第18層目
天の眼の調整も済ませたし、記憶を辿るのも終わりにするか。
それにしても、脳内に響いた“英雄選定”ってなんなんだろうな。
相棒にも聞こえていたらしいが、そんな名前は都市伝説ですら聞いたことがない。
ちゃちゃっとモンパニを制圧して、DEAの職員さんにでも聞いてみるか。
「相棒、今のワンコロはここの中ボスだよな?」
「そうだね。情報が確かなら焔狗だったね」
「なら一旦折り返しってところか。まだいけるか、相棒」
「ふふっ、僕は大丈夫だよ。このスキルにも慣れてきたしね」
「そうか。ならいいか」
「こっちも酔いにさえ耐えればまだまだ余裕だ、気張ってこうぜ」
「うん」
さぁ、あと何wave残っていることやら。
……!
「相棒、直感先生から気を引き締めろってさ。でけぇの来るぞ」
警告と同時に、背後の神社が倒壊する。
舞い上がる砂埃を吹き飛ばすように火柱が立ち上った。
「…折り返しって何だったんだろうな、相棒」
「さぁね。ダンジョンって気まぐれだから、いきなりクライマックスだってありえるんじゃない?」
「そか。とりあえず俺は本気出すからよ」
「相棒は一旦温存しておいてくれ。反動まで対処できる余裕が残るか分かんねぇからな」
「うん、分かった。でも無理だと思ったら迷わず使うからね」
「わーってら。その時は頼むぜ」
頷いた相棒が空を駆け上がる。
相棒のソウルの反動は厄介だ。
何waveあるか不明なモンパニで不確定要素は増やしたくない。
だからまぁ、頑張るか。
火柱が収まり、砂埃が晴れる。
神社跡地に、象サイズの二尾の狐が鎮座していた。
「焔狐ねぇ」
「このダンジョンのボスが、こんなところで何をしているんだか」
一段、深く集中する。
大きく息を吸い、止める。
十秒ほど待ち、すべて吐き出す。
ソウル、極限集中。
……起動。
――――――
Side サズキ
天の道で空を駆け上がり、地上を見下ろす。
崩壊した神社から立ち昇っていた火柱が収まり、カルマと焔狐が相対している。
「このダンジョンのボスが来たってことは、モンパニも終わりかな」
モンパニは基本的に階層分のwaveがあり、それを全て撃退すると終了すると言われている。
ただ例外もあり、その一つがダンジョンボス討伐時だ。
今回はそれに該当する可能性が高い。
けれど“英雄選定”が不明な以上、楽観はできないかな。
……僕のソウルはまだ使えない。
あれは反動が危険だからね。
頭の片隅でソウルを使用するかどうか考えていると、カルマがルーティンを終える。
そしてカルマの存在感が膨れ上がる。
見慣れている僕でさえ、一瞬目を奪われる。
カルマが左手で髪をかき上げる。
普段は赤紫の瞳が、左目だけ金色に染まっていた。
極限集中発動の副作用だ。
……あの状態のカルマは昔の厨二病時代を思い出すけど、今は落ち着いているし、きっと大丈夫だろう。
ソウルを使用したカルマがいれば、僕たちが負けることはない。
早速、指揮官様から指示が来る。
水魔法で色水を作って伝達とは、本当に器用だ。
お陰で声の届きにくい上空でも分かりやすい。
僕はカルマの右腕で、鉄砲弾で、懐刀。
僕らが望む未来を、この手足で切り拓く。
カルマが上空から広範囲に雨を降らせる。
それに合わせ、僕は焔狐ではなく、その背後の“濡れていない地面”へと駆ける。
今はこの技が一人でできる。
……ご先祖様、まさか単独で出来たりしないよね。
空中で天地逆さまとなり、空気を踏みしめる。
勢いを乗せて急降下を行う。
急速に地面が迫る。
反転。
勢いを全て乗せて、右足を叩き付けるように振り下ろす。
「鳴無流――轟雷鬼」
何もない空間を振り抜く。
手応え。
直後、悲鳴。
濡れていた焔狐の姿が揺らぎ、消える。
何もなかった空間が揺らぎ、幻が剥がれ落ちるように地面へ伏していた“本体”が露わになる。
焔狐の厄介な点は二つ。
狐火による呪いで火魔法の強化と、幻惑によるデコイ生成。
これをカルマは雨で火魔法を封じ、本体を浮かび上がらせた。
僕に伝えられたのはただ一文。
『地面をよく見ろ。真実はそこに』
簡潔で分かりやすい。
……でもやっぱりギリギリ厨二病が抜けてないんじゃないかなぁ
お兄さん不安だよ、相棒




