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クラン 魔を狩りし者へようこそ ~深淵を目指す英雄見習いコンビ~  作者: 鎖月 弥生
第0章 選定される英雄見習い

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第8層目

「タイプ:ウォーター、モード:スワンプ」


 相棒と挟撃する直前、ハルさんの踝ほどの高さに粘度の高い水を展開する。

 これで足止めできれば――


「視界の次は足を奪うか。だが、効かん!」


 無理だったみたいだな。

 屈んだハルさんはうさぎ跳びの要領で前方へ跳躍し、水の拘束を軽々と抜け出す。


 前方から迫る相棒とアイコンタクト。

 …おっけ、任せろ。


 一瞬の作戦共有を終え、相棒は正面から突っ込んでいく。

 俺はその背を目で追いながら、次の魔法のイメージを固めていく。


「おっ、サシでやろうってか」

「受けて立つ!」


「じゃあ、遠慮なく!」


 ハルさんは相棒の拳をバックラーでいなし、涼しい顔で受け流す。

 同級生相手なら受け止めるだけで精一杯のラッシュだが、流石はBランクだ。


 …とはいえ、先生との模擬戦も大体こんな感じだ。

 今さら気圧されるほど、俺たちは青くない。


「タイプ:ウォーター、モード:ボール」


 ハルさんの頭部を、水球がぴたりと覆う。


 ――案外できるもんだな。座標固定。


 ただし練度不足だ。

 頭を振るだけで、水球はすぐにずれてしまう。


 だが、それでいい。

 相棒にとっては、その一瞬で十分だ。


「ッシ!」


 拳が鳩尾に突き刺さり、ハルさんの体が後方へ吹き飛ぶ。


 勝負あった――いや、まだか。


「ふぅ、焦った焦った」

「まさか窒息狙いとはな」


 ハルさんは額を拭い、ニヤリと笑う。

 どうやら、決定打には届かなかったらしい。


「カルマごめん、風で防がれた」


「しゃーない。あの状況で魔法を差し込む技量は流石だ」

「絡め手には引っかかるが、イマイチ決めきれねぇな」


「時間もだいぶ少ない。次が最後だね」


「だな。気張ってこーぜ」


 相棒と同時に駆け出す。

 直感先生は沈黙中――なら、自分たちを信じるだけだ。


「愚直な直進か。嫌いじゃねぇ!」

「だが――風底乱打!」


 不可視の掌底が迫る。

 だが直感による警告はない。なぜなら――


「この程度、捌く必要なんてありません」


 前を走る相棒が、腕を交差させたまま突き進む。

 不可視の乱打を、その身で受け止めながら。


「ったく…ジャブ程度とはいえ、新米が耐えるもんじゃねぇぞ」


 呆れ顔のハルさんが目前にいる。


「うちの相棒、鍛え方が頭おかしいんですよ!」


 相棒の影から飛び出し、剣を振り下ろす。

 当然のように弾かれるが問題ない。


 勢いそのまま、相棒が拳を振り上げ――


「そう何度も殴られてたまるか。風鎧ふうがい!」


 風がハルさんを包む。

 これが、さっき相棒が言っていた防御か。


 相棒と合わせるように剣を振るい、ハルさんを幾度も斬りつけるが、風の鎧に阻まれて手応えがない。

 どうやら物理は通らないみたいだな。


 なら――合わせろよ、相棒。


 相棒の乱打に合わせ、ナイフを投擲。

 結果を見ず、左手の人差し指を突き出す。


「タイプ:ウォーター、モード:ライフル」


 水弾が風の鎧を貫き、ハルさんの頭部を弾いた。

 威力は削がれ、致命には届かない。


 だが――鎧は消えた。


「鳴無流――虎鬼こき


 相棒の両拳がハルさんの胴に突き刺さる。

 同時に、相棒の顎が跳ね上がり後方へ吹き飛ぶ。


 背後で倒れる音。

 だが、今は振り返る余裕はない。


 ――千載一遇の好機だ。


 斬りかかろうとした瞬間、体が縫い止められた。


「ガフッ…勝負ありだ、馬鹿たれ」


 苦しそうな声で、ハルさんが告げる。


「致命あり、ったく、思いっきり殴りやがって…」


 その瞬間、相棒へ駆け寄る。

 まぁ心配するまでもなく、相棒は立ち上がって砂埃を払っていた。


「どうやら、勝てたみたいだね」


「あぁ、なんとか…な」


 いぇーいとハイタッチする俺たちの背後から足音がする。


「盾術と風魔法だけとはいえ、新米に負けるとはな」

「…お前ら、冒険者名は?」


「カルマです」

「サズキです」


「覚えたぜ。カルマ、サズキ」


 その時、訓練場の入口から声が飛ぶ。


「ハルさーん! そろそろ戻ってきてくださーい!!」


「…あっ、ミーティング忘れてた」

「二人が強くなったら、そのうち一緒にダンジョン行こうや」


 そう言い残し、ハルさんは風のように去っていった。


「戦闘中より速くないか?」


「だね、色々制限してたみたい」


「俺らも、あれ以上にならねぇとな」


「うん」




「…それはそれとして腹減った!」

「卒業と登録祝いでしゃぶしゃぶ行こうぜ!」


「賛成。お寿司もあると嬉しいな」


 さぁ、俺たちの冒険はここからだ。

 ――いや、今日はもう疲れた。


 明日からにしよう。


ここまでで第0章は一区切りとなります。

次章からはいよいよ、英雄見習いコンビの本格的なダンジョン攻略が始まります。


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