第4層目
各々が得意な武器を手にして訓練場へ入ると、ハルさんがバスケットボールのコートほどの広さがある舞台の上で準備体操をしていた。
「おう、来たか」
「おまいさんたちも軽くほぐしな。ジョウモクさんの推薦状だから疑うつもりはないが、その分ハード目にいくからな」
「分かりました」
「だってさ、相棒」
「いつも通りやるしかないよ。ほら、柔軟しよ」
体をほぐしながら、俺はハルさんの様子を観察する。
「見た感じ、武器は長剣でバックラー持ち。オーソドックスな剣士かな?」
「いや、なんか違う気がする」
「実力差がありすぎて直感がうまく働いてねぇ」
スキルは否定も肯定もしてこない。
こうなると、頼れるのは経験則だ。
「この感じ、魔法も絡めてきそうだな」
「先生クラスなら魔法剣士でも違和感ないね」
「仮想、魔法剣士で想定しとこう」
軽く走って体が温まった頃、職員さんから声がかかった。
「朧月さん、音無さん。準備はよろしいでしょうか」
「「大丈夫です」」
「では実技テストのルールを説明します」
「ちなみに、お二人は魔法スキルをお持ちでしょうか」
「俺はないです」
「僕はありますが、攻撃はできません」
「承知しました」
職員さんは一度資料に目を落とし、淡々と続ける。
「試験官と一対一。制限時間は十分」
「スキルの使用はパッシブのみ可。ソウルの使用は禁止」
「勝利条件は、試験官に致命足り得る一撃を与えること」
「敗北条件は、私が続行不可能と判断した場合です」
「質問はありますか」
「試験官側の攻撃レベルは、どの程度でしょうか」
さすがにBランク相当で来られたら無理がある。
「基本的には、Fランクダンジョンに出現するゴブリンソルジャー程度と考えてください」
「分かりました」
「ハルさん、そのレベルでお願いしますね」
「了解です」
「とはいえ、この子たちにはお遊戯会レベルだと思いますけどね」
引きつる相棒の表情。
俺も人のことは言えない。
「ハルさん、依頼料減額になりますからね」
「それは困るな」
「じゃ、番号札順で行こう」
「先に行ってくるぜ、相棒」
「頑張って」
拳を軽くぶつけ、俺は舞台へ向かう。
普段の武器じゃないが、言い訳は通らない。
右手に片手剣。
左手にナイフ。
ハルさんから十メートルほどの位置で止まる。
「いつでもいけます」
「では、実技テストを開始します」
ハルさんは長剣を両手で握り、左腕にバックラーを装着した。
その盾、腕固定かよ!
「両者、位置について」
「始め!!!」
踏み出したのは俺が先だった。
「先手は譲ってくれるのがお約束じゃないんですか!」
「ぐぎゃぎゃ、オデ、ゴブソル。約束、知らない」
距離を詰めてくるハルさん。
リーチは向こうが上。
なら。
俺は左手のナイフを、顔めがけて投げた。
「甘いぞ、赤新米!」
長剣が振り下ろされ、ナイフが弾かれる。
想定内。
直感が警鐘を鳴らす。
―――上だ。
警告に従い前方に飛び込む。
着地して振り返ると、盾を振り切ったハルさんがいた。
「盾で殴るのかよ!」
距離を取って仕切り直す。
「よく避けたな」
「うちのスキル先生が優秀でして!」
「なら、もう少しギアを上げようか!」
その言葉と共に、ハルさんの方から風が吹いてくる。
いや待て、職員さん、止めてくれ。
やれやれ顔してるし。
…腹を括るしかない。
剣術先生、対抗手段は弾くか逸らす。了解。
直感先生、どっちがいける。逸らす方がましか。おっけー。
俺は足を止め、正面から構える。
ハルさんも大上段。
「力比べか?叩き潰すぞ、赤新米!」
距離が詰まる。
三秒。
二。
一。
「だりゃあああ!」
振り下ろされる長剣。
俺は半身になり、勢いに逆らわず受け流す。
刃が滑り、切り上げ。
「甘い!」
バックラーが片手剣を弾いた。
想定通りだ。
俺はそのまま踏み込み、左足を振り上げた。
―――金的。
乾いた音と共に、長剣が床に落ちる。
「判定、致命!勝負あり!!!」
「よっしゃあ!」
「おめでとう、でいいのかな」
「顎狙ったら避けられてたろ」
「それにソルジャーにも金的が有効なのは、学園のダンジョンで証明済みだろ。相棒が」
「それはそうだけども」
「ちゃんとルールは守ったし、対モンスターに関しては勝ったやつが正義って先生も言ってたろ」
「つーこって、次は相棒の番だぜ、ほれ」
呻き声が聞こえなくなったので振り返れば、職員さんからポーションをもらって回復したのか、若干内股かつ涙目のハルさんがこちらを睨み付けていた。
うん、怖い。
Q.
あれだけルールに厳しそうな組織なのに今回の件はいいの?
A.
そのうちスキルとソウルの説明がありますので、そこまではとりあえずルール違反してないんだなくらいでお願いします




