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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第三節 人の欲望、人の闇 ~ダンジョン都市カッセル編~
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第102話 ダンジョン探索、そこには不思議が一杯

「風と水、護衛を頼めるか?他の皆は泉の周りでゆっくりしていてね。

闇、他のビッグワーム達も出してあげてくれる?喉が渇いてるだろうし。

俺はちょっと周辺で薬草採取をして来るから」

“““““クネクネクネクネクネクネ”””””

“ポヨンポヨンポヨンポヨン”

“プルプルプルプル”


ダンジョン第十八階層の隠し部屋の罠に嵌り部屋ごと落とし穴に落とされたシャベルたちであったが、シャベルの機転と群体スライムである天多の数の暴力により落下の衝撃や落下先で待ち受けていたはずの悪辣な罠も無事に危機を脱し、ダンジョンボス部屋の先に待っていた不思議な泉へとやって来る事が出来た。


『しかしお前は度胸があると言うか緊張感がないと言うか。一応ここもダンジョン内ではあるのだぞ?

まぁそうは言っても魔物はスライムとマンドラゴラくらいしかおらんのだがな』


そこは太い幹の樹木が生い茂った深き森の中といったような場所、ダンジョン内とは思えない清廉な空気と神秘的な雰囲気に、思わず見とれるシャベル。

だがそんなシャベルの下に現れた“精霊の泉の守護者”と名乗る魔物。


「そう言われましても彼我の実力差は明白ですし、シルバーホーンタイガー様がその気であれば俺なんかとっくに殺されてますし。

まず話し掛けて来られる段階でおかしいですから、言葉を話す魔物なんて初めて見ました。と言うか魔物って人族の言葉が話せるんですね?」

そう言い何とも言えぬ表情になるシャベル。人が行き成りドラゴンに遭遇したらどうなるのかといったような事を自身が体験する羽目になるとは。

シャベルは運がいいのか悪いのかよく分からぬ現状に、取り敢えず自身のできる事をしようと泉周辺に生い茂る最高品質の癒し草やその他薬草類の採取を行う事にしたのである。

それはある種の現実逃避行動ではあるものの、生殺与奪権が目の前のシルバーホーンタイガーにある以上、へたに足搔くよりも状況に身を任せるしかないのも事実なのであったのだが。


『うむ、我のような進化を繰り返した魔物個体の中には知能が発達した者も多い。そうした者の中には念話の様に自らの思念を他者に送ったり他者の思念を受け取ったりできる者もおる。

我は人と関わる機会が多かった故自然と人族の言葉や思考も覚えたといった経緯があるのだがな』

そう言い目を細め何かを思う出すようなそぶりを見せるシルバーホーンタイガー。


「えっと、シルバーホーンタイガー様はこのダンジョンで生まれた魔物ではないのですか?ダンジョン内の魔物は皆ダンジョンによって生み出されているものだとばかり思っていたのですが」

シャベルの疑問、それは先程から交わしているシルバーホーンタイガーとの会話の内容にあった。そこにはダンジョン魔物らしからぬ知識や、ただの魔物では知り得ない様なダンジョン内構造についての知識なども含まれていたからであった。


『む?あぁ、そういう事であるか。我はこのダンジョンで生まれた者ではない。ダンジョンに呼ばれた外の魔物という事になるか、以前は北の広大な森の奥深くで暮らしておった。

このダンジョンに来たのは千五百年ほど前になるか、ダンジョンが泉の管理者を求めていてな、当時人族と関わることに辟易していた我がその呼び掛けに応えたのだ。

我のような魔物は人族にとって珍しく、かつ貴重な素材とみられていてな。崇める者もいれば襲い掛かる者もいる、いずれにしろあ奴らは本当にしつこかったのだ。

我が望みはのんびりと穏やかに暮らす事、ダンジョンでの生活は非常に快適なものよ』


シルバータイガーの言葉に益々分からなくなるシャベル。ダンジョンが泉の管理者を求める?ダンジョンの呼び掛けに応じてやって来た?


「あの、こんな事を聞いていいのか分からないんですが、ダンジョンって一体何なんですか?人族に魔石や宝箱を与える不思議な洞窟、でもその事に一体どんな意味があるんですか?

俺にはダンジョンが人を引き入れようとしているとしか思えない。多くの冒険者がダンジョンから与えられる餌に引き寄せられて洞窟へ潜っていく。

蠢く魔物、戦い傷付き命を落とす冒険者たち。でも得られる利益を考えたらダンジョンが損をしているとしか思えない」


『ほう、その点に気が付くとは中々に優秀だな。確かにダンジョンは人族をおびき寄せる為に様々な利益を提供している。魔石や各種ドロップアイテム、宝箱などはその典型だな。

この“精霊の泉”もそうした人族をおびき寄せる為の餌に過ぎない。

ではなぜそのような事を行うのか、それは人族を集める事に利益があるからに他ならない。


人族は皆大なり小なり魔力というものを有している。そして身体から無意識のうちに余剰魔力を放出している。

また魔物との戦闘においては魔法や武技を使う事で魔力を消費する。人族により魔法現象として消費された魔力は、大気に散らばり空気へ溶け込む。

人族同士による大きな戦が行われた際に、戦場となった土地が大量の魔力放出によって濃厚な魔力地帯となり、アンデッド魔物の発生を促すのもこうした理由によるものだな。


ダンジョンはその魔力を糧とし大きく成長する。分かり易く言えばダンジョンとはトレントやマンドラゴラのような植物系魔物に近しい存在という事だな。

人族の発する魔力は肥料となりダンジョンの成長を促す。成長したダンジョンはドロップアイテムや宝箱といった果実を実らせより多くの人族を引き寄せる。

人族が長くダンジョン内に留まる事はより多くの肥料を得る事に繋がる。

だが余り長くダンジョン内に留まる事は人族の鮮度を落とす事になるので定期的に洞窟から出て貰わなければならない。


十階層ごとに安全地帯が設けられている事や人族の傍であろうとも魔物が発生する事には、そうした理由がある。

人族の多く出入りするダンジョンは多くの魔力を得る事で有用なドロップアイテムを生み出す事が出来る。それがどういう理屈で作られるのかといった事までは知らんが、ダンジョンとはそうしたものだと考えておけばよい』


シルバーホーンタイガーより齎された衝撃の事実。“ダンジョンは人を惹き寄せる魔物である”、その話は驚きと共にこれまでの疑問がすっきりと解消され、すんなりとシャベルの中に受け入れられるのであった。



「うん、大量大量、流石ダンジョン、こんなに見事な癒し草がこれ程群生している場所なんて他にないよね。

天多~、途中でスライムをテイムしたから受け入れてあげてくれる?

何か所かに集めておいたから、風と水に案内してもらって~」

シャベルの言葉に泉から現れた天多は、ピョンピョンと跳ねてフォレストビッグワームの風と土に案内され森へと消えていくのでした。


“クネクネクネクネ”

「なに、光はお腹が減ったの?癒し草が食べたいって別にいいけど、それじゃ皆の食事分も取りに行かないとね。

ボクシーに宝箱ハウスになってもらってそこに癒し草を出してから・・・」


“クネ、クネクネクネクネ”

「自分で食べに行くって、まあいいけど。特に何かある訳じゃないと思うけど気を付けてね」


“““““““クネクネクネクネ”””””””

「えっ、他の皆も行きたいの?それじゃ気を付けて行って来てね」


“““““““クネクネクネクネ~♪”””””””

楽し気に森へ散っていく家族の様子に、思わず笑いがこみ上げるシャベル。ダンジョン都市カッセルに来てからこれほどのんびりと心穏やかになった時があったのだろうか。

ダンジョンの何処にいるのかも分からないというのに我ながら暢気(のんき)なものだと噴き出してしまう。


“““““ニョロニョロニョロニョロニョロ”””””

「そうそう、お前たちの餌もあったよな。今癒し草を出してやるからな」

シャベルは背中のカバン型マジックバッグを下ろすと、中から採取して来た癒し草を小山に積み上げ、泉の水を飲んでいたビッグワーム達に分け与えるのでした。


「シルバーホーンタイガー様、この泉のほとりに小屋を出してもいいですか?」

シャベルの言葉に何を言っているんだ?という顔をするシルバーホーンタイガー。


『別に構わんが、お前はダンジョンの探索に小屋を持ち歩いているのか?随分と変わった探索を行っているんだな。

余程丈夫な造りなんだろうが、浅い階層ならまだしもこの辺の階層であれば容易く壊されてしまうかもしれんぞ?

ジャイアントボアの<突進>やオーガキングの<金剛槌>は強力な攻撃であるからな』


「そうなんですか?そう言えば俺ここが何階層に当たるのかって事を知らないんですよ。落とし穴に落とされて辿り着いただけなので」

そう言い頭を掻くシャベルに“そう言えばそうであったな”と笑いだすシルバーホーンタイガー。


『お前たちが普通ではない方法でこの場にやって来た事をすっかり忘れておった。通常は泉に続く石畳の道を進んでくる故そちらで待機しておったのだが、全く違う方角から気配がやって来た時には、ここにきて森の探索を行いながら泉に近付くとは随分と警戒心の強い冒険者であるなと思ったものだ。実際は全く別の理由であったのだがな。

それで“精霊の泉”のあるこの領域だが、ダンジョンの第四十八階層となる。

この階層全体の情報は知っておる故、“精霊の泉”を離れる際は出入り口に送ってやろう。上りの出入り口でよいのであろう?』


何気に告げられた階層名に愕然とするシャベル。第四十八階層といえばダンジョン深層と呼ばれる一部の強者しか潜る事の出来ない深淵部。

定宿にしている“大地の怒り亭”の主人が現役時代に到達した最高到達階層が第五十階層、偶然とはいえその一歩手前にソロ冒険者として到達してしまった事は、喜びではなく恐怖しか感じる事が出来ない。何故なら帰りの行程は全く構造の分からないダンジョンを深層の魔物と戦いながら進まなければならないからである。


「あ、ありがとうございます。そうですか、第四十八階層だったんですか。

そう言えば最初にお会いした際に仰っていた“泉の水は一人ポーション瓶一本まで持ち帰ってよい”というお話は、一体どういう意味だったんでしょうか?

うちの家族が凄く喜んでいる様子を見れば美味しい水であるという事は分かるのですが」


『ん?あぁ、そうであったな。神殿の謎を解いて来た訳ではないから、“精霊の泉”について何も知らないのであったか。

この“精霊の泉”とは所謂霊薬と呼ばれるものの湧く泉でな、エリクサーには届かぬが高い治療効果のある水で満ちておる。瀕死のケガ、部位欠損の回復、病の回復、呪いの解呪。ある意味奇跡の霊薬と評しても良い効果がある。

特にケガも病気もしていない者にとっては、疲れが取れ、体力と魔力が回復する水でしかないのだがな。


先に言ったが我はこのダンジョンの魔物ではない故ダンジョンから直接魔力が供給される事はない。だが“精霊の泉”の水を飲んでいれば特に問題ない。どうしても肉が食べたければ、階層内の魔物を狩って肉のドロップアイテムを食べればよいだけであるしな』


語られた話の内容にその場に固まるシャベル。目の前の泉の水は劣化版エリクサーと呼んでもよいほどのものであるという事。

だが言葉を替えれば第四十八階層から生還を果たす為の重要なアイテムが手に入るかもしれないという事。


「あの、一人一本という事は俺が一本分泉の水を貰えるという事でしょうか?それとも家族たちの分も貰えるという事でしょうか?」


『そうだな、安心してよい、従魔たちも一体に付き一本分持ち帰ることを許そう。これまで従魔を連れてこの泉を訪れた者はいないが、従魔も別個体である事には違いないしな』

シルバーホーンタイガーの言葉にホッと胸を撫で下ろすシャベル。だが念の為の確認は必要であるため、シャベルは天多の事を聞いてみる。


「あの、ウチのスライムの天多は群体スライムといって複数体のスライムが一体に集合した個体なんですが」

『ん?群体スライムとは初めて聞く種族名であるが』


「あ、丁度帰って来ましたね。風、水、ご苦労様。天多、ちょっとこっちに来て分裂してくれる?」

““クネクネクネクネ””

“ポヨンポヨンポヨン♪”


森のスライム集めから戻って早々声を掛けられ、嬉し気にシャベルの足下にやって来た天多。そんな天多を興味深げに見詰めるシルバーホーンタイガー。


“ボコッ、ボコボコボコボコボコボコボコボコ”

目の前で物凄い速さで分裂するスライムの姿に、唯々呆気にとられるシルバーホーンタイガー。


『待て待て待て、何なんだこのスライムは。一体どれだけの数が』

「えっと、第一階層のスライムを二月(ふたつき)くらい集めてましたから、どれほどいるのかはちょっと分かりません。

それで一体に付き一本って事ですと」


『イヤイヤイヤ、この数全部に渡したら大騒ぎになるから、流石に我でも分かるから』

「そうですか、でもそうなるとビッグワームたちも駄目って事ですかね?」


『いや、うん、分かった、ビッグワームは認めよう。だからこの群体スライムは勘弁してほしい。その代わりポーション瓶も付ける様に申請しておくから』

そう言い頭を下げるシルバーホーンタイガーに、何か凄く悪い事をしてしまったと、強い罪悪感に苛まれるシャベルなのであった。

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― 新着の感想 ―
魔物にもドン引きされてる…天多は魔王かなんかの予備軍だったりするん?
更新お疲れ様です。 会話の軽妙さ(?)から察するに、銀角虎様は相当長生きっぽいですね…一流の探索者でもボコられそうな深層のモンスターを肉扱い=積み重ねた経験からくる強さもヤバそうだし。そんな虎様でも…
天多ちゃんの分までオナシャス!て、無茶言うてやるなよ笑
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