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④ 別れ

 

「今日はありがとう」

「……驚きました。ハロルド様はお礼が言えたのですね」


 公爵家が用意した馬車に揺られる。向かい側に座ったハロルドから、礼を言われる。


「あ、なんか無性にハーブリオン伯爵家とカステル子爵家の当主に話がしたくなってきたなぁ?」

「申し訳ございませんでした!」

 爽やかな笑顔のまま、野蛮なことを口にする彼に頭を下げる。


「ふふっ……素直で宜しい」

「うぅ……。でも、口止め料としてのカモフラージュ要員でしょう? お礼を言われるとは予想外でしたわ……」


 紫色の瞳に優しい色を浮かべた彼に、私は疑問を口にした。本来は口止め料として尾行を手伝っただけであり、彼がお礼を告げるのはおかしいのだ。感謝を伝えられて嬉しくないわけではないが、裏がありそうだと勘ぐってしまう。


「……はぁぁ……ヴァイオレット。君は本当に……」

「何ですか!? 言いたいことがなるなら、仰って下さいませ!」


 溜息を吐きながら、顔に手を当てる彼に私は抗議の声を上げる。


「言いたいことか……そうだな。僕は明日、隣国に留学する」

「……っ、え。留学ですか……」


 顔から手を離した彼の真剣な表情と、共に告げられた内容に鼓動が速くなる。急展開過ぎるのだ。


「嗚呼そうだ。だから君に何か要求するのは、この一度きりだ。素行調査については、問題ないと伝えておくから心配しないでくれ」

「……は、はい。あ、あの……」


 彼が隣国に留学することは、私にとっては吉報である。しかし何故か釈然としない。もう少しだけ彼と話しをしていたが、馬車が止まった。時間切れのようだ。


「ハーブリオン伯爵家に着いたようだ。君の計画に口出すつもりはないが、程々にするように」

「はい。えっと……ハロルド様もお気を付けて……」


 私がハロルドと出掛けていることは、家には秘密である。その為、裏口付近に止められた馬車からは直ぐに降りなければならない。短く挨拶を口にすると、取っ手を掴もうとした。すすと、私の手にハロルドの手が重ねられた。


「それから……もしも、就職先が無ければ僕のところに来ると良い」

「……っ、え……あの……」


 彼の奇行に私は金魚のように、口を開閉する。突然の接触は心臓に悪い。狭い馬車の中、距離も近く血圧にも悪いだろう。私は頬が熱くなるのを感じる。


「いいな? ヴァイオレット?」

「は、はい……」


 紫色の瞳が肯定しか受け付けないと雄弁に語っている。この状況から解放されたい私は、大人しく頷いた。


「いい子だ」

「……っ、し、失礼します!」


 最後に優しく頬を撫でられ、限界を迎えた私は馬車から飛び出した。





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