第25層目
武器防具その他諸々を購入した結果、パーティ資金がすっからかんになってしまった。
いやぁ、学園でダンジョンに潜ってた頃から貯めてたものが一気に無くなると喪失感が凄いな…。
まぁでも俺も相棒も個人資産に余裕があるからそこまで問題では無いけどな。
最悪そこから出せばいい、この狐面も自費で買ったしな。
「お金、また稼がないとだね」
「だな、今度はちょっと人気無さげなとこ行こうぜ」
「塩漬けになってる依頼片っ端から消化して荒稼ぎしよう」
「いいと思う、機動力も索敵もだいぶ効率上がったもんね」
「おう、という訳で明日サクッと【火花】を踏破しに行こうぜ」
「モンパニの時は連戦だったからソウルを使ったけど、あのレベル感なら無くてもどうにかなるだろう」
できることならあの頭痛は避けたいんだよなぁ。
マジで頭割れそうなくらい痛いからよ…。
―――――――
という訳で翌日、相棒に背負われ空を駆け抜けること数時間。
途中でお昼休憩を挟んでボスのいる最終階層へ到達した。
扉の前にはチラホラと同業者たちが見える。
見た感じ2パーティくらいか?
そう思っていたところ篝火が青から赤に代わり、待機していた1パーティがボス部屋へと入っていった。
「おっ、ラッキー、思ったよりも混んでないな」
「みたいだね、これなら身体冷やさなくて済むかも」
ボス待ちだけはなぁ、本当に辛い。
せっかくここに来るまでにウォーミングアップを済ませてきても、同業者たちの待ち状況次第で身体が冷えてしまうことが多々ある。
そしてそういう時に限って前の人達がサクッと倒してウォーミングアップが中途半端になるんだよなぁ…。
俺たちが待機場所を吟味していると、順番待ちしてるパーティから歳が近そうな人が2人で寄ってくる。
女性2人組だしどうせ相棒目当てやろ。
後ろ下がっ…。
おいこら相棒!
シレッと背中押すな!
隠れるように立つな!
「こんにちは」
「こ、こんにちは、俺たちに何かご用でしたか?」
「んー、用ってほどでは無いけどちょっとした確認かな?」
「確認ですか?」
「そう!そっちの彼に彼女が…」
だよなぁと思ったら最初に挨拶をしてくれた方がワンドでぶん殴った。
痛そう…。
「違うでしょおバカ!」
「気を悪くしたらすみません、単純に今このダンジョンで噂になってる方達に会えたので…」
「噂…ですか?」
「相棒、なんか知ってる?」
「んー、いや僕は何も心当たりないかな」
「お二人共換金した後、すぐホテルに戻るかご飯を食べに行かれてしまいますから、知らないのも仕方ないかと」
ふーん、そんなことまで見られてるのか。面倒だな。
「それでその噂がどうしたのですか?」
「曰く、空を駆け抜けるイケメン執事と眠る主人」
「曰く、神出鬼没の剣士と冷酷無情の従士」
「曰く、美人執事の鞭に叩かれて調教されたい」
「曰く、超絶イケメンに負けるな魔法剣士君」
「曰く、自殺志願者もしくは自意識過剰狂人コンビ」
やっべぇ…。
俺今絶対口元引き攣ってる。
主に相棒に叩かれたいお姉様方がいる事実に笑いを堪えないと肩が握り潰される。
相棒…俺の肩から異音してるぜ?
ギチギチミシミシ言ってるよ?
「などなど、色々と目撃情報やら何やらがありまして、私たちの中では人物像がブレブレで…」
「探索中は基本的に余計な諍いを避けるために話しかけれないですし、協会には換金所に2人で探索したにしては多すぎる素材を毎日出して換金したらすぐ帰りますしで誰も彼も遠目で見ることしか出来ない」
「ミステリアスなイケメンと元気っ子好青年だと私は予想してます!」
あっ、ワンドで殴られて蹲ってたお姉さんが復活した。
その横でお姉さんはワンドをもう一度振りかぶってる。ギリセーフか?
「ここで会ったのも何かの縁ですから待ち時間に情報交換がてらお茶しませんか!」
「これでも私たちここのダンジョンに2ヶ月程常駐してるのでボスとかも詳しいですし!」
「ボスの情報代わりにお兄さんたちのプライベートな情報を…」
あっ、アウト判定出た。
ワンドが振り下ろされギャルっぽいお姉さんが地面にのびる。
そしておそらく風魔法で吹かせた強風でお仲間さんのところにいい勢いで転がしてった。
悲鳴が聞こえたけど気のせいだな。
なむなむ。
「すみません、うちのおバカが…」
「最近彼氏に振られたばかりで、情緒不安定気味なんです…」
「いっ、いえいえ、慣れてるので大丈夫です、はい」
まぁ学生時代にも良くあったしな。慣れてるのは間違いない。
ただ相棒、そろそろ俺の左肩が死ぬぜ?
「それで要件としては結局俺たちの人となりが知りたいとかで大丈夫ですか?」
「そうですね、そんな感じになります」
「ただあのおバカのせいで流石に日を改めたいと思いますが…」
「そうしていただけると助かります、また機会があればDEAの休憩スペースとかで」
「ですね、本日は失礼しました」
「これはおバカが迷惑かけたお詫びのポーションです、見ての通りダンジョン産の物なので売るなり使うなりご自由にお使いください」
「では失礼しました」
苦労人そうだなこのお姉さん…。
社交辞令のつもりだったが、機会があれば本当に話をしてみてもいいかもな。
横の繋がりはあって損ないし。
「ほら相棒、いい加減肩から手を離しなさい」
「俺の肩が砕ける…」
「あっ、ごめんねカルマ」
「でもカルマも水魔法のイメージ消しなよ?」
「バレてたか」
俺は何時でも放てるようにイメージしていた8発のライフルと天の眼を解除する。
苦労人さんも言ってたが、ダンジョン内で他の冒険者に話しかけるのは余計な諍いを産む要因にしかならない。
特にボス部屋前なんて張り詰めてた緊張を解してることが多く、顔見知りでもない相手に緊急の連絡事項と待ちの順番を伝える以外で話しかけるのはご法度とされている。
それこそ学園では口酸っぱくここら辺について教えられ、実技テストの際等にも見られる点なのだが、見た感じお姉さん達は大学生っぽいので高校卒業後からダンジョンに潜り始めた感じなのだろう。
まぁ苦労人お姉さんに免じて最大限の警戒から最低限の警戒に変更しとくとしよう。
…とりあえず貰ったポーション飲んどこ。
相棒に砕かれかけた肩が痛い。
おかしいな、このダンジョンに潜り始めてから一番のダメージを食らった気がする。
「どうしたのカルマ、ポーション飲んで」
「おまいさんに握られてた肩が痛くてな…」
「あっ、ごめんね」
申し訳なさそうな顔をするんじゃない。
相棒があのタイプの女性苦手なのは分かってっからよ。
ただ次回以降はもう少し手加減してくれると助かる。
よろしく頼むよ美人調教執事君!
くけけ!




