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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第四節 再びの城塞都市、新たな旅の始まり
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第117話 再びの訪れ、城塞都市ゲルバス

“““スルスルスルスルスルスルスル”””

星々の煌めく真夜中の街道を、三体の巨大な蛇型の魔物が音もなく進んでいく。そんな魔物たちに守られるかのように、彼らの中心を行くフードを被った一人の男性。その服装から冒険者であろうことは分かるものの、魔物の危険性の増す深夜に街道を進む冒険者など、余程すねに傷を持つ者かあるいは相当の訳アリか。

男性は特に焦りを見せるような雰囲気ではないものの、その歩みを緩めようとはしない。

只管真っ直ぐ、少しでも早く。男性は明確な意思の下暗闇の街道を歩き続ける。


普通に考えればそのような不用心な者を夜の魔物たちが見逃すはずもなく、草原を渡るグラスウルフや森をいくマッドボアが襲いそうなものではあるが、男性に気が付いた魔物たちは気配を殺し傍に近付くや、途端何かに気が付いたかのように踵を返す。

魔物達は気配に敏感である、魔物たちは彼我の力の差を誤らない。

男性を守る強大な気配、巨大な蛇型魔物たちの放つ存在感が、夜の魔物たちを男性から遠ざける。


男性は進む、星々の煌めく真夜中の街道を目的地に向かって。

懐かしの顔、大切な仲間たちに会うために。


ダンジョン都市カッセルでの用件を済ませたシャベルは、冒険者ギルドでの用事を終わらせた後、その足で東門を抜け旅の人となった。

冒険者ギルドに顔を出した以上、シャベルの事は直ぐに冒険者たちの噂になるだろうことは明らかであり、薬師ギルドに売却を任せたエリクサーの噂が監督官屋敷の関係者の口から広がる事は時間の問題であったからであった。

人の口に戸は立てられない。一度漏れたエリクサーの噂はあっという間にダンジョン都市中に広がるだろう。

エリクサーを持ちこんだものは誰であるのか、大金を手に入れたのは誰であるのか。

そんな中ダンジョンの罠に嵌り死んだと思われていた人間が奇跡の生還を果たしたと知ったら。両者を結び付ける事など欲望に正直なダンジョン都市の冒険者にとっては造作もない事だろう。


お気楽冒険者が大金を手に入れた、テイマーの分際で生意気だ、その金は自分たちが受け取るべきものだ。

ダンジョン都市の冒険者の思考を嫌というほど味わってきたシャベルにとって、先に起きるであろう厄介事を想像することは容易であった。

ではなぜシャベルはそんな厄介事が起きると分かっていてエリクサーの販売を薬師ギルドに託し、尚且つ監督官を頼るように助言したのか。それはシャベルなりの保身のための行動であった。


シャベルは深層と呼ばれる第四十八階層からの生還者である。そのような冒険者が貴重なお宝を所持する事なく帰ってくる事などあり得るだろうか?

当然ダンジョン都市の冒険者も、シャベル生還の話を聞けば様々な妄想を膨らませるであろうことは間違いない。であれば予めその方向性を明確にしてしまえばいい、下手に腹の内を探られるよりも、エリクサーという誰の目にも明らかなお宝をぶら下げる事で他の本当に隠したいものから目を逸らさせることができる。

それは家族であるミミックのボクシーの事であったり、シルバーホーンタイガーの白銀の事であったり。

本来であればその二つの話題ですら大変な騒ぎを巻き起こしてしまうのだが、彼らの求めるお宝の象徴であるエリクサーの登場により他の全ての話は些事となってしまう。


またダンジョン都市であればなじみの魔物であるため然程気にもされないが、ミミックをテイムし従魔登録をするという事はとんでもない話である。

ダンジョンを研究する者であればダンジョンの魔物をテイム出来るという事自体異常であり、是が非でも手に入れたいと思うだろうし、宝箱ハウスの事を知る者からすれば、ダンジョン攻略の一手段としてボクシーを欲する事は疑いようがない。

他所の都市の冒険者ギルドで従魔登録をすればその騒ぎはあっという間に広がり、シャベルにとって決して好ましくない結果に繋がるだろう。

シャベルにとってエリクサーはいわば捨て石、騒ぎになる事を前提とした囮なのであった。


全ての用事を済ませ冒険者たちの隙を突き、無事にダンジョン都市カッセルを後にしたシャベル。だがシャベルは彼らダンジョン都市の冒険者を侮ってはいなかった。

ダンジョン中層である第十二階層、通称迷宮階層と呼ばれるそこで待ち伏せを行った盗賊たち。

彼らは言った、「<追跡>のスキルは便利だよな~、より親しい相手ならその行動予測すら出来るんだからよ」と。彼らは言った、「俺のスキル<偏愛>から逃れる事が出来るって思うだなんて、甘い甘い。本気で逃げ出したいんなら他国にでも行かないと」と。


スキルとは千差万別、ダンジョンという暗闇で自由に行動できる<暗視>のスキルは夜間でも昼間のように動くことを可能とし、獲物を追跡する為に使われる<追跡>のスキルは標的と定めた相手を離れた場所からでも追い詰める。

自身がダンジョン都市において様々な冒険者に狙われ続けたシャベルだからこそ、その足を止める危険性をよく理解していた。

昼間は幌馬車に乗り移送する事で体力を温存し、陽が落ちてからは幌馬車をカバン型マジックバッグに仕舞い、日向を従魔の指輪に取り込む事で徒歩での移動に切り替える。

途中の村門は闇の影空間に入る事ですり抜け、移動の距離を稼ぐ。

そうして休む事なく移動する事四日、シャベルは遂に城塞都市ゲルバスに辿り着く事が出来たのであった。


「次、身分と目的を告げよ」

「金級冒険者シャベル、目的はパーティーメンバーと落ち合うためだ」


城塞都市ゲルバスは魔物蔓延る危険地帯である魔の森の中に造られた都市である。堅牢な街壁に覆われたそこは魔の森にあって人の生活が保障された安全地帯、魔の森の魔物に挑む数多くの冒険者が集まり、日々戦いを繰り広げる冒険者の最前線と呼ぶべき戦士の集う街なのである。

その為城塞都市に至るまでには多くの魔物が襲い来る危険な街道を通過する必要があり、商人の中には護衛冒険者ごと犠牲になる者も少なくない。


「ほう、流石は金級冒険者だな、幌馬車には傷一つないか。他のパーティーメンバーは幌馬車の中か? 規則で全員の身分を確認する必要があるんだが」

「あぁ、俺はテイマーでな、幌馬車の中には従魔が二体控えている。危険はないが気を付けてくれ、見た目が少し特殊でな、大概驚かれて騒ぎになるんだ」


シャベルはそう言うや御者台を降り幌馬車の後ろへと向かう。


「これが従魔鑑札だ。焚火、風、顔を見せてくれるか?」

後ろに掛かった幌を捲り、門兵に中の様子を見せるシャベル。

““ゴソリッ””

シャベルの言葉に鎌首をもたげ暗闇から顔を出す二体の蛇型魔物。


「ヒッ、わ、分かった。分かったからその従魔を幌馬車から外に出すな。

何だあの威圧感は、いくら金級冒険者の従魔だからといって・・・」

「あぁ、すまなかったな。城塞都市に到着するまでの街道は多くの魔物に襲われそうだったんでな、焚火と風には周囲を威圧するように言ってあった事をすっかり忘れていた。

焚火、風、もう威圧を解いてもいいぞ、暫くゆっくりしていてくれ」


シャベルの言葉に急激に存在の薄くなる従魔たち、その光景に驚きに口を広げる門兵。


「だ、大丈夫なのか? 言う事は聞いているようだし、問題はないのだろうが・・・しかし」

従魔鑑札は確かに確認した、だがあれ程強力な魔物を従魔とはいえ街に入れてもよいものか。門兵が頭を悩ませているその時、救いの言葉は意外なところから掛けられるのだった。


「おや? お前、シャベルか? シャベルだよな、やっぱりシャベルだよ。お前、ダンジョン都市に行ってたんじゃなかったのか? そういえば随分前にお前のパーティーメンバだって言うテイマーたちが城塞都市に戻ってきてたけど、そいつらに会いにきたって奴か?」

それは城塞都市では知らない者のいない金級冒険者、金級冒険者パーティー‟ワインの雫”のリーダーケスガのものであった。


「あぁ、ケスガか。久し振りだな。城塞都市を代表する冒険者、金級冒険者パーティー‟ワインの雫”のリーダーに憶えておいてもらえるなんて光栄だ」

シャベルの言葉に「いや、お前の事を忘れる奴はいないだろうが」と言葉を返すケスガ。


「あの、ケスガさん、こちらの冒険者はお知り合いで?」

ケスガに対しおずおずと声を掛ける門兵、そんな彼にケスガは呆れたような表情で言葉を返す。


「なんだお前、“蛇使いシャベル”を忘れちまったのかよ。去年のスタンピード、あの時に活躍した蛇使い。テイマーでありながら金級冒険者になった奴なんざそうそういないんだから、憶えておいてやれよな。

まぁ俺様の活躍の前じゃどんな冒険者も霞んじまうのは致し方ないんだけどな、アッハッハッハッハッ」

ケスガの言葉にギョッとした顔になる門兵。


「あ、あの、それでは名誉市民勲章を授与された」

「そういえばそんなものも貰っていたな。ダンジョン都市での生活があまりに過酷だったんで、すっかり忘れていた」

そう言い腰のマジックポーチから名誉市民勲章を取り出して見せるシャベル、途端姿勢を正し敬礼する門兵。


「大変失礼いたしました。シャベル様は城塞都市にとっての恩人、どうぞお通り下さい!!」

そんな門兵の声に、周囲にいた別の門兵たちが一斉に敬礼する。


「ハハハ、凄いなシャベル。俺も名誉市民勲章って奴は初めて見たが、この城塞都市にとってシャベルは英雄様って事だな」

「俺も驚いた、まさかここまでの歓迎を受ける程のものだったとはな。

どうだケスガ、冒険者ギルドに行くんなら乗っていくか? 俺が離れている間に何か面白い事でもあったんなら話が聞きたい」


「おっ、聞いちゃいますか、俺様の武勇伝を。まぁ俺も今日は暇だしな、シャベルの話も気になるし付き合うとするか」


そう言い御者台に乗り込むシャベルとケスガ。二人の乗った幌馬車は門兵たちに見送られながら、冒険者ギルドゲルバス支部へ向かい進んでいくのであった。


「はぁ!? ケスガがケイティーと夫婦になった!? すまん、あまりの事に理解が追い付かん」

「ハッハッハッハッ、そうだろうそうだろう、この俺の魅力に惹かれぬ女はいないが、ケイティーさんは特別であったからな。

シャベルが身の程を弁えて城塞都市を去った事も正しい行い、なにせケイティーさんはこのケスガの妻となる女だったんだからな!!」


御者台に座りどうだとばかりに胸を張るケスガ。そんなケスガの態度に“周りの冒険者たちは何をやっていたんだ!!”と心の中でツッコミを入れるシャベル。


「まぁ実際はケイティーさんに命を救われた俺が、土下座して求婚しまくったのを、心優しいケイティーさん受けてくれたというだけなんだがな。

だが妻は妻、今はこのケスガの最愛なのだ、余計な色目は使うなよ!!」

そう言い強い眼光で睨むケスガ、その瞳には絶対に共に幸せになるという強い意志が込められていた。


「そうか、ケスガに無理やり迫られたとかいったわけじゃないなら俺から言う事は何もない。

よかったな、ケスガ、二人で幸せにな」

シャベルからの祝福の言葉に、「言われるまでもない、ケイティーさんは俺の最愛だからな!!」と答えフンスと鼻息を鳴らすケスガ。


「でもそうだな、そうなると何かお祝いを・・・そうだ、これをやろう」

シャベルはそう言うや背中のカバン型マジックバッグを降ろし、中から一振りの剣を取り出した。


「これはダンジョンの魔物からのドロップアイテムだ、俺は大剣は使わないが、ケスガなら使うだろう? それに武器は消耗品だからな、どれ程立派な剣であっても長年使えばガタが出る。ましてやここは冒険者の最前線城塞都市ゲルバス、使用頻度は他所の冒険者の比じゃないからな。

ケスガは既に一人の命じゃないんだ、ケイティーを泣かせるような真似をするなよ?」


そう言い押し付けるように大剣を渡すシャベルに、感動し表情を崩すケスガ。


「シャベル、お前って奴は。お前はケイティーさんが言うように本当にいい奴だったんだな、これまで何度も突っかかったりして本当に悪かった。

何か困った事があったらすぐにこのケスガに言ってくれ、出来る限り力を貸そう!!」

そう言いドンと胸を叩くケスガに「あぁ、いざとなったら頼む」と返事をするシャベル。


人の出会いは水物、どこでどのような出会いをし、どんな関係を築いていくのかなど、日々を生きる事に必死な人の身に推し量れようはずもない。

シャベルは御者台の隣で大剣を手にはしゃぐケスガの姿に、“ケイティーとケスガが二人仲良くいつまでも幸せでありますように”と女神様に祈りを捧げずにはいられないのであった。

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流石にケイティが城塞都市のおっ母さん呼ばわりされるのはもっと年月経ってからかな。
ケスガ、遂に妄想でケイティーを娶ったのか… やはり金級冒険者はやべぇな笑
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