第10層目
電車に揺られながら移動すること一時間強。
俺たちは目的地であるダンジョンに併設されたDEAの派出所へと顔を出していた。
ダンジョンへ入れるのは冒険者のみ。
そのため侵入の際には、こうして毎回併設された派出所で登録証を提示する必要がある。
正直、面倒ではある。
だが依頼掲示板に更衣室、ロッカールーム、ドロップ品の買取所、果てはコンビニまで――
どこの派出所にも大体一通り揃っているため、文句を言うほどでもない。
まぁ、ダンジョンで得られるドロップ品の価値を考えれば、出入りする人間を厳重に管理したくなる気持ちもわからなくはない。
そんなことを考えつつ、依頼掲示板に表示されたQRコードから依頼を吟味している相棒を眺める。
「相棒、なんかいい依頼あった?」
「うん。僕が想像してたやつがまだ残ってたよ」
そう言って相棒が掲げたスマホには、一件の依頼が表示されていた。
依頼:草緑水豚の毛皮納品(個数問わず)
報酬:一枚につき5,000円、十一枚目以降は3,000円
「草緑水豚は見つけたらスルー推奨って言われてるけど、それはあくまでGランク冒険者の話だしね」
「僕たちなら問題なく狩れるはず。つまり、美味しい依頼ってわけ」
「はぁーん、なるほどな」
「確かに、纏めてくれた情報を見た限り、油断しなけりゃ苦戦はしなさそうだ」
「じゃあ、この依頼を受注しておくね」
「ほいよ、頼んだ」
どれくらい遭遇できるかは未知数だが、スルー推奨かつ非好戦的なモンスターという点を考えれば、それなりに数はいるはずだ。
……結構いい金策になるんじゃないか?
こういうところも含めて、うちの相棒は抜け目がなくて本当に助かる。
思わず拝んでおく。
「何してるの、カルマ……」
「ん? いや、日頃の感謝を込めて拝んどいた」
「さよかい。気が済んだら着替えてダンジョン行くよ」
「ほいよ!」
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着替えを済ませ、登録証を受付の職員さんに提示した俺たちは、派出所の奥へと進む。
道なりに歩いていくと、帯剣した複数の職員さんと、三メートル四方の正方形――漆黒の箱が佇む空間にたどり着いた。
この漆黒の箱こそが、この世界と異空間を繋ぐ門――【ダンジョン】だ。
学園に設置されていたものもそうだが、ダンジョンはすべて同一規格。
人魔震災発生直後は、所かまわず出現したせいで大混乱だったと、両親から聞いている。
――ダンジョンからモンスターが溢れ出したり、な。
「お疲れ様です。登録証のご提示をお願いします」
どうやら、ここでも提示が必要らしい。
厳重なセキュリティだと。
しかもそれを、万が一モンスターが溢れた場合に備えている職員さんがしているあたり、本当に頭が下がる。
「はい、ご協力ありがとうございます」
「それでは、ご武運を」
「「はい!」」
俺たちは漆黒の箱へと近づき、手を触れた。
視界が、黒に染まる。
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視界に色が戻ると、目の前には一面の草原が広がっていた。
振り返ると草原のど真ん中に、三メートル四方の正方形――今度は純白の箱が佇んでいる。
「よし。転移酔いなし、帰還箱確認よし」
「にしてものどかだな、ここ。ピクニックでもしたいくらいだ」
「流石にそれは無理じゃない?」
「ほら、ところどころ草が膝丈まで生い茂ってるし、いかにもモンスターが潜んでそうだよ」
「それもそうか」
残念だ。
帰還箱周辺には定期的にDEAがモンスター避けの魔道具を設置してくれているが、それも絶対ではない。
流石にピクニックは命知らずすぎるか。
「じゃ、行きますか」
「うん」
歩き始めて五分ほど。
視界の端で同業者たちが戦闘しているのを横目に見ながら、相棒と他愛もない話をしていると、近くの草むらから物音がした。
相棒に静止のハンドサインを送り、俺は即座に魔法のイメージを固める。
「タイプ:ウォーター、モード:ガイザー」
草むらから間欠泉のように水が噴き上がり、小型犬サイズの何かを空中へと打ち上げた。
「ッシ」
打ち上げられた小型犬――草緑鼠に向かって、相棒が鞭を振るう。
見事に巻き付き、こちらへと引き寄せられたその瞬間、俺は愛剣を振るった。
草緑鼠は短い断末魔をあげると、黒い煙となって消える。
「んー、ドロップはなしか」
「ドロップ率渋いし、落ちたらラッキーくらいでいこ」
「だな」
この感じなら、複数体来ても問題なさそうだ。
それにしても、ランダムスキルオーブで水魔法を引けたのは本当にデカい。
相棒の鞭もDEAの支給品とは思えないくらい馴染んできている。
この調子で、どんどん潜っていくとしよう。
それはそれとして。
ポメラニアンサイズの鼠って、意外と怖いのね。




