと身を震わせるヤコブ。男性店員も反射的に伸ばした手を引っ込める。

そんな人間たちの動きを察したのか、ムクリと立ち上がりシャベルの足下に移動する白銀。


「そうそう、そうじゃないんですよ。白銀を紹介したのには訳がありまして、白銀、オークキングの肉を出してくれるかい?」

“ガウッ”


シャベルの言葉に一声鳴いて応える白銀、すると地面の上に何処からともなく肉の塊が現れる。


「「えっ!?」」

「あぁ、すみません、何か布を敷いておけばよかったですね。気が利かず本当に申し訳ない」

突然の事に驚くヤコブたちに対し、何か的はずれな事を謝罪するシャベル。


「いえ、その、この肉は一体・・・」

「はい、ダンジョン第四十五階層のオークキングのドロップアイテムになります。あそこはオークキングが率いる軍隊と戦う階層でして、結構な数のオーク肉がドロップしたんですよ。これはその中の一つですね、白銀が<収納>のスキルを持っているので保管してもらっていたんです。

ヤコブさんには大変お世話になりましたんでお土産にと思いまして、精肉店のヤコブさんに肉のお土産というのもどうかとは思ったのですが、ダンジョン深層域の肉は中々流通しないと聞きまして。あぁ、白銀の<収納>は一般的な<収納>のスキルと同じで中のものが腐ったりしませんから安心してください」


そう言い笑顔で“どうぞお持ちください”と声を掛けるシャベル。ヤコブは収納のスキルを持つシルバーホーンタイガーの白銀に驚けばいいのか、ダンジョン深層である第四十五階層のドロップアイテムであるオークキングの肉に驚けばいいのか、そんなとんでもない場所から生還を果たしたシャベルに驚けばいいのか、混乱する情報に頭を抱えざるを得ないのだった。


“ジュ~~~~~~~”

クラック精肉店の裏庭に響く肉の焼ける音、立ち昇る香りが鼻孔を擽り、内なる獣を呼び覚ます。


「いや~、しかしダンジョン深層である四十八階層に落とされて、そこから一人で帰って来られるとは。運がいいのか悪いのか、本当によく無事で帰ってこられました」


シャベルがやヤコブにお土産と言って渡したオークキングのドロップアイテムである肉の塊は、とてもではないがヤコブ家族で食べきれる量ではなく、その場に従業員である男性店員もいたことから店の者全員でいただこうという事になった。

当然そこにはシャベルも呼ばれ、店の者たちは初めてダンジョン深層のオーク肉を食べる事となったのだが。


「何だこれ、口の中一杯に旨味と肉汁が!!」

「溶ける、溶けちまうよ、こんなの肉じゃねえ、味の暴力じゃねえか!!」

「旨い、以前ミノタウロスの肉を食べたことがあったがそれに匹敵する旨さ? いや、このとろけるような歯触りはまた別もの。これは好みによるか、甲乙つけ難い」

量産される肉の評論家たち、彼らは一様に称賛の声を上げながらも、自らのこれまでの経験と照らし合わせああでもないこうでもないと議論を交わす。


「ありがとうございますヤコブさん。それにこのような食事の席に私まで参加させていただいて。

しかし流石はクラック精肉店、魔物肉の専門家だけあって絶妙な焼き加減が素晴らしい。私はダンジョン内で何度もドロップアイテムのオーク肉を焼いて食べましたが、これ程の美味しさを引き出す事が出来なかった。

いやはやこれが本職と素人の差なのだと思い知らされた気分です。ヤコブさんには感謝しかありませんよ」


進むフォーク、消える肉。シャベルは生きてこの街に戻る事の出来た幸せを、心の底から噛み締める。


「あぁ、もう肉がなくなってしまいましたね。オークキングの肉には劣りますがオークソルジャーの肉を出しましょう。それとこちらの塩を使ってみてください、これもダンジョンで手に入れた物で、オーク肉との相性が凄く良いんですよ」

「「「「「ありがとございますシャベルさん、ご馳走になります!!」」」」」

盛り上がる食事会、酒など要らない、ただ肉があればいい。シャベルとヤコブの再会は、多くの従業員に祝福されながら夜遅くまで続いて行く。


「親父さん、シャベルが顔を出したって本当か?」

「あぁ、何でも冒険者ギルド受付で伝言を聞いたとかで、お前たち“魔物の友”の事を聞いていったよ。いつも帰りは遅くなるって言ったら少し街に出るって言って出かけていったか。夕飯時には戻るような事を言っていたぞ」


「ありがとう親父さん、そうか、シャベルが帰ってきたのか」


宿でシャベル帰還の知らせを聞いた金級冒険者パーティー“魔物の友”のパーティーメンバーたちが、気もそぞろにシャベルの帰りを待っている事など、全く気付く事も出来ないまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ