第28層目
Side カルマ
気配を消して隙を伺いつつ魔法を相殺していると、相棒が天狐に叩き落とされる。
「相棒!?」
くそっ、最近相棒は鬼人になってなかったから、呑まれるのが普段より早いな。
相棒が権能の意志に呑まれ始めると、残虐性が上がると同時に慢心が出てくる。
今もその慢心によって天狐に叩き落とされた訳だ。
相棒の方へ駆け寄ろうとすると、冷たい突風がこちらへと吹いてくる。
マズイな。相棒が一向に起き上がらないとは思っていたが、ダウンバーストモドキで拘束されているのか…。
天狐の魔法を阻害するため、隠密が解けるのも構わず水魔法で弾幕を張るも、この威力じゃ意に介してもらえない。
しゃーない。こうなったら一か八かやるっきゃないか。
集中力を高め、思考速度を加速させる。
ワンテンポ遅れて認識していた世界が更に遅くなり、静止しているようにすら見える。
この集中も長く続かない。ササッとやろう。
魔法は基本的に一度に一属性しか使えない。
そらそうだ。発動するには、その魔法で起こす事象をイメージしないといけないのだから。
例外的に水と氷や風と雷など、似通った事象であれば混成魔法として発動ができる。
まぁそれはどうでもいい。
今からするのは理論上は可能だが、実現は現実的じゃないと言われる別系統混成魔法なのだから。
実害は無くとも、顔に撃ち込まれ続ける弾幕は鬱陶しいのか、天狐はダウンバーストの維持以上の事をしてこない。
効果の程は分からないものの、弾幕を止める事で天狐が他の行動をする可能性がある以上、維持するしかない。
へへっ、弾幕を張りながら別属性の混成魔法か。
やってやろうじゃねぇか。
弾幕のイメージを継続しつつ、傷の再生を遅らせる呪いを込めた狐火の核を、流線型の水弾で覆うイメージをする。
狐火なんだ。水で消火なんてされる訳ない。
そうイメージしても具現化しきる自信がない。
何か一つ、もう一手あれば掴めそうな気はする。
それこそ弾幕のイメージさえ別枠で出来れば…。
できるのか?思考の並列化を。
今まで頭の片隅でイメージを継続しつつ思考していたが、完全に分離してイメージ専用と思考専用にする。
できるできないじゃなくて、やるっきゃないか。
おいこらスキルに眠る英霊達。どうせこっちを見てるんだろ。
だったら力を貸しやがれ。
直感に従い、俺にそっくりの分身を水魔法で創造する。
認識する全てが極限まで遅い世界で、ゆっくりとだがもう一人の俺が創造されていく。
それに合わせて分身に、俺が継続している弾幕のイメージを貸与する。
これで俺は混成魔法に集中できる。
弾幕のイメージを分身に任せ、混成魔法を創造する。
弱々しくとも決して消えない呪いの炎を、怨敵まで届ける水弾を。
あと半歩。それでイメージを具現化できる。
…!
来たぜ、最後のピースが。
たった今新たに増えた知識に従い、思考を狐火と水魔法、天の眼に分割する。
さぁ、混成魔法を創造しようか。
世界の速度が元に戻る。
待ってな、相棒。
「タイプ:カオス、モード:カース ミサイル」
天狐の背後に呪いの炎を宿したミサイルを創造し、発射する。
死角から飛来した魔法に、流石の天狐も反応できず尾の中央に着弾。
五尾あるうちの三尾が燃え上がる。
「天の眼で見える範囲を全て生成範囲にできるのズルいな」
今までは天の眼から得られる情報は三割程度しか活かせていなかった。
だが思考を分割して単一処理させることが可能になったので、余すことなく活用できる。
流石の天狐も混成魔法は効いたようで、燃え上がる炎を鎮火しようと四苦八苦している。
今のうちに相棒を…って大丈夫だな。
相棒の一喝が耳に届くと同時に大地に衝撃が走る。
だいぶ弱まったダウンバーストが土煙を晴らす前に、隠密を再発動しておく。
土煙が一瞬で晴れると、愉快な姿をした相棒がクレーターから出てきていた。
「カルマ!」
「僕は大丈夫だから君のやりたい事をして!」
「分かった。じゃああいつを五秒だけ拘束してくれないか」
「任せてよ、相棒」
「信じてるぜ、相棒」
何をどうしたのか、さっきまで呑み込まれてた相棒が表に返り咲いている。
この気を逃したら面倒くさそうだ。確実に決めよう。
さっき混成魔法を発動した際にもう一つ増えた知識に従い、イメージを固めていく。
それは扉。
それは門。
それは…道。
座標と座標を空間で繋ぐ、擬似回廊。
更に愉快な姿になった相棒によって、目まぐるしく天狐は動く。
…点Pは動くなよ、ほんとに。
五秒。たった五秒だけでいい。
その僅かな時間だけ座標が固定出来れば、この戦いに終止符が打てるんだ。
頼んだぜ、相棒。
Side サズキ
嵐鎧を発動させ、強風域を暴風となって通り抜ける。
空中を一歩踏み出す度に加速し、瞬刻の間に天狐の目の前に至る。
ここまで加速してもなお、天狐は僕の姿を捉えており、前足を振るって迎撃してくる。
一合、二合と僕の拳と天狐の爪がぶつかり合い火花が散る。
天狐の爪が僕の皮膚を裂き、僕のガントレットが天狐の爪を砕く。
嵐鎧が纏う雷が天狐の動きを鈍らせ、天狐の風魔法が僕を遠ざける。
雷は効いている。出力を上げればスタンガンみたいになるかな。
嵐鎧を形成する雷を右腕に集める。
「轟雷の腕」
バチりと青白いスパークが右腕から空気中を走る。
これならいける。
「これで終わらせるよ」
三度…吶喊。
嵐に紛れて雨が降る。
何度も見た僕の速さに目が慣れている天狐は、完璧なタイミングで僕を迎撃する。
ありがとう、賢くて。
僕は轟雷の腕以外を全て解除する。
暴風は止み、空中の足場は消えてなくなる。
そして僕の身体は重力に引っ張られ、地面に向かう。
僕が肉薄するであろう読みで振るわれた前足が虚空を掻き切る。
体勢を崩した天狐に鎖を巻き付け、右腕で強く引き締める。
雨に濡れた鎖を雷が伝い、僕と天狐を感電させる。
さぁ、条件は平等だよ。
どちらが先に焼き焦げるか、我慢比べしようよ。
ただ、ごめんね。
僕には相棒がいるからさ、この勝負絶対に負けないよ。
Side カルマ
流石だよ、相棒。
相棒が何をしようとしてるのか薄らと想定できたから雨を降らせたが、思った通りだったようだ。
相棒の雷に痺れた天狐の動きが止まる。
「タイプ:カース、モード:ディスコネクト」
手に持つ大鎌に、全ての物を切断する呪いの炎を焚べる。
準備は整った。この戦いに終止符を打とう。
「タイプ:スペース、モード:ジャンプ」
目の前の景色が歪む。
瞬きする一瞬のうちに、目の前に天狐のうなじが現れる。
無防備なうなじに向けて空間ごと薙ぎ払うように振るった大鎌が天狐の首を切断し、頭と胴体を泣き別れにする。
勝負あり。
…なんてな。
自由落下に身を任せながら、燃えずに残っていた二本の尾に向かって大鎌を振るうと、片方が空中を滑るように回避する。
俺の攻撃を避けた尾が白い煙に包まれ、小さな狐が姿を現す。
何故バレたと言わんばかりにこちらを睨む小狐…。
その行動は既に予習済みなんだよ、ここの本来のボスでな。
天狐本体を切り裂こうと大鎌を振り上げるも、呪いの炎に耐えきれず溶解する。
落下しながら腰から小太刀を抜き、こちらを警戒してその場に佇む天狐の元へとワープして斬りかかる。
突然目の前に現れた俺に驚くも、自身を斬り裂こうとする小太刀を受け止めようと前足を振るうが、小太刀を捉える事なくすり抜ける。
マヌケ面を晒す天狐の首を掻っ切り、流れるように両手で持った小太刀を胴体へ突き刺し、そのまま天狐諸共地面に落ちる。
地面に衝突の瞬間、天の眼で認識していた安全地帯にワープをして衝撃を回避する。
顔を上げれば砂埃とともに黒い煙が立ち上っていた。
それと同時に脳内に声が流れる。
『英雄選定を超えた事を確認』
『選定者よ』
『英雄を超えよ』
うっせー、ばーか。
こちとらこっから第2ラウンドの可能性が高ぇんだよ。
そうだよな、相棒。




