第9層目
冒険者登録から一週間。
俺たちはまだ一度もダンジョンに潜ることなく、今日も今日とてDEAに来ていた。
「サーズキー、いい加減どっかダンジョン潜ろうぜぇ」
「今、最終選定してるところだから。もうちょっとだけ待って」
「それに学園以外のダンジョンに潜るのは初めてなんだから、慎重に吟味しようって言ったのはカルマでしょ」
「それはそうだけどさぁ……」
ここ一週間、俺も相棒も朝はゆっくり派ということもあって、のんびり起きて昼頃にDEAで集合。
訓練場で新スキルの使用感を確かめるため、案山子相手に練習を行い、夕飯を済ませてからDEAが開放している資料室で挑むダンジョンの選定。
――そんなスケジュールで過ごしている。
DEAの各支部には、規模に関わらず必ず資料室が備え付けられている。
そこではDEA専用回線を通じ、冒険者のみが閲覧可能なサイトへアクセスすることができる。
このサイトでできることは多岐にわたる。
各地のダンジョン情報はもちろん、判明しているスキルの解説や取得方法、さらにはクランメンバーの募集情報まで網羅されている。
非常に便利なシステムではあるが、セキュリティの観点から端末数を多く用意することが難しく、利用するにはその都度申請が必要だ。
しかも申請はパーティー単位でしか行えない。
俺としては二、三日使ってテキトーなGランクダンジョンにでも行けばいいかな、なんて思っていたのだが――
うちの相棒は「優等生」と言われていただけあって、複数のタブを開きながら手元のノートと睨めっこしている。
タブレットの一つでも持ち込めれば話は早いんだが、そこはセキュリティに厳しいDEA。
入室時には例外なく、金属探知の魔道具によるチェックが行われる。
どうやら錬金術系のソウル持ちが作成したものを元にしているらしく、収納系の魔道具・スキル・ソウルの関係なく金属反応を探知する仕様らしい。
一部の冒険者からは、申請や持ち物チェックが面倒だという理由で、資料室自体が結構嫌われていたりもする。
それでも足繁く通うあたり、うちの相棒は流石だ。
ちなみに俺は三日前に飽きたが、申請はパーティー単位のため、今日も今日とて相棒が資料と睨めっこしているのを眺める係だ。
「うん、やっぱりここかな」
「おっ、やっと決まったか。ありがとな」
「別に構わないよ。好きでやってることだし」
「それに、ぶーたれつつも僕が聞いたことにはちゃんと答えてくれたでしょ。それで十分」
「そら、調べるのを一任してる以上、聞かれたことくらいはちゃんと答えるさ」
「それはそれとして、どこのダンジョンにするんだ?」
「ちょっと遠いけど、名古屋の方のダンジョンにしようかなって」
「その心は?」
「モンスター情報的に、新スキルを試しながら進むのに丁度いいのと、実入りが良さそうだから」
「あとついでに、いい加減僕の鞭を買い替えたいから、愛知支部のショップに寄りたいんだよね」
「あーね。了解」
「ダンジョンの情報、あとでDascoのいつものチャンネルに貼っておくから、確認しておいて」
「ほいさ。頭に叩き込んどくよ」
「それじゃあ、明日は一日オフにして、明後日の八時に駅集合ね」
「おっけー。んじゃまあ、今日は帰りますか」
「コンビニ寄って帰ろうぜ。フェムチキ食べたい」
「いいね。僕はクリスピーの方にしようかな」
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さて、久しぶりのダンジョンアタックの日が来た
ダンジョンの情報は一昨日の帰宅後にしっかり頭へ叩き込んだ。
そして昨日は一日、家でのんびり寝て過ごしたおかげで英気も十分。
コンディションは及第点といったところだ。
学園内のダンジョン以外へ行くのは今回が初めて。
自然と気合いも入る。
そんなことを考えながら駅に到着した。
どうせ相棒はギリギリに来るだろうし、Dascoを開いて最終確認でもしておくか。
名称:草むら
ランク:G
階層数:5
主な出現モンスター:
・草緑鼠
・草緑栗鼠
・草緑水豚
ダンジョンボス:
・大草緑鼠
特徴:
見通しのいい草原が広がるダンジョン。
まばらに木々が生え、場所によっては膝丈ほどの草むらが点在している。
出現するモンスターは齧歯類がメイン。
一見すると安全そうに見えるが、草陰や地形の起伏によって視界が遮られる場面も多く、油断すると不意の接敵を招く可能性がある。
「草むらねぇ…虫がいないといいが」
「相棒がまとめてくれた情報に記載がないから、魔物としてはいないんだろうな。きっと」
それよりもだ。
カピバラって水豚って書いて、英語読みだとキャピバラなのね。
お兄さん、そっちに全部持っていかれたよ…。
今日向かうダンジョンの情報を再確認していると、目の前で足音が止まった。
「おはよう。相変わらず早いね」
「はよーさん。そうでもねぇよ。十分前には着いてたい性分なだけさ」
「そかそか。じゃあ早速だけど、ダンジョンに向かおうか」
俺たちは今日入るダンジョンの話をしながら、大型のキャリーケースをゴロゴロと転がし、名古屋へ向かう電車に乗り込んだ。
…はぁ。
早いところ収納系のスキルか魔道具、手に入れないとな。
毎回ダンジョンに向かうたびにこの大荷物は普通に億劫だ。
お金が欲しい…!




