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クラン 魔を狩りし者へようこそ ~深淵を目指す英雄見習いコンビ~  作者: 鎖月 弥生
第1章 駆け出す英雄見習い

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第32層目

 うーん、なんか先生に嵌められて高級料亭に相棒と行く羽目になった気がするが、きっと気の所為だろう。

 それよりもそろそろ起きないと約束の時間に遅刻する。チェストの検証もしねぇとだし起きるか。

 …つか、なんかベッド固くね?


「ふぁーあ、相棒、朝だぞー」


「おうこら寝坊助、もう夜だぞ」


「えー、何言ってるんすか姉御」

「俺ら今起きたばっか…で…」


 姉御…?

 もしかして夢じゃない!?


 鼻腔を抜ける畳の香り。

 目を開ければ、見覚えのない天井。

 慌てて身体を起こせば、呆れた顔した万城目親子がこっちを見ている。


 夢じゃなかった…だと?」


「生憎様、現実だぞカルマ」

「とっととサズキを起こしてこっちに来い。いい加減私はお腹が空いて死にそうだ」


「あっ、うっす」

「相棒ー、起きろー」


 手のひらサイズの過冷却水を生成して、タンコブが2つできた相棒の背中に突っ込む。


 …ふと思ったが、過冷却した水が凍った物ってもっとシャーベット状じゃなかったか?

 俺が普段愛用してる氷刀って数合打ち合えるくらいの強度があるが、これってもしかして()()()なのでは?


 跳ね起きる相棒を横目に思考してると、まるでようやく気づいたかと言わんばかりに脳内に新たな知識が刻み込まれる。


 …氷魔法覚えちゃった。


 恨ましげにこっちを見上げる相棒に周りを見ろとハンドサインを送りながら、氷魔法の記憶を探る。


 はーん、なるほどな。

 どうやら本人に()()さえあれば、近似するスキルの領分を侵食して取得していないスキルを簡易的に使えるみたいだ。


 だから俺がよく使う氷刀はある意味混成魔法みたいなもんだったらしい。


 っと、そろそろメインの思考を切り替えるか。

 ちゃっちゃと席に着かないと姉御がご立腹だ。


「起きたか、相棒」

「流石に姉御がそろそろ怖いから席着こうぜ」


「そ、そうだね…」


 俺たちがお高そうな座椅子に恐る恐る腰をかけたのを見た先生が端末を操作すると、ものの2、3分程で飲み物が配膳される。

 また、それに合わせてコースが始まるようで、前菜や吸い物、お造り等が出てくる。


 …とりあえずどうすればいいのか分からないので、先生の真似するか。


 天の眼を発動して視点を先生の背後に固定する。

 先生の動作の一挙手一投足をチェックして、違和感ないように真似をする。


 まぁ相棒は俺の違和感に気づいたみたいで、捨てられた子犬のような目でこっちを見てる。

 あっ、これちげぇわ。単純に苦手な生魚出てきたからヘルプ出してるだけだな。俺も苦手な生野菜出てるから無理です。


 それに相棒の目の前の姉御なんてかなりテキトーにしてっから大丈夫だ。

 なんでいらないもの先生に押し付けてんだよ…。


 俺は怖いから先生を真似つつ頑張って食べるけどな!!!

 強く生きろ、相棒!


 ーーーーー


 とりあえず美味しい以外の料理の味が分からないでいるが、テンパってソウルを発動して姉御に気絶させられた以外の粗相はしていない…はずだ。


「さて、お腹も膨れてきたことだ」

「そろそろ秋音を連れてきた理由を話そう」


 おっと、ついに本題に入るらしい。


「結論から言うと、秋音には問題児コンビの秘書見習い兼お目付け役になってもらう」


「秘書見習いですか?」


「俺らのお目付け役ぅ?俺らがお目付け役ではなく?」


「おうこら、バカルマ喧嘩売ってんなら言い値で買うぞ」


「いやだって、今でこそ俺らが問題児コンビだの言われてますけど、元々の筆頭問題児は姉御だったじゃないっすか」


 俺らが学園で色々自由にやらせてもらえてたのは、冒険者がある程度自由ってのもあるが、間違いなく姉御という前例があったからだと思う。

 つうか学園長から直に言われてっし。


 姉御も心当たりが大いにあるのか目を逸らしてる。


「カルマの言わんとすることも分からんでもないが」


「父さん!」


「日頃の行いだぞ、秋音」


 先生は抗議する姉御を一蹴する。

 やーい、怒られて…あっ、ごめんなさい調子乗りました、睨まないで。


「はぁ、お前ら話を続けるぞ」


「うっす」「はーい」


「まぁそれでだな、簡単に言うとお前らは目立ちすぎだ」

「ハル坊との私的な模擬戦、【草むら】での乱獲、【火花】での大量納品…挙句の果てに空を走る執事と主人」


「うちの大学でも噂になってるぞ、お前ら」

「評価としては凄い人達がいる系と調子に乗ってるヤツらがいる系の二分だがな」


 うへぇ、確かに探られてるような視線を感じることが多々あったが、そこまで目立ってる自覚はなかったな…。

 まぁ相棒の容姿いいしなくらいで流していたが、どうやらそういうわけでも無さそうだ。


「お前らの目標的に最短最速を駆け抜けようとしてるのはわかる」

「だがそれでは余計なしがらみが発生することもある」


「それはまぁそうっすけど」

「でもだからといって手を抜くことはできないっす」


「それで死んだら元も子もないですしね」


「それはそうだ。だからお前らに秋音を付ける」


 姉御が腕組んでドヤ顔してる。

 と言うことは姉御はその役割を受け入れたのか。一体どういう風の吹き回しだ?


「秋音の強さはお前らの知っての通りだ。それに何も一緒にダンジョンに潜れとは言わん」

「秋音も自分のパーティがあるからな」


「それじゃあ僕たちのお目付け役にはならないのでは?」


「あぁ、ダンジョン内のお目付け役にするつもりはない」

「どちらかと言うとお前らがダンジョン外でやらかさないようにするためのお目付け役だ」


「要はお前らが自重せずに入手した物を換金するから目立つんだ。私がそこら辺調節をしてやる」

「うちの大学にまで噂が来るくらいだ。どうせ収納袋の一つや二つ、選定で手に入れてんだろ」


 あー、なるほど?

 要は2人で探索して入手するのにおかしくない量に姉御が制御してくれるってことか。


「それに私の将来の夢はお前らの知っての通り、大手クランの事務で仕事して悠々自適な生活を送ることだ」

「その為には学生のうちに素材管理や冒険者のスケジュール管理、売買交渉の経験があればあるほど優位になる」


「じゃあ俺たちでその練習がしたいと?」


「そういう事だ」


 理由は分かった。

 確かに俺たちは学園を卒業してから自重せず色々やってきたからな…。


 俺の中で結論が出たので相棒の方を見れば、向こうも同じ結論を出したようだ。


「姉御」「秋音先輩」

「「よろしくお願いします」」


「よろしい、お前らの敏腕秘書になってやる」

「どうせ確定申告とか役所関係は苦手だろ、そこら辺も手配したりしてやるからお前らはダンジョンのことだけ考えてな」


 ありがたくお世話になろう。


「お前ら話は纏まったな。それじゃああとはのんびりデザート食べて帰るぞ」


「にしても先生、今日はどうしてこんな高級料亭にしたんですか」

「緊張し過ぎて味が一切分からなかったんすけど」


「単純にこれからこういう所で食べる機会が出てくるからだ」

「お前らマジで暴れ過ぎだからな?DEAの上層や上位クランが目を付け始めてるぞ」


 げっ、マジかよ。


「だからこういったお店に呼び出される機会が絶対に今後出てくる」

「その時にこういう場に慣れていないせいで空気に飲まれて変な契約をしてしまう、なんてことがないように今日は秘密にして呼んだんだ」


 まぁたしかに今日を経験した以上、次はまだマシだとは思うが。

 それはそれ、これはこれだ。


 せめて心の準備くらいはさせてくれよ先生!!!


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