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プロローグ まどろむ記憶、見えぬ明日

皆様方、初めましての方は初めまして、いつもお世話になってる方はこんにちは!!

物語の創作に憧れ10年、改めて自分の実力を試したいと投稿させて頂きました。

我が子の様に愛し、何年もかけて熟成させてきた登場人物と物語たち。最後まで形に出来たら、と思います。

プロローグ



 かつて世界に神は居た。

 それに世界は争いで溢れていたらしい。


 そこには勇者も存在した。

 勇者より祖父の方が偉大だった。


 絵本の話は真実だった。

 それでも僕は争いを知らない。


 その日神は死んだらしい。

 それでも今は続いている。


 少年は窓際で陽の光を浴びながら、そんな事を考えていた。しかし少年がそう感じ取ったのも、先の大戦を知らないのも無理は無い。窓から眺める先の世界には、争いなんて一つも無いからだ。少年が小さい頃から、昔の大戦をよく聞かされたが、それは人伝。実際大きな争いなど経験した事が無かったから、分かりようが無かったのだ。


 少年が耳を澄ますと、今日も外では無邪気に子供達がはしゃぎまわり、肉の新鮮さをアピールする肉屋の大声と、吟遊詩人の歌声が聴こえる。この平和な日常が示す通り、戦争と言われてもあまりに途方が無い話すぎて、まるで絵本や伝承の様な、ひとつの物語のようにしか感じない。


 何のために産まれ、どこに行くのか。


 代わり映えのしない毎日の中で、それでも必死に生きて、何かの為に自らの人生を捧げる人は、何がそうさせるのか。


『夢』とは、なんなのか。


 そんなことを考えながら、少年は幼い頃の祖父とのやり取りを思い出す。


『俺はこんな歳になったが夢がある』

『ゆめ?』

『そうだ』


  それは遠い日の祖父との思い出。


『俺は、理想郷を探している』

『りそうきょう?』

『そうだ』


 過ぎ去ってしまった在りし日の思い出。


『――いたなら後から直せばいい、いつか――は――になる、それじゃ未来の――の前借なんだ。起こってしまった事実は――』


『――な――が――なくなった空白はステーキじゃ――れない。逆に、飢えは大切な人の愛だけじゃ満たせない。だから、そうなる前に――向き合って、根本的な問題を――しなければならない』


 そこは果たして何処だったのか。風の匂いだけはしっかりと覚えている。


『悲しいが、神様でもない俺には、世界のあり方その物を――ることはできない。――も、――も』


 それは誰かに向けた言葉だったのだろうか。それとも、自分に向けた自責の言葉だったのだろうか。或いは誰にも向けることのできない行き場を失った言葉だったのだろうか。


『だが……きっと、少しでも心に――があれば、――ぎが――ば、無意味に――を――る必要はなくなるはず。そしてだれかと――り、――合い、『繋がり』の――はきっとどんなに――な――でも塞ぐことができる、どんな――でも乗り越えられるはず。俺はそう信じている』


『――がわかる人間になれ。そして、――――――を恐れるな』


  老人は少年に小指を突き出す。その小指の意味をなんとなく理解していた少年は、同じようにして小指を差し出す。


『10年後、またここで会おうぜ』


 思い出される記憶の断片。その多くは、時間の流れの果てに零れ落ちてしまっている。だがそれでも、その意気揚々と語る祖父の顔だけは少年の脳裏に焼き付いていた。一切曇りのないあの笑顔。本当に理想郷などという与太話を信じている、純粋な瞳。まるで、自分と祖父のどちらが少年だったのか。旅支度をしながら少年はそう考える。


『……うん!!』



 でも、そんな少年の様な笑みを浮かべる祖父は、世界で一番格好良かった。



「……夢なんて、簡単に持てると思っていたけど」


 それは16歳になってから、半年程経った朝だった。それは飛び込んできた突然の報せ。


「僕には、そんな立派に生きることはできなかった」


 その日、偉大な祖父が死んだ。


 大きな疑問を残して、旅立った。


 答えを唯一知るその存在は、今では悠久(じかん)の彼方へ。


 祖父が死んで二カ月、少年は父から受け継いだ一本の剣と、頭に黄色のバンダナを鉢巻き状に巻き、見慣れた窓の景色に別れを告げる。


「父さん、母さん、じゃあ俺、行ってくるよ!!」


 少年は、祖父の想いを、願いを、そして自分の未来を確かめる為に旅立った。あの憧れた背中を追うために。そして、あの幼き日に祖父から出された、宿題の答え合わせをする為に。命尽きるその直前まで、祖父が見つけようとした理想郷へと。


『夢はできたか? 生きる意味は見つけられたか?』


 何故自分なのか。何故理想郷にこだわったのか。夢とは、その命を最後の最後まで費やしてまで、祖父が欲しかった物とは。


 何故、何故、何故、結局答えは何一つ分からなかった。だから、その背を追うことにした。


『俺はついに見つけたぜ、理想郷を』


 一枚の手紙を握りしめて。少年は遥かなる大自然へと飛び込んでいく。

 理想郷を目指して、遠い遠い場所に旅立ってしまった祖父の背中を追って。長い長い人生の旅。その答えを見つけるために。


『お前に理想郷のすべてを託す』




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古びた剣


祖父から父に、そして少年に託された、未来を切り開くマスターキー。

一般的に流通している長剣より全長が少し長く、伸ばしたひし形を思わせる特徴的な刀身をしている。

大剣と呼ぶには小さすぎ、長剣と呼ぶには取り回しが悪い。だが刀身は特殊合金で形作られており、重量は程々に押えられている。


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