第118話 冒険者ギルドの滞在報告、それは金級冒険者の努力義務
城塞都市ゲルバス、そこは力ある多くの冒険者が一攫千金を求め魔の森の深部に挑む、冒険者の最前線。
その活動の中心である冒険者ギルドは魔の森の深部方面に接する東門脇に置かれ、日々命懸けの探索から帰って来る冒険者たちを迎え入れている。
「じゃあなシャベル、この大剣は大切に使わせてもらおう。ダンジョン産ドロップアイテムの大剣、これでまたこのケスガの伝説が増えてしまうな。
でも安心してくださいケイティーさん、あなたのケスガは常にケイティーさんの事を想っているのですから。ワッハッハッハッハッ」
西門から冒険者ギルドまでの道すがら、幌馬車の御者台で最近の城塞都市の様子をケスガから聞いていたシャベルではあったが、その会話の八割方をケイティーの近況について聞かされるとは思ってもいなかった。
それはそれだけケスガがケイティーを大切に思っている証左でもあり、喜ばしい事ではあるのだが、さすがに疲れたと思ってしまった事は致し方のない事であろう。
冒険者ギルド前の停車場に幌馬車を止め、ケスガと別れたシャベル。早速とばかりに近くの酒場に大剣を自慢しに向かうケスガの姿に苦笑しつつ、ギルド受付ホールに足を運ぶ。
ここは城塞都市ゲルバス、冒険者たちは魔の森に獲物となる魔物を狩りに入る狩人であり、日々の糧を魔物狩りで賄っている。
その為冒険者ギルド受付ホールの依頼ボード前に冒険者が鈴なりになるという事もなく、あるのは魔物買い取り価格表といったものが主となる。
それでもどうしても欲しい魔物素材がある商人からの依頼はあるもので、そうしたものは依頼として優先的に高額取引されるようにはなっているのだが。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドゲルバス支部へようこそ。本日はどのようなご用向きでしょうか」
そうした事情からここゲルバス支部の受付ホールの主な業務は、建物を別とした解体所受付の魔物買取査定を受けた冒険者が買い取り金の受け取りに来ることであり、時間の掛かりそうな一般受付とは別に買い取り金受け取りの為の窓口が複数用意されている。
「街を移動したんでな、滞在報告とギルド長に面会できればと思ったんだが」
そう言い自身の金級冒険者ギルドカードを受付カウンターに差し出すシャベル。ダンジョン都市の冒険者ギルド受付で初めて知った金級冒険者の移動の際の報告義務。“ダンジョン都市に向かった際はパーティー申請の関係で直ぐに冒険者ギルドに向かったため何も問題なかったが、これからは意識して冒険者ギルドに顔を出す必要があるな”とため息を吐きつつも気を引き締める。
「はい、金級冒険者シャベル様、確認が終了いたしました。
シャベル様宛に金級冒険者パーティー“魔物の友”のパーティーメンバー、クラック様より伝言をお預かりしております。
“リーダー、生還おめでとう。俺たちは全員無事だ、冒険者の宿“鷹の爪”に滞在している。時間が出来たら顔を出して欲しい”
以上となります。ギルド長に関してはこれより確認してまいりますので、この番号札をお持ちになりあちらの席で今しばらくお待ちください」
そう言い受付カウンターを離れる受付嬢。シャベルがその場を離れ指定された席に向かうと、先ほどまでの受付カウンターには別の受付嬢が座り、次の来客を相手に受付業務を行っているのだった。
“コンコンコン”
「失礼します。ギルド長、金級冒険者のシャベルさんをお連れしました」
待つこと暫し、席に迎えに来た受付嬢に連れられ向かった先は、以前城塞都市滞在中に何度か入った事のあるギルド長執務室。
「ご苦労、入ってくれ」
“ガチャリ”
開かれた扉、執務室内にいた人物は冒険者の最前線と呼ばれる城塞都市において荒くれどもを押さえ統率する偉丈夫。
「おぉ、シャベル、話は聞いている。ダンジョン都市カッセルじゃ何かと大変な目に遭っていたそうじゃないか。
第十八階層隠し部屋での罠、床ごと落されてよく無事に生きて帰ってこれたもんだ。もっともお前さんのところ、“魔物の友”の連中はお前さんが無事に戻って来る事を微塵も疑っちゃいなかったがな。
普通はどう考えても死んだと思うような状況なんだが、えらく信用されてるんだな」
ギルド長から伝えられたパーティーメンバーの様子に、思わず口元を緩めるシャベル。どのような形であれこれ程までに信頼されて、嬉しくない訳がない。
「お久しぶりです、バラニムギルド長。この度はご心配いただきありがとうございます。
先ほど受付で“魔物の友”のパーティーメンバーからの伝言を聞きました。皆の無事が確認でき俺もホッとしています。
ダンジョン都市ではそれ程に多くの盗賊冒険者どもから命を狙われていましたから」
そう言い肩を竦めるシャベルに、苦笑いしか返せないバラニムギルド長。
「いや、これは言い訳にしかならんが冒険者ギルドとしてもダンジョン都市の現状を改善しようと日夜努力はしているんだ。だが如何せんなかなか成果がな。
被害に遭ったシャベルにこんな事を言うのもなんだが、カッセルの冒険者ギルドの事はあまり恨まないでやって欲しい。彼らも必死なんだ」
そう言い深々と頭を下げるバラニムギルド長に、今度はシャベルが苦笑いになる。
「いや、俺はカッセルの冒険者ギルドを恨んだりはしていない。彼らがいなければあの街は途端秩序の失われた無法地帯となる。監督官も、薬師ギルドも、カッセルの街の多くの者が街の平穏を願い日々努力を積み重ねている事を、俺は知っている。
しかし人の欲望というもの、嫉妬や僻みというものはどうしようもない。ダンジョンというただでさえ人の欲望を刺激する場所においては、そうした人の醜い心がより顕著に表れてしまう、そういう事なのだろう。
ダンジョンは人の欲望を糧に成長するという話を解錠屋の老人に聞いた事がある。ダンジョンはまさしくそういう場所であったという事なんだろう」
そう言い肩を竦めるシャベル。シャベルは一体ダンジョンでどれ程の経験をして来たのか、シャベルのどこか人生を達観したような物言いに、しらず眉間に皺の寄るバラニムギルド長。
「まぁその話はひとまずいいだろう、今はシャベルが無事に生還した事を喜ぼう。それで俺のところに顔を出したって事は何か話があっての事なんだろう?」
バラニムギルド長の促しに漸く本題に入る事の出来たシャベルは、マジックバッグから一本の大剣を取り出した。
「これはダンジョン第四十八階層のドロップアイテムの大剣だ。他にも宝箱から出てきた武器を複数所有している。
だが知っての通り俺たち“魔物の友”はテイマーでな、正直宝の持ち腐れなんだ。その点この城塞都市にはこうした武器や防具を必要としている冒険者が大勢いるだろう?
まぁ街の武器屋に持ち込んでもいいんだが、どうせなら冒険者ギルドに預かってもらってオークションでも開いて貰った方が皆が喜ぶと思ってな。
カッセルの冒険者ギルドで買い取ってもらっても良かったんだが、ダンジョン深層のドロップアイテムなんて事になったら余計な騒ぎに巻き込まれること請け合い、ソロ状態の俺では命がいくつあっても足りなかったからな」
そう言い肩を竦めるシャベルに、納得といった表情になるバラニムギルド長。ダンジョン深層の宝箱のドロップアイテムを巡り殺し合いに発展する事がダンジョン都市の日常であることは、城塞都市のギルド長であるバラニムでも周知の事実なのであった。
「分かった、その件は冒険者ギルドゲルバス支部が責任を持って引き受けよう。オークションの売り上げは出品者であるシャベルが七割、冒険者ギルドが一割半、領主であるライド伯爵家が一割半の取り分となる。
この点は王都のオークションでも同様だ、了承していただきたい。
品物に関しては後程査定職員が確認するものとする、物がダンジョンの宝箱からのドロップアイテムだからな、鑑定にしばらく時間がかかる事は覚悟して欲しい」
バラニムギルド長はそう言いながらも、不意に舞い込んだ儲け話に喜色を浮かべる。
「それともう一つ、新しく従魔を手に入れてな、その従魔登録を頼みたいんだが、知っての通り俺はスキル<魔物の友>を持っていてな、言いずらいんだが少しばかり数が多いんだ」
そう言い申し訳なさそうに頬を掻くシャベル。
「あぁ、そう言えばシャベルは大きなビッグワームを従えていたんだったな。
そうか~、増えちゃったか~。まぁいい、それも含め話を通しておこう。どのみち査定は解体所で行う事となる、その時にでも一緒に従魔登録を行う事としよう」
バラニムギルド長の言葉に笑顔で手を差し出すシャベル。
シャベルはバラニムギルド長のお陰で心に残っていた心配事が解決しそうだと、心底ほっとした表情で握手を交わすのだった。
―――――――
「それでシャベル、査定するっていうドロップアイテムはどれになるんだ?」
冒険者ギルドゲルバス支部の道を挟んだ向かいにある解体所建物、その奥の倉庫区画で査定を行う事になったシャベルは、査定職員とバラニムギルド長が見守る中、マジックバッグからダンジョンドロップアイテムを取り出していた。
「これは、“オーガキングの大剣”に“オーガキングの外套”、“オークキングの破城槌”だと!? “オーガジェネラルの槍”って、シャベルは一体どこでこれ程の物を」
「あぁ、この場なら別にいいか。第四十五階層から第四十八階層にかけてだな。第四十七階層は生き残るのに必死過ぎて大したドロップアイテムもないが、ミノタウロスの落とした両刃斧があったはずだ。革は使う予定があるので出せないがな。
そうだ、香木なんかは冒険者ギルドか? それとも商業ギルドか?
その辺の判断がよく分からないんだが」
シャベルの言葉に“何の事だ?”といった顔になる査定職員とバラニムギルド長。
「あぁ、これは見てもらった方が早いか。天多、“ワイバーンの巣”を取り出してくれ」
シャベルの言葉にピョンピョンと飛び跳ねた天多がグングン大きくなり、その身体から幌馬車三台分以上はあろうかという大きな鳥の巣を取り出すのだった。
「こ、これは・・・」
バラニムギルド長は目の前に現れた巨大なワイバーンの巣に驚けばいいのか、そんなワイバーンの巣をその身から取り出した大きさを自在に変えるスライムに驚けばいいのか、目を白黒させながら口を開く。
「あぁ、俺はあまり詳しくはないんだが、この巣に使われている木々は全て香木と呼ばれるものだろうな。
香木は香りが特徴的でな、俺も薬師ギルドの資料でしか知らないんだが、貴族や金持ちの商人には随分と人気らしい」
「ほ、本当だ。バラニムギルド長、これ、最高級の香木ですよ。
オークション価格とはなりますが、この原木一本で王都に屋敷が建ちますよ。それがこれだけの量って、一体どれほどの金額になるんだか・・・」
あまりの光景に開いた口が塞がらなくなる査定職員。
「・・・シャベル、悪いがコイツはゲルバス支部の手に余る。これは王都のオークションじゃなけりゃ捌けない代物だ、悪いが仕舞っちまってくれ。何なら後で王都のギルド本部宛ての紹介状を書こう、それを持って行けば王都のオークションに掛けてくれるはずだ。
ただその時は天多から出すのは止めておけよ? あの光景は天多の事を知らない奴には刺激が強過ぎる。この俺ですら一瞬このスライムをどう利用しようかなんてことを考えちまったくらいだ、他の連中がどう動くかなんて分かったもんじゃねえ」
そう言いシャベルに注意を促すバラニムギルド長の言葉に、やはり城塞都市の人々は信用が置けると、改めてこの街の素晴らしさを実感するシャベル。
「そうか、忠告感謝する。実は後でパルムドール魔道具店に大型マジックバッグの作製依頼に行くつもりでな、完成したらそっちにでも移しておくことにしよう。
それと残りのドロップアイテムなんだが」
シャベルはそこで言葉を切ると、懐から細長い木箱を取り出し床に置くのだった。
「ボクシー、大型宝箱体型」
“ガバガバガバガバガバガバ”
シャベルの言葉に反応し、ガチャガチャと姿を変えていく箱。
変形が終わった時、そこに現れたのは腰の高さほどもある大きな宝箱。
“カパッ”
開かれた上蓋、シャベルは宝箱に手を入れると、剣や盾、鎧や補助用のアクセサリーらしき宝飾品類、魔道具のような品々を次々と取り出すのだった。
「「シャ、シャベル、それは・・・」」
「あぁ、こいつは俺の従魔でミミックのボクシー。宝箱を取り込むことで中の品物を罠に関係なく取り出す事が出来るという特技があってな。見つけた宝箱は碌に中身を確認せずにすべて取り込んで貰っていたんだ。
ん? なんだこれ? どこかで見たことがあるような気がするんだが・・・」
シャベルはそう言い黒縁に二枚のガラスが嵌まった道具をしげしげと眺める。
「シャベル、それは“鑑定の眼鏡”だ。凄いお宝だぞ、商人どころか大手ギルドのどこでも喉から手が出るくらいに欲しがる品だ。当然うちも欲しい」
「・・・すまん、これは俺も欲しい。そうか、これで鑑定が出来るのか。“オーガキングの大剣”、重量があり丈夫、使用時に<重撃>の効果を齎すって、スキルの効果もあるのか。
これって所謂魔剣って奴か? しまったな、さっきケスガにあった時ケイティーと一緒になったと聞いて祝いに一本あげちまったぞ。
まぁ今更か、これからのケスガの活躍に期待しよう」
そう言い肩を竦めるシャベルに、呆れた表情を向ける査定職員とバラニムギルド長。
「さ、さ~て、どんどんいこうか」
シャベルはそんな二人の視線を誤魔化すように、ボクシーから次々とドロップアイテムを取り出していくのだった。




