第7層目
なぜ俺は訓練場のど真ん中で、座学をしているのだろうか…。
ハルさんが話している内容は、学園時代の復習ばかりで目新しいものは然程ない。
スキルは単純に、パッシブとアクティブの二種類に分かれているわけではない。
攻撃・強化・探索・魔法の四系統が存在し、その中でさらにパッシブか、アクティブかに分類される。
俺の場合は、
剣術が、攻撃系のパッシブスキル。
直感が、探索系のパッシブスキル。
そして今回手に入れた水魔法が、魔法系のアクティブスキル。
そんな感じだ。
これらのスキルは、オーブを使用して入手する。あるいは、日頃の行動や鍛錬の中で発現するかの、二通りが基本となる。
ただし、そのスキルに対する適性がない場合、どれだけ努力を重ねようとも発現することはない。
適性のないスキルを得るには、オーブを使うしかない。
だが、そうして得たスキルも、適性を持つ者のものより性能が落ちる。
まったく、世知辛い話だよ。
ソウルについては、基本的に十五歳になると、ステータスと共に一人一つ発現すると言われている。
似たようなスキルとは一線を画すほど強力で、これ一つで戦況がひっくり返ることも、珍しくない。
ただし、強力なソウルであればあるほど、反動も大きい。
有名な例としては、DEA創設者暁さんのソウル、叡智が挙げられるだろう。
詳しい効果は、民間には流れてこないが、鑑定系スキルの極地のような性能らしい。
その代わり、発動時間分意識を失うだとか、半日以上使用すると廃人になるだとか、物騒な噂も多い。
俺のソウルも、似たような反動がある。
それなりに強力なんだが、正直、使いづらいんだよなぁ。
「とまぁここまでが、スキルとソウルの説明になるな」
「俺も学園出身だからな。カリキュラムも、そこまで変わってないだろ?」
「ということで、どうだ。新スキルの慣らしがてら、二人で俺に挑んでみないか?」
ようやく座学が終わったと思ったら、何を言い出すんだ、この人。
思わず相棒を見ると、向こうも、悩んだようにこちらを見返してくる。
「どうする?」
「ぶっちゃけ、水魔法は試してみたい」
「ダンジョン内で急に、スキルが発現することもあるだろうし、その練習って意味でもちょうどいいかもな」
「それもそうだね。なら僕は、鞭を取ってこようかな」
「それでこそ冒険者だ。準備が整ったら、教えてくれ」
「分かりました」
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座学で冷えた体を温め直しつつ、相棒との作戦会議を終える。
「ハルさん、準備できました」
「分かった。ルールは大丈夫だな?」
「はい。基本は実技テストと同じで、ハルさん対俺たち。アクティブの使用が可ですよね」
「その認識で問題ないぜ」
ハルさんは一枚の硬貨を指で弾き上げた。
「んじゃ、この硬貨が地面に落ちたら、開始だ」
視界の端で回転する硬貨を捉えつつ、相棒と視線を交わす。
気合は十分。
俺たちの作戦がどこまで通用するか。そして、新スキルの使い勝手を確かめる。
魔法スキルは、イメージがすべてだと、先生は言っていた。
規模に差はあれど、明確に想像できればその妄想は、現実となる。
初心者のうちは、イメージを補強するために口に出すのが、第一歩。
さぁ、想像しよう。
俺が、望む現象を。
コインが、落ちた。
「タイプ:ウォーター、モード:スコール」
ハルさんの頭上から、滝のような雨が降り注ぐ。
「初手から視界潰しか! いい趣味してんなぁ!」
「風よ!」
降り注いでいた雨が、こちらへと吹き飛ばされる。
自身に追い風を吹かせ、雨を操っているらしい。
だがそんな器用なことをしている暇はあるのか。
「んなっ!」
ハルさんの驚く声が聞こえる。
「早速実践とは、勇気あるな、おぃ!」
「せっかく、教えてもらいましたから」
「さぁ、僕と力比べをしましょう」
相棒の声を背に、俺は魔法を解除して駆け出す。
こちらに向かっていた雨が消え、ハルさんが良く見えるようになると、相棒の鞭が長剣に絡みついていた。
俺を対処すれば、武器を失う。
武器を優先すれば、俺の攻撃を受ける。
さぁ、どうする。
「ったく、末恐ろしい新米共だ」
「風底打ち」
直感に従い、横跳びで転がる。
直後、相棒の驚く声が聞こえた。
「今のを避けたか」
一旦距離を取り、相棒と合流する。
「大丈夫か?」
「カルマが急に避けたからね。反射的に動いたら、近くを風が通り抜けていったよ」
不可視の風魔法。
ゲームみたいに、色でも付いてくれりゃ楽なんだが…現実は、そう甘くない。
「鞭も外されたし、プランAは失敗だね」
「だな。じゃあ、プランXで行こう」
「作戦会議は終わったか?」
返事の代わりに、俺たちは左右に散開する。
プランXは、両サイドから対応される前に殴り倒す。
要は、いつも通り臨機応変に、ボコそうぜ。




