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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第三節 人の欲望、人の闇 ~ダンジョン都市カッセル編~
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第106話 ダンジョン探索、それは帰還への道筋

「右前方より敵、ミノタウロス・オークの混成、数五体。左前方よりミノタウロス三体、後方よりオーガ、数六体。

闇のパーティーは右前方、焚火のパーティーは左前方、風と土のパーティーは後方の対処に当たって。行動開始」


シャベルがダンジョン第四十八階層に落ちてから二月半、シャベルは未だダンジョン深層域を探索していた。

ダンジョンの各階層には上階層に上がる出入り口と下階層に向かう出入り口とが存在する。ダンジョン探索において重要なのは次の階層に至る出入り口を見つける事。

既に踏破された階層であればその情報を基にダンジョン探索を行う事が出来る。第一階層から第十階層の上層域や第十一階層から第二十階層までの中層域であれば冒険者ギルドで詳しい情報を購入する事も可能だ。

第二十一階層から第三十階層までの下層域、第三十一階層以降の深層域に関しては酒場などで他の冒険者から情報を集めたり、既に深層域に達している冒険者パーティーなどから情報を購入するしかない。


情報のあるなしは探索における安全性や探索速度に大きく関わる。それはこれ迄のダンジョン探索の歴史そのものであり、未知の階層を探索し次の階層に至る事は、それ程までに時間と労力を必要とする作業なのであった。


「みんなお疲れ様、ドロップアイテムはミノ肉とオーク肉か。オーガは槍を落としたんだ。

白銀、お肉を収納してくれる?天多はオーガの槍を仕舞っちゃって」


シャベルたち一行はシルバーホーンタイガーの案内もあり、第四十八階層の上階層出入り口にすんなり辿り着く事が出来た。だが問題はそこからで、階層を移動した先の第四十七階層出入り口から先は自分たちの足で階層出入り口を探さなければならない。

これが第二十一階層から第三十階層までの下層域であればそこまで難しくなかっただろう。下層域ではそれなりの数の熟練冒険者が探索を行っており、情報交換も容易であるからだ。

だがこれが三十一階層を超える深層域となれば話は変わる。冒険者の数は極端に減り、階層攻略難易度もこれ迄とは比べ物にならないほど上がるからである。


第四十一階層から第四十七階層、そこは集団戦を要求される階層域であった。それまでは一パーティーで対応できるような魔物編成であったものが、一度に複数組の魔物たちに遭遇したり群れ単位の魔物との戦闘を行ったり。

深層域の四十階層クラスを探索する冒険者が一角の者たちと呼ばれるのは、彼らがそうした魔物による数の暴力を物ともぜず生還し成果を持ち帰って来るからに他ならない。

四十階層クラスを探察する冒険者は個でありながら集団を殲滅し得る者たちであり、数の暴力が通用しない隔絶した実力の持ち主たちなのであった。


「みんなお疲れ、今日はこの辺で野営する事にしようか。

天多、水飲み場を出してくれる?雫は魔力水を注いであげて。ボクシー、今日もよろしくね」


第四十三階層、広い森の一角で野営の準備を始めたシャベルは、カバン型マジックバッグからテーブルセットを取り出し、食事を用意しながらこれ迄の探索の事を思い出していた。


シルバーホーンタイガーと別れ向かった第四十七階層、そこはレンガ作りの通路が続く迷宮のような場所であった。オーガの集団がうろつき、部屋には複数体のミノタウロスが屯する。

周囲に怯え、気の休まる暇はない。次の階層への出入り口を探し彷徨い歩く日々。

第四十六階層の階層出入り口を見つけた時、通路内に宝箱ハウスを出し丸一日熟睡してしまった事は、いた仕方のない事なのであった。


だがシャベルの受難は終わらない。第四十六階層、そこはオーガの集落。

階層内には複数のオーガの集落があるのだろう、それぞれにオーガキングが配置され、一つの集落を潰しきらないと戦闘が終わらない、ソロでは決して対処できない状況。

シャベルはビッグワームのパーティーを大きく二つに分け、数には数で対抗し、日替わりで集落を潰して回ることで探索を行った。

だがここで一つの問題が生じた、それはダンジョンの魔物は復活するという事であった。日々の戦闘で消耗して行くビッグワームたち、精霊の泉で大量のポーションEX++を作製しておいたお陰で死亡者こそ出なかったものの、複数体の重症者を出す事も珍しくなかった。

シャベルは長時間の戦闘中、一切気を緩める事なく、味方の状態を観察しポーションによる回復に努めるのだった。


「でも驚いたよな~、雫が“精霊の泉”の水を再現出来るんだもん」

雫は魔の森の泉で知り合ったスライム型の魔物、種族は水精霊であった。

スキルは<水生成>に<液体操作>、<水生成>魔力により水を作り出す力であり、雫と知り合った魔の森のおいしい泉の水を作り出す事が出来るスキルであった。

それはシャベルが傷付いたビッグワームの治療に走っていた時の事であった。突然シャベルのフードの中にいた雫が飛び出し、ビッグワームたちに水を掛け始めたのである。

初め何が起きたのか分からなかったシャベル、だが次々と元気を取り戻すビッグワームの姿に雫がポーションを掛けているのではという思いに至る事が出来た。


「雫、その水をこの皿に分けてくれるかい?<鑑定>」


<鑑定>

名前:精霊の涙

詳細:精霊の泉より汲み上げられし癒しの水。体力、魔力、気力を全回復する霊薬。部位欠損回復、解呪の効果がある。

製作者:なし


鑑定の結果は驚くべきものであった。雫は精霊の泉で泳ぎ回る事で精霊の泉を理解し、その身に取り込んでしまっていたのであった。


雫が“精霊の涙”を作り出せるようになった事は、シャベルに大きな安心を与える事となった。シャベルは使用済みの空になった容器に雫の作った“精霊の涙”を詰め、戦闘で傷付いたビッグワームたちに使用する事で、第四十六階層を攻略する事が出来たのであった。


第四十五階層はオークの戦場であった。草原に陣取り訪れる敵を迎え撃つオーク。オークソルジャー、オークマジシャン、オークジェネラル、オークキング。

それは一つの軍隊であり、防壁であった。

オークは行き成り襲い掛かる事はなかった。それはこの階層に訪れる者たちにある選択を迫るものであった。

引き返すのか、それともここで死ぬのか。


オークはある一定に迄近付くと動き出した。そこがオークにとっての防衛線であり、戦闘の境界線でもあった。


「闇、光、焚火、水、風、土、春、夏、秋、冬。全パーティー展開、正面から攻め込む。オークソルジャー、オークジェネラル、オークキングの剣技は強力だ、十分に気を付けて欲しい。

準備はいいか?各自、戦闘開始!!」


オークの軍勢とビッグワームたちとの戦いが始まった。ビッグワームたちの数はリーダーであるフォレストビッグワームを含めれば百六十体、オークの軍勢がいくら多いとは言え、数においては負けてはいない。

だが相手は剣を持つオークであり、こちらは何も持たないビッグワーム、戦闘において不利である事は否めなかった。


“ブモーーーーーー!!”

一瞬身体がビクリとなり、動きが阻害されるような雄たけび。それはオークキングの上げた<咆哮>、行動阻害のあるスキルによる先制攻撃に、慌ててビッグワームたちの姿を追うシャベル。

だがビッグワームたちはオークキングの<咆哮>に怯む事なく、草原を進んで行く。


“““““ブゴーーーフギブゴーーーー!!”””””

“ボガン、バギン、グシャン”


一体に対し二体、強ければ三体、四体とその場の状況に合わせ戦い方を変えるビッグワームたち。リーダーたちはそんな彼らに指示を出しつつ、より強力な個体に対処する。シャベルはそんなビッグワームたちの後ろを走り回り、辻ヒーラーの如く傷付いたビッグワームたちにポーションEXや精霊の涙を振り掛けて行く。

雫はプルイチの頭に乗り、シャベルと同じ様に後方から精霊の涙を飛ばして行く。天多は二体に分かれ、プルジとプルミの頭に乗って<穿水>による遊撃を行って行く。


“ブゴーーーーー”

激しい攻防は半日ほど続き、最後はビッグワームたちによる<穿水>の一斉掃射によりオークキングを含めたオークの軍勢を倒しきることが出来た。


「ハァ~、何とか勝つ事が出来たけど、本当にギリギリだったね。みんな、よく頑張ってくれました。それじゃ次の階層に向かう出入り口を探して・・・」

シャベルが家族たちの戦いを労い、第四十四階層に進もうと提案した時であった。


“ガウッ”

声を上げたのはシルバーホーンタイガーの白銀であった。

“僕は何も活躍出来ていない、僕は何の役にも立っていない”

それは白銀の心からの叫び、シルバーホーンタイガーと言う種族の誇りから来る訴え。


“““““クネクネクネクネクネクネ”””””

“プルプルプルプルプルプル”

“ポヨンポヨンポヨンポヨンポヨンポヨン”


そしてその訴えは他の家族たちの心を動かした。もっと強くなりたい、安心して探索が出来るくらいに、家族を、シャベルを守れるくらいに。


「分かった、この第四十五階層で訓練しよう。もっと連携を深めて、安心して探索が出来るくらいになるまで」


その時からシャベルたちの命懸けの特訓が開始されるのだった。

ダンジョンの魔物は時間とともに生成される。それは魔物が湧くという現象であり、この殲滅戦が終わったばかりの戦場でも同じ事であった。

そしてシャベルはこの第四十五階層で面白い発見をする事となった。それは戦闘終了後、全ての従魔が境界線を越えてしばらく経つと、倒したはずのオークたちが復活しているという事であった。


これはボス部屋と呼ばれる第十九階層で見られる現象であり、ボス部屋での戦闘終了後、別のパーティーが侵入するとそこには倒したはずのボスが待ち構えているという事が冒険者ギルドに報告されている。


シャベルたちはこのダンジョン特有の現象を利用し、様々な戦闘の仕方を試みて行った。

それは全てのビッグワームに分裂した天多を張り付けての<穿水>による殲滅攻撃であったり、組体操のように合体したビッグワームたちによる蹂躙であったり。

無論白銀の戦闘訓練も行った。天多と雫パーティーによるフォローを付けた状態ではあったものの、集団のオークたちとの戦闘は白銀に多くの経験を積ませ、その実力を確実に伸ばしていった。


だがここで一つの問題が生じた。一日に何度も行われる戦闘により大量のドロップアイテムが生じていたのである。

宝箱はいい、それらはすべてボクシーが吸収し、中身は全て取り出せるのだから。肉も問題ない。既にシャベルの時間停止機能付きマジックバッグには必要十分量のミノタウロスとオークの肉が収納されており、白銀の保存分も含めこれ以上蓄積の必要のない分は、家族の食事となって行った。

魔石に関しては従魔たちのおやつである。天多やビッグワームたちだけでなく、雫や白銀も喜んで口にしていた。


問題は通常ドロップアイテムの剣や槍、鎧といったものであった。

訓練を開始して二週間、その間溜まりに溜まった通常ドロップアイテムは戦闘開始戦の後方の草原に山のように積み上げられる事となったのである。


だがその問題は、意外な形で解決される事となった。

“ガリッ、ガリガリガリガリガリガリ”


一体のビッグワームがドロップアイテムの鎧を齧り始めたのである。その行動を皮切りに、次々とビッグワームたちに齧られて行く金属製の剣や鎧。

伝わる思いは“歯ごたえがあって結構おいしい”というもの。

シャベルは試しに以前スコッピー男爵領で購入した片手剣を見せたところ、“あまりおいしそうじゃない”という返事が。

どうやらダンジョン産の剣や鎧にはビッグワームたちを惹き付けるモノ、魔力が含まれている様であった。


更に訓練を続けること一週間、その間もドロップした剣や鎧といったアイテムはビッグワームたちの餌となって行った。そして十分な訓練を積んだシャベルたちは、第四十四階層を経て第四十三階層に辿り着いたのであった。


“ニョロニョロ、ガサガサガサ”

食事の準備を終えたシャベルの前を、一体のビッグワームが通り過ぎる。

全体に茶色み掛かった硬質な肌、よく見ればそれは鱗の様なもの。


<鑑定>

名前:土五

年齢:一歳

種族:アーマービッグワーム

スキル

悪食 身体強化 硬質化

魔法適性

水 土


強く進化して行く家族たち。シャベルはそんな頼もしい家族たちの姿に笑みを浮かべながら、旨そうに焼き上がったオーク肉のステーキに舌鼓を打つのだった。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 なるほど、そういう進化ルートも有りなんですね!アーマービッグワーム、絶対ギルド未確認モンスターだろうなぁ(笑) スライムは育成次第でチートなのは(読者視点で)判明してますが、ビッ…
インフレしてきたね!早く復讐劇が読みたい!
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