第8層目
「タイプ:ウォーター、モード:スワンプ」
相棒と挟撃する直前、ハルさんの踝ほどの高さに粘度の高い水を展開する。
これで足止めできれば――
「視界の次は足を奪うか。だが、効かん!」
無理だったみたいだな。
屈んだハルさんはうさぎ跳びの要領で前方へ跳躍し、水の拘束を軽々と抜け出す。
前方から迫る相棒とアイコンタクト。
…おっけ、任せろ。
一瞬の作戦共有を終え、相棒は正面から突っ込んでいく。
俺はその背を目で追いながら、次の魔法のイメージを固めていく。
「おっ、サシでやろうってか」
「受けて立つ!」
「じゃあ、遠慮なく!」
ハルさんは相棒の拳をバックラーでいなし、涼しい顔で受け流す。
同級生相手なら受け止めるだけで精一杯のラッシュだが、流石はBランクだ。
…とはいえ、先生との模擬戦も大体こんな感じだ。
今さら気圧されるほど、俺たちは青くない。
「タイプ:ウォーター、モード:ボール」
ハルさんの頭部を、水球がぴたりと覆う。
――案外できるもんだな。座標固定。
ただし練度不足だ。
頭を振るだけで、水球はすぐにずれてしまう。
だが、それでいい。
相棒にとっては、その一瞬で十分だ。
「ッシ!」
拳が鳩尾に突き刺さり、ハルさんの体が後方へ吹き飛ぶ。
勝負あった――いや、まだか。
「ふぅ、焦った焦った」
「まさか窒息狙いとはな」
ハルさんは額を拭い、ニヤリと笑う。
どうやら、決定打には届かなかったらしい。
「カルマごめん、風で防がれた」
「しゃーない。あの状況で魔法を差し込む技量は流石だ」
「絡め手には引っかかるが、イマイチ決めきれねぇな」
「時間もだいぶ少ない。次が最後だね」
「だな。気張ってこーぜ」
相棒と同時に駆け出す。
直感先生は沈黙中――なら、自分たちを信じるだけだ。
「愚直な直進か。嫌いじゃねぇ!」
「だが――風底乱打!」
不可視の掌底が迫る。
だが直感による警告はない。なぜなら――
「この程度、捌く必要なんてありません」
前を走る相棒が、腕を交差させたまま突き進む。
不可視の乱打を、その身で受け止めながら。
「ったく…ジャブ程度とはいえ、新米が耐えるもんじゃねぇぞ」
呆れ顔のハルさんが目前にいる。
「うちの相棒、鍛え方が頭おかしいんですよ!」
相棒の影から飛び出し、剣を振り下ろす。
当然のように弾かれるが問題ない。
勢いそのまま、相棒が拳を振り上げ――
「そう何度も殴られてたまるか。風鎧!」
風がハルさんを包む。
これが、さっき相棒が言っていた防御か。
相棒と合わせるように剣を振るい、ハルさんを幾度も斬りつけるが、風の鎧に阻まれて手応えがない。
どうやら物理は通らないみたいだな。
なら――合わせろよ、相棒。
相棒の乱打に合わせ、ナイフを投擲。
結果を見ず、左手の人差し指を突き出す。
「タイプ:ウォーター、モード:ライフル」
水弾が風の鎧を貫き、ハルさんの頭部を弾いた。
威力は削がれ、致命には届かない。
だが――鎧は消えた。
「鳴無流――虎鬼」
相棒の両拳がハルさんの胴に突き刺さる。
同時に、相棒の顎が跳ね上がり後方へ吹き飛ぶ。
背後で倒れる音。
だが、今は振り返る余裕はない。
――千載一遇の好機だ。
斬りかかろうとした瞬間、体が縫い止められた。
「ガフッ…勝負ありだ、馬鹿たれ」
苦しそうな声で、ハルさんが告げる。
「致命あり、ったく、思いっきり殴りやがって…」
その瞬間、相棒へ駆け寄る。
まぁ心配するまでもなく、相棒は立ち上がって砂埃を払っていた。
「どうやら、勝てたみたいだね」
「あぁ、なんとか…な」
いぇーいとハイタッチする俺たちの背後から足音がする。
「盾術と風魔法だけとはいえ、新米に負けるとはな」
「…お前ら、冒険者名は?」
「カルマです」
「サズキです」
「覚えたぜ。カルマ、サズキ」
その時、訓練場の入口から声が飛ぶ。
「ハルさーん! そろそろ戻ってきてくださーい!!」
「…あっ、ミーティング忘れてた」
「二人が強くなったら、そのうち一緒にダンジョン行こうや」
そう言い残し、ハルさんは風のように去っていった。
「戦闘中より速くないか?」
「だね、色々制限してたみたい」
「俺らも、あれ以上にならねぇとな」
「うん」
「…それはそれとして腹減った!」
「卒業と登録祝いでしゃぶしゃぶ行こうぜ!」
「賛成。お寿司もあると嬉しいな」
さぁ、俺たちの冒険はここからだ。
――いや、今日はもう疲れた。
明日からにしよう。
ここまでで第0章は一区切りとなります。
次章からはいよいよ、英雄見習いコンビの本格的なダンジョン攻略が始まります。
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