経営ファイル3 嵐の神、顕現(後編)
長らく、非常に長らくお待たせしました!!
休職に部署異動など、様々なゴタゴタでモチベを完全にロストしておりまして、今に至ります……本当にすいません……
徐々に再開していきます。エタると思いました? 残念ながら諦めが悪い性分でしてね、まだまだ頑張りますよ!!
経営ファイル3 嵐の神、顕現(後編)
目の前には、女性が歩いている。子供はそれを追いかけていく。
そこには大木があった。大きな、大きな、大木が。
女性は何かを告げ、その場から立ち去る。子供は笑顔で女性を送る。
やがて、時間が流れる。立っているのに疲れた子供は、木の前に座り込む。
時間が流れる。空は赤く、赤く染まりゆく。
やがて空は暗くなる。子供の表情も、暗くなる。
子供はひたすらに待ち続ける。しかし、待てど待てども待ち人は来ず。
やがて子供の心を表すかのように、雨が降る。
子供は泣いた。寂しくて泣いた。
泣き疲れた子供は、何かを決心したかのように走り出す。
宛もない山道を、記憶の限り走り続ける。
やがて足を滑らせ、坂を転げ落ちる。
雨が体を冷やす。魂まで全てを冷やす。
子供はまだ動けた。しかし全てを諦めていた子供は、もう動くことは無かった――
――髭面の、まるで山賊のような男に、手を引かれるまでは。
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焚き火の音がパチパチとする。何かが焼ける匂いがする。
「……んぅ……」
あれから約一時間。ライトの目覚めは最悪だった。酷い悪夢を見た。その時間はとてつもなく長かったような、短かったような。しかしとにかく悲しい気持ちになっていることだけは、理解出来た。
「目覚めが悪そうね? だいぶ」
「……内容までは覚えていないけど、だいぶ酷い夢を見た……」
「慣れない魔術なんか使うからよ」
目が覚めたら美少女の膝の上……なんてことは無く、ライトは柔らかいクッションの上に頭を乗せられ、寝かされていた。横ではガーネッタが、焚き火で何かを焼いている。
「どうせ魔術の使い過ぎだってのは分かってたから、簡易的に寝かせてあげてたわ。感謝しなさい」
焚き火の匂い以外に、何やら甘くていい匂いがする。ライトはそのとても良い匂いに、思わず息を深く吸い込む
「これもしかして、君のクッショ――」
「嗅いだら殺す」
ガーネッタの語気の本気度に気が付き、ライトは飛び上がる様に起きる。
「……テントはわざわざ組み立てるのがめんどくさかったから、立てなかったわよ。クッションで我慢して頂戴。後でちゃんと洗濯して」
「……意外と、優しいんだな」
「黙れ、潰すぞ」
「ごめんなさい」
ライトはまだ微妙に覚めない頭で、ぼんやりと景色を眺める。
「アンタが寝ている間に、見ての通り犬っころの死体はもう全部消えたわ。ボアは凶暴だけどただの原生生物だから、バラして肉焼いて食ってる」
ガーネッタの言う通り、辺りには先程まであったはずの死体は、ほとんど無くなっている。そのお陰でグロテスクな光景は無くなっていた。
「基本的に魔力で魔物に生まれ変わった存在は、再び死ぬと朽ちて魔力に還る。未だに不思議な現象よね」
そう言いながら、ガーネッタはボアの肉の焼き加減を確かめる。
「一応魔力抜きして、魔狼の毛皮と爪、牙、ある程度素材に使えそうなものは集めといたから。後で使うなら言って」
「助かる」
自然界の魔力に当てられ、普通の生き物から生まれ変わった魔物は、死ぬと急激な肉体の変化と制御できなくなった魔力に耐えられなくなり、塵になって消える。しかし死んだ直後に上手く魔力を抜くと、魔物の肉体の一部を剥ぎ取り、活用することができる。魔物由来の素材は普通の生き物より頑丈で、特殊な性質が備わっている可能性もあるため、武器や防具、様々な道具などに重宝されている。
「しかし、寝ている内にだいぶ天気も悪くなったな」
ライトが寝ている間に、空は黒く曇っていた。それも、それなりに強く雨が降りそうになるほど。
「それでも、体感一時間程よ。簡易的に焚き火作って、ボアをバラして、アタシもようやく、息が整ってきた所」
「また魔物が襲ってくる気配は?」
「……見ての通り、さっきまでのゴタゴタが嘘かのように、エラく静かよ」
そう言いながら、ちょうど良い焼き加減になったボアの肉を、ガーネッタは食べ始める。
「そもそも(もぐもぐ)あれだけ負傷した・死んだ仲間を出せば(むしゃむしゃ)魔物や魔狼側も安易には人間に近づこうとはしなくなるでしょうね。それこそ(もぐもぐ)復讐を考える個体も居るかもしれないけど(んっくっ)群れのリーダー、司令塔も失った今、あの群れがそこまでの段階に戻るのは、そう簡単な話では無いと思うわ」
「食べるのか喋るのか、どっちかにしなよ……」
「ここは野生のど真ん中よ。滞在時間は効率化しなきゃ」
するとガーネッタは、焚き火で焼かれていたもうひとつの肉を差し出す。
「食っていいわよ」
「あっ、ありがとう……」
普段慣れないガーネッタの優しさに、ライトは困惑しながら肉を受け取る。
「この串、君の自作かい?」
「そうよ。適当にナイフで切り出せばこれくらい造作も無いわ」
「……そもそも君、前から気になっていたけど一体どんな生い立ちをしているんだい?」
「山育ち。この戦い方も、魔術の使い方も、ナイフの使い方も、親父からすべて教わった」
そう言うとガーネッタは少しだけ懐かしそうに昔話を始める。
「アタシは男じゃないから、直接的なフィジカルで劣る点もあるし、一度に扱える魔術の量も、世間一般からすると少ない方。だから相手の攻撃や危険を受けるのではなく、回避する方法や、魔力を少なくても精密に、効果的に制御する方法を徹底的に教えてくれた。山での生活はそもそも大変だったし」
「意外だなって。君、そういう過去の話はしてくれないと思っていたから」
「別に、隠す必要があることでもないじゃない。それにアタシだって機械じゃないんだから、時にはそういう思い出話にふけりたくなる時もあるわ」
「赤い悪魔だけどね……」
「なんか言った!?」
「いえ、何も!!」
その後も魔物と戦った疲労を回復するために、一時間ほどかけ二人は肉を食べながら休憩をした。肉の味は意外と美味で、頬張る二人の顔は、無意識のうちに綻んでいた。二人にとっては、一ヶ月かぶりのしっかりとした食事だったからだ。
「しっかしそもそも、さっきの騒動以前に生き物が少ないわね、ここ」
「……君も違和感に、気がついたかい?」
そういうとライトは、広大な湖を見渡すように眺める。
「ほかの魔物がほとんど見当たらない。というか、鳥の一体すらまるで居ない」
辺りには静寂が訪れていた。たまに吹く風の音と、ポツポツと降る雨の音が聞こえるくらいだ。
「そもそもこんな昼間から、夜行性のウルフ系が群れを成して移動していたのも違和感がある。それにいくら野生動物とはいえ、あそこまでよそ者に対して集団で拒否反応を起こすのも珍しい」
「……何が言いたいのよ」
ガーネッタは何かを察したかのように、神妙な顔つきをするライトの答えを急かす。
「とりあえず、準備が整ったら早くここを出発しよう。可能性の話だ。仮にもこの近くに、何かが迫っていて、皆逃げている最中なのだとしたら。例えるならば局地的大嵐とか――」
そうライトが言いかけた次の瞬間、辺りはは白く染まり、爆音が鳴り響く。
「「雷!?」」
そしてその大きな一撃の爆音を皮切りとして、雨音は一瞬にして鳴りを強める。気が付けば、陽の光は完全に遮られていた。
「この感じ、突然の雨――」
「やっぱりだ、間違いない――」
二人は顔を見合わせる。
「「――局地的、大嵐ッ……!!」」
それは実に不思議な光景であった。事態に感づいた二人の視界の先。湖の向こう側、山岳地帯から、土砂降りが壁のように迫ってくる。
「クソッ、気づくのが遅かったッ……!! 酷くなる前に、ここから離れるよガーネッタ!! ここは湖だ、増水なんかされたらたまったもんじゃない!!」
数十分前、雲一つなかったはずの場所は一瞬にして曇天の空模様となる。二人は焚火の日を急いで消すと、あわてて走り始める。
「なんでこう急に来るかな!!」
「天気はそういうもんでしょ!!」
「まるで君の感情みたいだね!!」
「なんか言った!?」
「言ってないです!!」
太陽が欠けていく。食われるかのように欠けていく。まるで何か大きなものに覆いかぶされるように、塗りつぶされるようにして、空は漆黒の闇に包まれていく。それは雨雲と呼ぶにはいささか黒すぎる。どす黒い何か。悪意のようなものが形を成したもの。
「まずいまずいまずい、周辺は森林、宿屋まで走って逃げるには遠すぎる!! ああくそ、最悪だ……」
「嘆いてる暇があるなら走りなさい!! 死にたくないなら、今を何とかするしか無いのよ!!」
二人は雨風があまり降っておらず、川や湖の増水などに巻き込まれないであろう場所を目指す。
"ギュオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!"
高台へ向かうため走り続ける二人は、形容し難い金属音の様な、爆発音のような、とにかく体の中から不快感を感じる爆音を聞く。
「雷じゃ……無いわよね……!?」
「魔物……の……声……!?」
それは生き物の声なのか、それとも違うのか。まるで王国製の戦闘艇の飛行音のような、到底生物が発するとは思えない異質な音。どこからともなく湖周辺に響き渡ったが、ひとつだけ分かるのは、二人にとって肉体が、魂が拒絶するかのような、異質な音だったことだけだ。
「……だとしたら、魔物なんてレベルじゃないわよ、この響き方は!!」
空気が張り詰める。少なくとも、この付近に異様な圧を放つ存在がいる。二人はすぐに理解した。
「とにかく急ごう、この場から離れないと!!」
二人は逃げる道中、比較的雨風が少なく、地盤が安定していそうな高台を見つけた。その安全地帯わや目指し、全力で駆け抜ける。
「あそこだ!! あの高台を目指せ!!」
気がつくと空は、まるで夜のように黒く染まっていた。陽の光は完全に消える。
「何が……始まるって言うのよ……」
「少なくとも、普通に生きてる人間が遭遇することのない、別次元の事象だッ……!!」
周囲には雨風が吹き荒れる。それは既に、嵐の中心だった。時折近くには、翡翠色の雷が落ちる。ライトの言う"別次元の事象"が始まったのだ。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
命からがら嵐の吹き荒れる地帯をぬけ、何とか高台に登った二人。二人は高台から、湖の方角を見る。
「アンタ、局地的大嵐は経験したことあるんでしょ? こんなにヤバかったの?」
「……うん。この地方に入る直前、野宿をしていた所に突然ね。その時に色々破壊されて、持っていかれた」
「噂には聞いていたけど、本当に酷い現象ね、これ。状況が状況なら、普通に死にかねないわよ」
青天の霹靂。予兆も一瞬で、猶予はほとんどなく、突然それはやってくる。自然現象と呼ぶにはあまりにも不自然で、あまりにも唐突すぎるそれ。限られた一角だけが非常に強い雨風に吹かれ、酷い時は地面が抉られる。岩や木々は巻き上げられ、周囲は破壊し尽くされる。事前知識が無い限り、それは命に係わる致命的な事象となるだろう。
「僕もここに来る途中に街の人に聞いた時、にわかには信じ難かった。でも実際に目にして、そんなことが本当にあるんだと驚かされ――」
そう語るライトの前、湖の真上、遥か上空に異変は起きていた。
「……!! アレを見ろ、ガーネッタ!!」
ライトは叫んだ。ガーネッタもライトの叫び声で、反射的に上空を見る。そこには――
「まるで嵐の、眼……?」
空を覆いつくす深淵、位置的には湖を中心として、その上空には渦が巻く。
「……ごめん、さっきの言葉は撤回だ。これは局地的大嵐『すら』越えた、もっと別の――」
そうライトが言いかけた瞬間、渦の中心に『穴』が開く。やがて穴は広がり、後光がさすかのように、天の奈落より、光が差し込む。
「……なんだ、アレは――」
降り注ぐ雨が風で流され、光に反射して、刃の様な光の軌跡を描く。その軌跡を辿るように、雷撃が縦横無尽に駆け抜ける。穴の周囲の黒雲は、大地に向かってせり上がり、まるで竜巻の様に渦を巻く。そしてその中心を、巨大な影が光と共に舞い降りてくる。
「――ドラ……ゴン……!?」
巨大な影は、翼をはためかせながら舞い降りる。そして雄叫びをあげると共に、周囲には無数の落雷が落ちるのであった。
「これが……局地的大嵐の、正体だって言うのか……!?」
「……今日は、帰るのがだいぶ遅くなりそうね」
二人の視線の先、そこには――
"ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォン!!!!!!!!!"
――そこには、白銀に輝く鱗を持った竜が『嵐』をまとっていた。
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『SYSTEM:ターゲットを確認しました_』
『SYSTEM:戦闘モードへの移行権限:承認_ 』
『SYSTEM:No.11、状況を判断して対象に接敵してください_ 』
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■ライト■
年齢:16歳
肩書:楽園の若き店主
体力:C 筋力:C
魔力:F 俊敏:B
能力
・サバイバルの知識
・商売の知恵
・剣術:A ←NEW!
・????
・????
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■ガーネッタ■
年齢:16歳
肩書:破壊魔/舞い踊る烈火 ←NEW!
体力:C 筋力:D
魔力:B 俊敏:B
能力
・サバイバルの知識
・商売の知恵
・射手:B ←NEW
・????
・????
【次回予告】
暗黒に包まれた空。その中心から白銀の竜が下りてくる。
少年と少女は圧倒的な存在を前にして、ただただ逃げることしかできなかった。
しかし神にも等しい存在から逃げ切れるはずもなく、やがて二人は追いつめられていく。
それは神の審判か、それともただの気まぐれか。
運命と対峙した二人は、その先で何を見るのか。
次回 異世界テンプレ物のよくある宿屋酒場物語
第四話 『追い風 Run A Way』
次回もお楽しみに