第1層目
本話は同時投稿分の1話目になります。
この後も続けて投稿していますので、よろしければこのまま読み進めていただけると嬉しいです。
2019年3月8日。
快晴。
名古屋八咫学園――卒業式当日。
ダンジョン科を有する高校の中でも、トップクラスの成績を誇るこの学園で俺と相棒は無事、この日を迎えることができた。
これもひとえに、俺たちの我儘を聞き流しつつ呆れながらも導いてくれた担任――万城目先生のおかげだ。
「優等問題児コンビ。お前らもついに卒業か」
「問題児は余分じゃないっすかねぇ、先生?」
「カルマはともかく、僕は“優等生”だけでいいと思うんですけど。どうですか、先生」
「どっちも問題児だわ。破天荒共め」
額に手を当て、しかめっ面で首を振る先生。
いや、別に俺たちそこまで悪ガキだった覚えはないぞ。
せいぜい、カリキュラムをほぼ無視して限界まで突っ走ったり、放課後の先生を捕まえて対人型モンスターの戦術を叩き込んでもらったり。
その他諸々をしたくらいだ。
「まぁいい、それでだ。在学中、お前らはずっと二人パーティで実習を受けてたわけだが…やっぱり、気持ちは変わらんか?」
相棒を見る。向こうも同じようにこちらを見ていた。
一瞬だけ目を合わせ、同時に頷く。
「そうっすね。これからも俺らは、二人でダンジョン攻略を続けるつもりっす」
「他の人と組むとしても、臨時くらいですね」
先生は目を閉じ、顎に手を当てて考え込む。
が、数十秒後には呆れた視線を向けてきた。
「無理やり引き離したり、他の生徒を混ぜた途端、露骨にパフォーマンス落ちたのは見てきた。それでもフルパーティとは言わん。せめて、あと二人くらい入れられんのか?」
「先生、三年間俺たちの何見てたんすか」
「俺らは二人で一人っすよ。増えたら阿吽の呼吸が崩れて、普通に死にますって」
事実、実技授業では二人組の成績は常に圧倒的トップ。
なのに、四人、八人と人数が増えた途端、上振れても「中の上」止まりだった。
俺も相棒も、互いの動きを無意識で合わせてしまう。
その結果、他のメンバーと噛み合わず、先走ったり逆に後手に回ったり。
だから俺たちは先生に無理を言って、他の生徒が課題ごとにパーティを組む中、二人だけで課題をこなしてきた。
「まったく、だから問題児コンビは。もう少し協調性を――」
「先生! 今日は門出の日! めでたい日! お説教は、また今度で!!!」
「それもそうか」
「ごめんね、先生。先生の言いたいことも分かるんだけど、僕たちはどうしても二人でダンジョンに潜るしかないです」
「ったく、お前らは…」
ため息を吐きつつも、先生の目には呆れと、気のせいでなければ、ほんの少しの羨望が混じっていたように見えた。
悪いな、先生。
俺たちは、二人でじゃないとダメなんだ。
先生は一度咳払いをすると、背筋を伸ばす。
「朧月狩魔」
「鳴無紗綺」
「両名を、ジョウモクの名において推薦する」
それぞれに差し出された一枚の紙。
そこには、はっきりと書かれていた。
《上位冒険者推薦状》
「ほぇ!? い、いいんすか、先生!?」
「将来性と意外性を考えた結果だ。今年は、お前らだよ。――俺を含め、ダンジョン科教員の総意だ」
「「ありがとうございます!!!」」
「これがあれば、半年の下積みスキップできる! マジで、ほんまあざっす!!!」
「こうしちゃいられねぇ! 相棒、用事はもうねぇよな!」
「先生への挨拶が最後だったから、大丈夫だよ」
「よっしゃ! ならこの足でDEAに行って、冒険者登録だ!」
「これで、僕たちの仮免も卒業だね」
善は急げ。
俺は鞄を掴み、走り出した。――が。
「だからお前は問題児なんだよ。忘れもんだ」
後頭部に、軽い衝撃。
「成績優秀者が、卒業証書忘れて帰ろうとするな」
「あっ。すっかり忘れてた」
「何やってるのさ、カルマ。それに、もう一つ大事なこと、忘れてるよ?」
その目は、怖いっす、相棒。
テンション上がりすぎました、ごめんなさい。
「んんっ! 万城目先生!」
最後で、最初になる言葉だ。
腹から、声を出せ。
「三年間――」
「「お世話になりました!!!」」
「俺ら二人で、テッペンまで駆け上がります! 後輩たちの面倒見ながら、見ててください!」
「お体に気をつけてくださいね。いい歳なんですから」
「ったく」
先生は、少しだけ笑った。
「最後のアドバイスだ。未知を楽しめ、新米共」
「「はい!」」
その言葉を胸に、俺たちは校門を駆け抜けた。
――なお、どうでもいい補足だが。
相棒は、女子生徒たちのスクラムに捕まっていた。
悔しくなんか、ない。断じて、ない。
ただ、相棒の必死な叫びは耳に届かなかったので。
俺はそのまま、DEAまで全力疾走した。幸先の悪いことに、今日は局所的な雨模様らしい。




