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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第三節 人の欲望、人の闇 ~ダンジョン都市カッセル編~
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第115話 ダンジョン都市、そこは始まりと終わり、そして出発の地 (2)

「で、行っちまうのか」

「はい、俺にはダンジョン都市は厳し過ぎたと言いますか。

性格ですかね、俺は従魔、いえ、家族たちとのんびり過ごす事の方が性に合ってますんで」


ナックルはシャベルの言葉に肩を竦めると、「生き方は人それぞれだ、元気でやれよ」と肩を叩く。

ダンジョンは多くの者を惹き付ける。ダンジョン産のアイテムを手に入れ財をなした者、自分の限界を突き付けられ思い半ばにダンジョンを去る者、その魅力に取りつかれ欲望のままにダンジョンに消えていく者。

夢を叶える事の出来た者は幸いである。自分自身を見詰める事の出来た者は幸いである。生きてこの場を離れる事の出来る者は幸いである。


「俺は宝箱に取り憑かれちまったが、シャベルは違う。シャベル、宝箱はいいぞ、お前さんもお前さんなりの宝箱を見付けろよ」

「はい、大丈夫です。俺には頼れる家族たちがいますから」


シャベルはそう言い、左手の人差し指に嵌めた指輪をコンコンと叩く。


「従魔の指輪か。でもそいつは確か三体までしか・・・まさか!?」

「ナックルさん、ダンジョンの宝箱って夢が詰まってますよね。ナックルさんが夢中になるのも分かります。

それじゃ俺はこれで」


シャベルはナックルに一礼すると、解錠屋を後にする。ナックルは去っていく幌馬車の姿を、何か眩しいものでも見るかのように目を細め、いつまでも見送り続けるのだった。


―――――――


「次の方どうぞ」

薬師ギルド買取受付カウンターには今日も多くの調薬師や調薬師見習いが訪れ、自身の調薬したポーションを納品している。

中にはロングソードを腰に下げた者などどう見ても調薬師には見えないといった格好の者もおり、そうした者はダンジョンで手に入れたポーション系アイテムを持ち込むといった事が常であった。


「はい、本日はこちらでお願いします」

“スーッ”

買取受付カウンターに差し出された緑色のカード。受付職員はそのカードに目を向けると、「ではこちらへどうぞ」とシャベルをカウンター奥の個室へと案内する。


「シャベルさん、無事にダンジョンから戻られたのですか!?

街の噂ではダンジョンの隠し部屋の罠に嵌まり底の見えない落とし穴に落とされてしまったと。

あれから数か月、一体どこで何をしていたんですか」

買取受付に案内された買取商談用の個室で待つこと暫し、姿を現したのは薬師ギルドカッセル支部に於いてシャベルの買取担当となっているパリッシュであった。


「パリッシュさん、お久しぶりです。何かご心配をお掛けしてしまい申し訳ありません。

ですがこの通り、無事に地上へと戻って来る事が出来ました。

でもそうですか、俺の事はダンジョンで死んだことになっていましたか。

まぁあの時の状況が状況ですし、同行した者が事実をそのまま冒険者ギルドに報告したとしても、それを聞いた者は俺の生存は絶望的と思ってしまうでしょうね。俺自身未だにどうして生き残る事が出来たのかよく分かっていませんから。

まぁそれでもこうして戻って来る事が出来た訳ですし、それはそれとして割り切るしかないのですが」


シャベルはそう言うと、腰のマジックポーチからポーション瓶に入った様々なダンジョンドロップアイテムを取り出していく。


「これは結構な量ですね、鑑定が出来る者を呼んでも?」

「はい、お願いします。それとオークキングの睾丸は薬師ギルドで買い取りしていますか? 精力剤の素材になりそうなものもいくつかドロップしたのでお持ちしたのですが?」


「はい、調薬の素材になるドロップアイテムはこちらでも取り扱わせていただいておりますので。買取価格も冒険者ギルドに比べ高額に設定させていただいております」

パリッシュの言葉に笑顔で応えるシャベル。シャベルは「それではこちらに置かせていただきますね」と言葉を向けると、部屋の床に野営用の布を敷き、その上に素材アイテムを並べていくのだった。


「ポーションEX五十八本、ハイポーション四十三本、エキストラポーション二十本、ポーションEX++三十本、オークキングの精力剤十本、毛生え薬五本、解呪薬五本、劣化エリクサー三本。

オークキングの睾丸八個、ロックタートルの肝臓十二個、マンドラゴラ十本、以上どれも優良品です。

ポーションEX++は最近出始めた新しいドロップアイテムですが、ハイポーションを超える回復性能で、一部欠損部位の回復すら可能であることから薬師ギルドでは霊薬として指定させていただいている品ですね。

ダンジョン産の毛生え薬は不毛となった頭部からでもふさふさの髪の毛が再生するとあって、貴族や豪商の方々から高い人気を誇る商品です。解呪薬は全ての呪いを解くと言われている希少なドロップアイテムですね、一体これ程の量をどこで・・・大変失礼しました。ダンジョンドロップアイテムの入手場所の詮索は禁止事項でした、申し訳ございません。

劣化エリクサーはそれこそエリクサーの劣化版、あらゆるケガや病気、呪いの類を解くと言われる霊薬です。エリクサーとの違いは若返り効果や寿命の延長効果がないといったくらいでしょうか。夢の回復薬である事には変わりません。

素材も素晴らしい、精力剤や妊娠薬に必要とされるものばかり、全て高額で買い取らせていただきます」


そう言い鑑定結果と素材さて金額を用紙に記入していく薬師ギルド査定職員。パリッシュはその金額に驚きの目を向けるも、シャベルがそれだけの苦難を乗り越えて戻って来たのだと察し、納得の頷きを見せる。


「こちらが詳細となります」

差し出された査定用紙、シャベルは用紙を手に取ると、ざっと目を通す。


<査定結果>

ポーションEX 金貨二枚×五十八本 金貨百十六枚

ハイポーション 金貨二枚×四十三本 金貨八十六枚

エキストラポーション 金貨十二枚×二十本 金貨二百四十枚

ポーションEX++ 金貨三十五枚×三十本 金貨千五十枚

オークキングの精力剤 金貨三十枚×十本 金貨三百枚

毛生え薬 金貨二十五枚×五本 金貨百二十五枚

解呪薬 金貨五十枚×五本 金貨二百五十枚

劣化エリクサー 金貨二百枚×三本 金貨六百枚


オークキングの睾丸 金貨十五枚×八個 金貨百二十枚

ロックタートルの肝臓 金貨四枚×十二個 金貨四十八枚

マンドラゴラ 金貨十二枚×十本 金貨百二十枚


合計 金貨三千五十五枚


「はい、こちらの金額で買い取りをお願いします」

シャベルの返事にポーション瓶と素材をマジックバッグに収納していく薬師ギルド査定職員。パリッシュは「少々お待ちください」と断りを入れると席を外し、買取金額の入った皮袋を用意する。


「お待たせいたしました。こちら、大金貨三十枚金貨五十五枚になります」

「はい、確かに。それと最後にこちらの査定もお願いします」


“コトッ”

テーブルに置かれたのは一本のポーション瓶、それは七色に淡い光を発し己の存在を主張する。


「シャ、シャベルさん、こ、これは!?」

驚きに目を見開くパリッシュと薬師ギルド査定職員、それはあまりにも有名であまりにも希少な奇跡の霊薬。


「買取の支払いは俺の薬師ギルド口座に振り込んでおいてもらえますか? この場で直ぐに買取とはいかないでしょうから」

「えっ、いや、しかしよろしいのでしょうか? これ程貴重な品を私共薬師ギルドが扱っても」


戸惑うパリッシュに首を横に振るシャベル。


「私がこのダンジョン都市において安定したダンジョン探索を行う事が出来たのは、全てこちら薬師ギルドカッセル支部の皆さんのお陰です。本当にありがとうございます。

正直私は冒険者よりも薬師としての気質が強いんですよ。冒険者ギルドの力こそすべてという空気はどうも。

冒険者ギルドカッセル支部が冒険者たちの統制やダンジョン運営に力を注いでいるという事は分かりますが、ダンジョン内で何度も何度も冒険者に襲われ続けた身としては、冒険者ギルドではなく薬師ギルドにお譲りしたい。

ですが薬師ギルドとしては安全面といった点で不安が残るでしょう。ですのでカッセルの街の監督官様を頼られる事をお勧めいたします。監督官様経由で領主様に渡り、領主様から王家なり王都オークションなりに回る分にはお偉い方々の顔も立ちますし、カッセルの街での薬師ギルドの立場も向上する事でしょう」


シャベルの言葉、それは薬師ギルドカッセル支部の政治的立場も考えた提案。


「分かりました。シャベル様のお言葉はギルド長にそのまま伝えさせていただきたいと思います。

お支払いについてはシャベル様の口座に振り込ませていただきますので後ほどご確認いただければと存じます。

それとシャベル様、こちらを置いていかれるという事は」

「はい、この後所用を済ませてから街を出ようと。ダンジョン都市は中々に厳しい土地でしたので」


何処か肩の力が抜けたように話すシャベルの様子に、「そうですか、これまでありがとうございました」と応えるパリッシュ。


「それでは俺はここで、見送りは結構、変な騒ぎになりかねませんから」

「ハハハ、その節は申し訳なく。シャベルさん、お元気で」


シャベルはニコリと笑顔を向け一礼の後部屋を出る。

生きてダンジョン都市を離れる事の出来る者は幸いである。

テイマーである事で多くの冒険者から蔑まれ命を狙われ続けた金級冒険者パーティー“魔物の友”、そしてダンジョンの罠により下層へと落とされたシャベル。

パリッシュはダンジョン都市を去るシャベルの人生が、今後報われたものになるようにと祈らずにはいられないのであった。


――――――


「買取をお願いしたい。結構長く潜っていたんでな、マジックバッグがかなり圧迫されてるんだ」

ダンジョン入り口のすぐ脇に建てられた冒険者ギルドカッセル支部、そこは多くのダンジョン探索を生業とする冒険者で賑わい日々様々なドロップアイテムが持ち込まれている。

中でも確定ドロップと呼ばれる魔石の取り扱いはダンジョン都市の特徴であり、ダンジョン鉱山と呼ばれる程、その取引量は多い。

その為カッセルの冒険者ギルドではギルド受付カウンターのあるギルド建物の他に、買取所建物、診療所建物が独立して造られている。それはそれだけ多くの冒険者が、日々ダンジョンに潜っている証左でもあった。


「そうか、それなら奥の査定所に進んでくれ。大量持ち込みの場合はそっちを使う事になっている、よく覚えておいてくれ」

「あぁ、すまなかったな、助かった」


買取所カウンターにやって来る冒険者の多くは魔石の換金がメインであり、そうした査定は買取所受付カウンターで行う事が出来る。だが下層や深層部といった深い階層に潜る冒険者の中には、長期間の探索で大量にドロップアイテムを貯め込むパーティーも存在する。

そうした嵩張るドロップアイテムの査定となると買取受付カウンターで対処することは出来ず、結果専用の査定コーナーを設置する必要に迫られる。

買い取り受付カウンターの奥にある査定所は、そうした事情により誕生した区分け施設なのであった。


「すまない、買取受付カウンターからこちらに来るよう言われたんだが」

「あぁ、マジックバッグによる大量持ち込みか。随分と頑張ったんだな、生還おめでとう。

それじゃ早速だがドロップアイテムを見せてもらおうか、こっちに並べていってくれ」

査定職員の言葉にダンジョンで獲得したドロップアイテムをマジックバッグから取り出し、床に並べていくシャベル。


「グラスウルフの毛皮にオーク肉、結構頑張ってきたみたいじゃないか」

丁寧に並べていくシャベルの様子に、感心したように言葉を向ける査定職員。


「おいおい、結構な量だな。ってここからはブラックウルフだと? マッドモンキーの毛皮って、アンタら下層に行ってきたのかよ、それなら納得だ。それだけの実力があれば浅層や中層は余裕だろうさ、行き帰りで貯め込んじまったって事か」

どんどんと並べられて行く毛皮と肉、こいつらのパーティーはどれだけ狩りをしたんだと若干呆れ気味になる査定職員。


「フォレストスネークの皮だと!? マジかよ、アンタら深層探索者だったのかよ。これ、三十二階層のブラックウルフの毛皮じゃないか、凄いな、マジで」

次々と取り出される想像以上の量のドロップアイテム。その質と種類からダンジョン深層のアイテムと当たりを付け、目の前の人物がダンジョン都市の上澄みである深層探索者であったと気付き驚く査定職員。


「あとはこれでお終いだな」

「ちょっ、まっ、これってただのオークやオーガの皮じゃないだろう!?

この弾力と艶、アンタ、まさか深淵帰りだったのかよ。

だったら他に武器や防具もあっただろうに何で皮ばっかりなんだよ」


「そっちは使っちまったからな、消耗品だ。詳しくは避けるぞ、手の内を晒す冒険者は馬鹿だからな」

「あっ、これはすまねえ、忘れてくれ。直ぐに査定するからそっちで待っていてくれ」


そう言い後ろの長椅子を指差す査定職員、だがそんな彼にシャベルは意外な言葉を返す。


「あぁ、だったらその間に従魔登録をお願いしたいんだが構わないか?」

シャベルはそう言うと左手の指輪をトントンと叩く。査定職員はそれで察したのか、「今別の人間を呼んでくる」と言って奥の職員に声を掛けに行くのだった。

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ここまで稼いだらスローライフに向かっても良さげだけど、幸運値が低いからな… でも、広めの土地を買って従魔達と居を構えてもいいかもねー
更新お疲れ様です。 >深層でゲットした武具は使った まさかギルド職員さんも、従魔にモグモグさせました…とは夢にも思わないでしょうねww 最前線攻略者の皆さんなら「あ~勿体ないな~」の軽い感じかもです…
さて、ギルドはどうするんかねぇ
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