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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第三節 人の欲望、人の闇 ~ダンジョン都市カッセル編~
112/121

第112話 ダンジョン探索、それは帰還への道筋 (7)

「一体何がどうなっちまってるんだよ」

夜が明け、目の前の草原に忽然と姿を現した巨大な宝箱。その宝箱の所有をめぐり争いを始めた冒険者たち。

鳴り響く戦闘音、剣と剣とがぶつかり合う音が、冒険者たちの叫び声が。その声に引き寄せられるように次々とセーフティーゾーンから集まる冒険者たち、だが集まってきた者は冒険者ばかりではなかった。


「チッ、雑魚が集まって来やがった。手前ら、お宝は最後だ。先ずはこの雑魚供を始末するぞ!!」

「くそ、運が良かったな。今は見逃してやるよ」

「はん、それはこっちのセリフだ。背中には精々気を付けるんだな!!」


ダンジョンとは魔物と戦う者が集まる場所、寄せられる魔物と戦う冒険者たち。だがまるでモンスターハウスのように次々と集まって来る魔物たちの圧力に、徐々に押され始め撤退を余儀なくされる彼ら。


「ミミックだと!?それもあんなに巨大な」

突然開いた巨大な宝箱の上蓋、その中から伸びる幾本もの触手に絡み取られ、次々と宝箱の中に囚われて行くダンジョン魔物たち。

オーガが、オークソルジャーが、ブラックウルフが。自分達を苦しめた魔物の群れが為す術なく呑み込まれて行く姿を、ただ茫然と眺める事しか出来ない冒険者たち。


「どうする、あんな魔物がいたんじゃ三十階層より下の階層探索が行えないばかりか、既に潜っている連中も帰ってくる事が出来ないぞ」

「いや、触手の有効範囲はそれほど長くないのではないか?あの巨大ミミックを避けるように進めば探索自体に支障はないはずだ」

「いずれにしてもあのミミックは邪魔だ、ここは協力して倒すべきだ」


各パーティーの代表は一カ所に集まり意見を交わす。だが誰一人として自身が率先して討伐しようと言う者はいない。

二番手、いや三番手。誰かが戦い相手の手の内が分かってから美味しい所だけをいただきたい。相手はイレギュラー魔物、そのドロップアイテムはどんなものであるのか。

確か金級冒険者パーティー“セイレーンの泉”が第五十八階層でイレギュラー魔物を倒した時にドロップした宝箱からは“星屑の短杖”と呼ばれる最上級アイテムがドロップしたはず。


寄せる期待、牽制し合う冒険者たち、遅々として進まない話し合いという名の駆け引き。


「大変だ、宝箱が、ミミックが姿を消しやがった!!」

そんな中齎された知らせに、冒険者たちは慌ててセイフティーゾーンと草原エリアとの境に向かうのであった。


—――――――


「自在杖よし、マジックバッグよし。それじゃ皆行こうか」

“““““クネクネクネクネ”””””

“ポヨンポヨンポヨンポヨン”

“プルプルプルプル”


草原の中に姿を現したアーマードクラフトビッグワームリーダーの風が率いる十五体のアーマービッグワームたち。そんな彼らに囲まれて第三十階層のセーフティーゾーンに向かうシャベルは、大勢の冒険者たちが物々しい雰囲気で草原に目を向けている姿に、一体何が起きているのかと緊張を走らせる。


「風、周辺警戒を強くして、何か強力な魔物が現れたのかもしれない。俺たちはボクシーに守られていたから気が付かなかったけど、ここは何が起こるのか分からないダンジョン。みんなも異変には十分気を付けて」


“““““クネクネクネクネ”””””

任せてとばかりに身をくねらせるアーマービッグワームたち、そんな頼もしい姿の彼らに思わず顔を緩めるも、いかんいかんと頬を叩き気合いを入れ直すシャベル。


草原を進むこと暫し、剣を構え警戒態勢を取る冒険者たちの声が聞こえてくる。

それは戸惑い、それは焦り、「セーフティーゾーンに魔物が侵入しようとしているぞ、どうなってやがる!?」といった戸惑いの声。


「全員停止、何か勘違いされているようだ。

聞け!!俺は金級冒険者パーティー“魔物の友”のリーダーシャベル、この魔物たちは俺の従魔だ。攻撃を仕掛けて来ない限り危険はない!!

ただし、剣や魔法を向けられた場合それがいかなる理由であろうと攻撃とみなし全力で戦う。テイマーの従魔は武器と同等、それに対し剣や魔法を向ける事は命のやり取りをする事と心得られたし!!」


ざわつく冒険者たちに向けられたシャベルの宣言、その言葉により一層の混乱に陥る冒険者たち。


「俺は銀級冒険者パーティー“フェンリルの影”のリーダーランドル。

“魔物の友”の名は聞いた事がある、“スライム使いシャベル”がリーダーだと記憶している。

だがお前らは“お気楽冒険者”じゃなかったのか?何でそんなお前が深層である三十階層にいる。それにここの連中は誰もお前らが三十階層を通過した事を目撃しちゃいないぞ?」


それは疑念、大体テイマーだけのパーティー“魔物の友”が深層にいることなどあり得るのか?


「あぁ、それは落とし穴の罠に掛かったからだな。詳しい階層は伏せるが隠し部屋を見つけた際にそこの罠に嵌ってな、俺だけが従魔と共に深層域に落とされたらしい。

自分がいる場所が深層域だという事は第四十階層に(たむろ)していた冒険者に教えてもらったよ、よく生きてたなと驚かれたけどな。

なぜ生きていたのかと聞かれても運が良かったからとしか答えられん、俺自身何で生き残れたのかが全く分かっていないからな。

それとどうやって第三十階層まで辿り着けたのかと聞かれれば、只管戦ってきただけだ。

他に聞きたい事でもあるか?」


シャベルから語られたとんでもない話、ダンジョンの隠し部屋の罠に嵌り深層域である四十階層台に落とされた?そんな話これまで聞いた事もない。

だが目の前にテイマーであるシャベルがいることは事実、あんな目立つ奴が第三十階層を通過すれば気が付かない奴はいない。


「アンタが隠し部屋の罠に嵌って深層域に落とされたことが本当かどうかは正直分からん、ただアンタが行き成り現れた、俺たちに取っちゃそれが全てだ。

そこで聞きたいんだが、アンタ、草原にいたミミックを知らないか?巨大な宝箱の形をした魔物なんだが」


声を上げたのは別の冒険者、シャベルは最初何の事だと首を傾げ、直ぐに得心いった顔で口を開いた。


「それは“宝箱ハウス”の事だな。俺が巨大な宝箱の形をした小屋を持ち運んでいた事はダンジョン中層部辺りでは噂になっていたようだから聞いた事のあるやつもいるんじゃないのか?

それがおそらくお前が見たという巨大な宝箱の正体だ。

俺はその宝箱の中で寝起きしていたんでな、俺が突然現れたってのはその宝箱ハウスから出てきたからだろうな。宝箱ハウスは仕舞ったぞ?移動に不便だからな」


シャベルの言葉に訳が分からないと言った顔になる冒険者たち。


「何を言ってるんだ?俺が言ってるのは巨大なミミック「だから、そのミミックが宝箱ハウスの正体だ。大体ダンジョン内に小屋を持ち込んだとして襲われない訳がないだろう?

その点ミミックはいいぞ、勝手に魔物を殲滅してくれる、これ程ありがたい防犯装置はないからな。

どうやってそんなミミックを手に入れたのかは秘密だ、何でも話す冒険者は長生きしないからな。

もういいか、俺は先に行かせてもらう。いい加減外が恋しいんでな」


そう言い先に進もうとするシャベル、だがそんなシャベルに立ち塞がろうとする冒険者たち。

この男がどうやってあの強力なミミックを使役できているのかは分からない、だがこの男を手に入れればあの強力な魔物を手に入れる事が出来る、それがどれ程ダンジョン探索の助けになるのかなど考えるまでもない。


「ハァ~、風、力を見せてやれ」

“““““クネクネクネクネ♪”””””


ため息交じりに呟かれたシャベルの言葉、その一言に喜びの感情を爆発させるアーマービッグワームたち。シャベルに頼られる、その事は“家族”である彼らにとって何よりの喜びであった。


十六体の巨大な蛇型魔物が身を寄せ合い一つの形を作り上げる。それは塔、それは柱、大樹のようなその塊は、意思を持って大地に振り下ろされる。


“ドゴーーーーーーーーーーン”

大きく沈む草原、その巨大な柱は、再び大地に組み上がる。それは言外に次はお前らだと見下ろすかのように。


「くそっ、唸れファイヤーソード、<火炎斬>」

“ブォッ”

炎を上げ迫る冒険者の大剣、だが。


“ガキーーン”

巨大な柱は何事もなかったかのように(たたず)み、“それがお前らの答えか?”と見下ろし続ける。


「待ってくれ、すまなかった。この場の連中は先程の魔物との戦闘で気が立っていたんだ。謝って済む事じゃない事は分かっている、だがここはひとつ矛を収めて欲しい、この通りだ」


そう言いシャベルに対し土下座をする偉丈夫、それに倣い複数のパーティーリーダーと呼ばれる者が膝を突き頭を下げる。

シャベルはその様子に伸ばした左手を下げ、「風、もういいぞ」とアーマービッグワームたちに声を掛けるのだった。


—――――――――――


「馬鹿野郎、何やってるんだお前は!!」

“ゴツンッ”

力一杯頭を殴られ、地面に転がり呻き声を上げる冒険者。


「なっ、酷いですよリーダー。俺は俺たちに攻撃を仕掛けてきたアイツを止めようとしただけで」

「だからそれがまずかったと言ってるだろうが!!」

“ゴツンッ”

再びの鉄拳に、涙を浮かべ恨めしそうな目でパーティーリーダーを見上げる冒険者。


「金級冒険者パーティー“魔物の友”、そのリーダーが何でスライム使いなんて呼ばれているのかお前は知らないのか!!」

「いえ、知りません。もしかしてパーティー名の通り<魔物の友>の外れスキル持ちだとか?底辺魔物のスライムしか使役出来ませ~んとか」


「その通りだよ、あのシャベルは<魔物の友>持ちの外れテイマーなんだよ。それでいながら金級冒険者にまで上り詰めてるんだよ、その意味がお前には分からんのか?」

「えっ、へっ?マジっすか、何でそんな奴が金級冒険者に。ってそんな奴がどうやって深層域の四十階層台から生きて帰って来れたんですか、どう考えても無理でしょう」


「だからだよ、だから関わっちゃいけないんだよ。

さっきお前があの蛇の魔物に切り掛かった時、アイツの雰囲気が変わった。それまではどうにかこの場を問題なく収めようとしていたのが、一気に戦闘態勢に入った。あの目はまさしく四十階層台の地獄を生き抜いてきた高位冒険者の目だ、この場の冒険者全員を殲滅する事を決意した男の目だ。

四十階層台から先、最深部に挑む連中は皆どこか頭のおかしな連中ばかりなんだよ、その上で間違いなく一騎当千の力を持ってやがる。そんな化け物しか生き残れない世界、それが深淵の世界なんだよ。

大体第三十九階層はギガントゴーレムだぞ?あの男はその三十九階層を抜けてきたんだぞ?

あの男が俺たちに左手を向けた瞬間、俺は確実な死を悟った、この場で動かなければ俺たちはなす術なく狩られると確信した。誰一人生き残る事など出来ない、方法は分からないが俺の<危機感知>スキルが最大限の警鐘を鳴らしまくっていやがった。


ここにいる連中には馬鹿も多い、未だ状況が分からずあの男を追撃しようとしている阿呆もいる。そんな奴らは放っておけ。

ここはダンジョンだ、化け物と化け物が命を削り合う戦場だ。

お前も長生きしたかったら勘を磨け、スキルに優劣なんかはない、生き残った奴が強い、それだけだ。勘の鈍い奴、感性の乏しい奴は直ぐに死ぬ。

三十階層台は分水嶺だ、よく覚えておけ」


そう言いその場を離れるリーダー。あとに残された冒険者は自身の両手を見詰め、その掌に残る魔鉄の塊にでも切り付けたかのような感触を思い出し、ゾッと身を震わせるのだった。



「風十、風十一、大丈夫だったの~、なんか凄い音がしてたんだけど?“ガキーーン”って、“ガキーーン”って。

まずは“精霊の涙”を飲んで、本当に痛いところはない?

何か心配だな、エリクサーでも飲んでおく?」

第三十階層を抜け第二十九階層の扉を前にしたシャベルは、作っていた冒険者演技を投げ捨て家族の身体を気遣う。そんなシャベルの姿に、益々親愛の情を強くする従魔たちなのであった。

ノロノロ更新です。

お待たせして申し訳ない。

by@aozora

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ゆっくり更新お待ちしております 毎日暑いですが体調管理は気を付けて
長期の休載は書籍化の準備だろうと思ってたんだけど。 とりあえず、連載再開嬉しい。
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