第29層目
自身の雷に焼かれ、プスプスと煙を上げていた相棒がムクリと起き上がる。
…角はまだ生えてんな。ということは油断出来ねぇ。
「相棒、今はどっちだ」
「大丈夫、まだ僕のままだよ」
「もう、終わった…よね?」
「あぁ。相棒にも聞こえただろ。今回の選定は終わったぜ」
「じゃあ元に戻って大丈夫だね」
「ソウル、人化」
相棒の角がホログラムが消えるかのように消滅する。
これで一段落…と言いたいところだが、そうも言えないんだよな。
「それで相棒、あとどのくらい我慢できそうだ?」
「んー、出来れば早めに発散したいかな」
「身体が治り切ったら確実に我慢できなくなるから、万全の状態より今のがマシでしょ」
「それもそうだな。じゃあやろうか」
「いつもごめんね」
「気にすんな。それより俺もこの後の反動が怖いから、さっさとやろうぜ」
お互いに拳を構え、組手を開始する。
相棒のソウルは2つある。
1つは人化。
効果は種族が人になる事で、反動は人である時間が長い程、鬼人となった時に残虐性等が高くなる。
もう1つが鬼人化。
効果は種族が魔人種鬼人に戻る事で、反動は鬼人である時間が長い程、人となった時に闘争心が抑えられなくなる。
相棒は中学生の頃にダンジョンのせいで、種族が人から魔人になってしまった。
だが、それがどうした。
世間がなんと言おうが相棒は相棒で人類だ。
ダンジョンのせいで種族が変わったんだ。
ならダンジョンで元に戻すことができるだろ。
その方法が見つかるまで俺は、例え1人になろうとも潜り続ける。
まぁ相棒が俺を1人にするとは思えないけどな。
喧嘩しようが拒絶しようが、それでも俺に付いてきてくれる最高にバカなお人好しだからよ。
思考を分割する練習がてら戦闘思考と雑念思考を分けていたが、本調子ではないとはいえ闘争心が湧き出ている状態の相棒とここまで打ち合えるなら、十分実用に足るな。
今回は突発的に生えてきたため行き当たりばったりで運用したが、やはり効果の確認はしたいところである。
それはそれとして相棒の防具ボッロボロやな…。
無事なところを探す方が難しいレベルである。強いて言うならブーツは流石に無事…か?
まぁ風魔法に切り裂かれ、爪に抉られ、雷魔法で焦げたらそらこうもなる。
むしろ鎖が崩壊してない方が凄いかもしれん。
「相棒、ダンジョンから出たらシャワーだな」
「もちろん、そのつもり」
「あーあ、防具新調したばっかだったのにな」
「仕方ないだろ。敵が敵だったんだし」
「んー、でもここまでボロボロになったのは最後の感電のせいなんだよねぇ」
「だから自業自得な面もある」
「自己犠牲の精神が強すぎんだよ、お馬鹿」
「予想はしたが、まさか本当に自分諸共感電させて天狐を麻痺させるとは思わんて」
「えへへ、頑張った」
「褒めてねぇよ」
「ったく、つかこれだけ普通に会話できてんなら、もう闘争心も収まってんだろ」
「あっ、バレた?」
悪びれた顔をした相棒が俺の腕を蹴った反動で距離を取る。
お互いに残心して一礼。
これにて完全にボス戦が終了である。
そう、終了してしまったのである。
「あー、ソウル切りたくねぇ」
「頭痛は受け入れるしかないよ」
「そうだけどよぉ。仕方ない、甘んじて受け入れるか」
英雄模倣を解除する。
身体に激痛が走る。
極限集中を解除する。
頭に激痛が走る。
むーりーでーすー!!!
頭から足先まで全部痛い!
精神面に出る反動よりマシって言われてるけど、肉体面に来る反動も痛いっての!!!
「元気にのたうち回ってるね、打ち上げられた魚みたい」
「相棒…ポーションかけてくれ…」
「はいはい、ちょっと待ってね」
俺たちがボス部屋に降り立った時に捨て置いといた荷物を拾いがてら、相棒がポーションを取り出して自身と俺に振りかける。
じんわりと痛みが和らいでいき、1分も経たないうちに起き上がれるくらいには回復する。
「あー、あんまのんびりしてっとボスがリポップするし、そろそろ帰還するか」
「ということで相棒おんぶしてくれ」
「それは別に構わないけど荷物はどうする?」
「俺に任せとけ」
せっかく空間魔法を手に入れたんだ。みんな大好きアイテムボックスを創造しよう。
それはどこまでもスクロールできる方眼の描かれた平面の板。
それは各マスが1アイテム限定で無限に入る底なしの箱。
それは収納した物の時が止まる絡繰箱。
それは専用端末から俺が許可した人が何時どこでもアクセスできるクラウド形式のアイテムボックス。
よし、イメージは固まった。
今の俺ならできる。きっといける。
「タイプ:スペース、モード:インフィニティチェスト」
目の前にスマホサイズの端末が2つ出現する。
片方を相棒に投げ渡し、画面をタップすると方眼紙のホログラムが浮かび上がる。
試しに1マス目をタップして、腰のホルスターのポーションに近づけるとポーションは端末に吸い込まれていった。
「相棒、試しにポーションを入れてみたんだが取り出せるか?」
「えっと、方眼の左上に出てきたやつをタップしたらいいかな」
「あぁ、タップして個数選択したら取り出せるはずだ」
「分かった、試してみるね」
相棒が端末をタップしてホログラムを浮かび上がらせると、1番左上に格納されているポーションを選択する。
すると端末から吐き出されるようにポーションが相棒の手に収まった。
「ふぃー、何とかイメージ通りにいったか」
「便利だけどこれはどれだけもつの?」
「さっきの戦い中に並列思考を手に入れたから、俺が気絶しない限りもつはずだ」
「睡眠時はチェストのイメージを任せてるとこだけ起こしとけばいいから、まぁ多少眠りは浅くなるかもだが誤差だろきっと」
「そか。なら基本的にカルマが起きてる間はずっと使えるって感じだね」
「あぁ、その認識でいいはずだ」
「あとは時間がちゃんと止まってるかだが、それはまぁ後で確認する形でいいだろ」
「そうだね、今は帰還を優先しようか」
「僕も早くシャワー浴びたいし」
「よっしゃ、じゃあ宝箱開けてチェストの中突っ込んで帰るか」
相棒が持ってきてくれた鞄の中身をチェストに移し、雑な偽装だが鞄を背負って相棒におぶわれる。
俺をおぶった相棒が宝箱を開け、中身をポンポンとチェストに突っ込んでく。
…なんか防具多ない?
あっ、狐面も出た。今度は頰当だ。絶対装備しよ。
素材もゴロゴロ出てるし、オマケにDランクボスの魔石だからすげぇデカい…。いったい幾らになるんだか。
「残念、スキルオーブは無かったね」
「俺も相棒も戦闘中に増えたし別になくても構わんさ。むしろ急に増えすぎても手に余るだろ」
「たしかにそうだね」
「沢山手に入った防具が僕に合うといいけど」
「そうだな、魔法耐性が高いといいな」
「うん」
戦利品にワクワクしながら帰還箱を通過する。
あー、疲れた。
シャワー浴びたらホテル戻って一眠りするか。
ただその前に先生に連絡入れとかないとな。流石に英雄選定とはいえ、FランクボスがDランクボスに変わるなんてイレギュラーもイレギュラーだろうし。
なんにせよ無事に生きて帰還した俺たちの勝ちか。
この調子で貪欲に勝ち続けて、いつか相棒を元に戻す。
相棒を元に戻したいってのは俺のエゴだが、地獄の底まで背中を預けろって言ったのはお前だからな。
悪いけど付き合ってもらうぜ、相棒。
でもとりあえず先ずは起きた後の祝勝会だな!
「相棒!明日は休みにして祝勝会がてら焼肉行こうぜ」
「賛成、ちょっと良いとこ行こうね」
「おうさ!」
牛タンが美味しいお店予約するとしよう。
焼肉は牛タンが至高、異論は聞く。
今回出てきたアイテムボックスは、某マイン〇ラフトの工業化MODにある「ME倉庫」をイメージしています。
分からない方は某ありきたりの方の動画を見ると、なんとなく雰囲気が伝わると思います。




