第26層目
その後もチラチラとこちらを気にする視線を無視して、相棒とのんびり休憩していると篝火の色が変化し、苦労人お姉さん達はボス討伐に向かって行った。
フルパだったし、焔狐くらいなら数の暴力でどうにかなるやろ。
というかむしろ2ヶ月潜っててどうにもならないのなら、冒険者に向いていないとまで言える。
「さっきの感じだと3、40分もしたら俺らの番だな」
「そうだね、装備の点検は済んだしそろそろ身体を解し始めようか」
「だなぁ、んじゃいつも通り軽く素振りしてから組手でもするか」
扉の近くまで荷物を移動させ、ゆっくりと型を確認しつつ身体を温めていく。
俺も相棒も無心で15分程素振りを行い、固まっていた身体が解れてきた。
「よっしゃ、そろそろ組手しようぜ相棒」
「ん、わかったよ」
「今回は木刀がないし、氷刀の刃を潰して生成できる?」
「もち、任せろ」
普段組手に用いる木刀をイメージしながら氷刀を生成する。
「待たせたな、始めようぜ」
俺が声をかけると同時に相棒が突っ込んでくるので、刀の峰で拳を弾く。
氷刀から細かい破片が飛び散る。これは4、5発弾いたら砕け散るだろうな。
俺の中で蛮族流派の名を欲しいがままにしている鳴無流だが、その理念もまた蛮族の名に恥じない。
なんだよ、触れる物全て破壊すれば己と身内を護れるって。
力を制御できない悲しきモンスターか?
そんな事を考えながら相棒と組手のペースを上げる。
ギアが上がれば上がるほど、お互いの身体に獲物が当たる回数が増える。
氷刀を生成しても次の瞬間には砕かれている、相棒のやつ再生成できるからって本気で砕きにきてるな。
…にしても鳴無流、防御の型が少な過ぎて純粋な喧嘩殺法と大して変わらないの、やっぱ相対しててキツいって!!!
牽制の攻撃にあえて当たりに来て、そのまま攻撃に繋げてくるの普通に辛い。
それを理解してるからこっちも牽制にある程度威力を乗せてるから、お互い様ではあるが。
そんな感じでその後も10分程組手を続け、程よく身体が温まってきたところで篝火の色が変化する。
相棒も気づき、お互いに残心、一礼。
…開始の合図が無いのに終わりが一礼なのほんま不思議。
まぁ終わりなかったら辛いのでいいのだが。
「思ったより早かったね」
「そうだな、だがいい感じに感覚が研ぎ澄まされてるし丁度いい頃合だったな」
「準備して行こうぜ」
「うん」
俺はポーションを飲みながらボスに挑む準備をする。
いやほんと、お互い割と本気で殴り合うから肋骨1、2本くらい折れてるなんてザラにあるんだよな…。
だから組手終わりにはポーション飲まないとやってらんない。
その点、相棒はポーション要らずなので経済的観点から見るとお得である。
その代わりに組手中に何度も骨が折れるとなると、俺は真っ平御免だけどな。
さて、ポーションで回復したことだしサクッとボスを討伐しますか。
「相棒、準備はいいか」
「もちろん、いつでもいけるよ」
「んじゃ、行こうか」
両開きの扉に手を掛ける。
相も変わらず音1つ立てずに開いていく扉の先の漆黒へと向かう。
ちゃちゃっと倒して、いい加減別のダンジョンに行こうか。
厄介なのに絡まれる前にな。
――――――――――
視界が漆黒から切り替わり、満点の星空と紅の鳥居が目に飛び込んでくる。
それと同時に脳内に声が響く。
『これより、英雄選定を開始する』
はぁ!?
英雄選定だと!!!
突然の事態に俺と相棒が思わず硬直したところに、上空から突風が吹きつけてくる。
吹き飛ばされそうになるのを何とかこらえながら天の眼で索敵を行う。
…おいおい、マジかよ。
「相棒、敵は上空だ」
「どうやら一筋縄ではいかなそうだぜ」
天の眼で広がった視界に映ったのは、焔狐よりも一回り小さいがそれよりも圧倒的に強者の威圧感を放つ、五本の尾をもつ漆黒の狐だった。
「あれは…天狐」
「Dランクダンジョンでボス枠として出現するモンスターだよ」
「ははっ、Dランクのボスか」
「いいじゃん、やってやろうじゃん」
学園にいた頃からここ1年くらい、ずっとFランクのモンスターじゃ物足りなかったんだ。
Eランクすっ飛ばしてDランクなんて丁度いい。
今の俺たちがどこまでやれるか試金石とさせてもらおう。
「初っ端から全力でいこうか、相棒」
「りょーかいだよ、カルマ」
「後処理はお願いね」
「応ともさ」
深く、深く集中するために通常の視界を閉じて大きく息を吸う。
隣で相棒の存在感が膨れ上がるのを感じる。
後のことは未来の俺がきっと何とかしてくれるだろう。
今は目の前のこいつをどう倒すかだ。
さぁ、俺らを楽しませてくれよ。
ソウル、極限集中…起動!
思考速度が上昇したことにより世界がワンテンポ遅くなる。
閉じていた目を開けば隣には、額から一対の淡く紫に光る角を生やした相棒がいた。
俺のソウルは左目が金色に輝く形で出るが、相棒のソウル、鬼人化は額に角が生える形で現れる。
「カルマ、僕は先に行く」
「あぁ、行って来い相棒」
地面に亀裂が走る。
次の瞬間には相棒が天狐に肉薄していた。
あれで天の道を使っていないんだ。
相変わらずの身体能力だな。
さて、空中で肉弾戦を始めた相棒の援護をするとしますか。
天狐が各尾に生成して発動待機状態になっている魔法に座標を合わせてライフルを放つ。
俺が放った水弾が魔法に当たるも、維持を多少乱雑にさせた程度の結果しか得られず、発動を阻害させるに至らなかった。
ちっ、純粋に火力が足りてないか。
まぁ悔やむのは後でいい。
それよりも今はそろそろ放たれるあれから相棒を守ることだな。
天狐が尾から放った炎弾と水弾を阻むように水の壁を生成。
炎弾は蒸発し、水弾は一体化する。
そして水の壁に波紋が広がる。
最初の突風で薄々気づいていたが風魔法まで使って来るのか…。
厄介だな。
やっぱり無色透明攻撃って反則だろ。
さぁどうする俺。
敵は上空で相棒と肉弾戦を繰り広げる。
魔法の練度や威力はあいつの方が上。
俺の手札では決定打に欠ける。
…全力を超えるか。
「英霊喚起」
対象のスキルは隠密。
目指すは短期決戦。
「英霊模倣」
「タナトス」
身に纏う外套が風も無いのにはためきだす。
無意識に生成した俺よりも大きい氷製の大鎌が手元に収まる。
狐面の耳が青白く燃え上がる。
さぁ、魂を刈り取る準備をしよう。




