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③ デート

 

「……あ、あのハロルド様……」

「こら、僕の名前は?」


 人々で賑やかな休日の街中。私は普段の格好よりも軽装のワンピースを身に付け、ハロルドに手を引かれながら歩く。彼の格好も公爵子息という身分を隠すように、帽子にシャツとズボンという軽装である。

 私が婚約破棄を望んでいることの口止め料として脅され、ハロルドの尾行の手伝いをしているのだ。デートと聞いた時は大変驚いたが、尾行の為のカモフラージュ要員である。


「ル、ルド……」


 市民の中で名前に敬称をつけていれば、貴族だと直ぐにばれてしまう。特に彼は四大公爵家の一つでもある為、有名な人物である。騒ぎになれば、彼の仕事である尾行が失敗してしまう。

 私は事前に教えられた彼の偽名を口にする。偽名と言っても名前を短くしただけの簡単なものだが、以外に気付かれないようだ。


「いい子だ。イオ」

「……っ!」


 空いている手で優しく頭を撫でられた。男性からの接触に免疫の無い私は、その場で軽く飛び上がった。前世でも経験のない事に、驚いてしまい恥ずかしい。因みにイオとは私の偽名である。


「……日差しが強いから、これを被っておきな」

「あ、ありがとう……」


 ハロルドはそんな私に彼の帽子を被せてくれた。口止め料を要求する人物だが公爵子息である為、対応は紳士的である。カモフラージュ要員であり、気遣ってくれたことを考慮して感謝を口にした。何だか気恥ずかしい。


「昼食にするかい? 歩き疲れただろう?」

「あ……う、うん!」


 彼は近くの屋台を指差した。そこには美味しそうなクレープ店であった。私は元気に返事をする。


「僕が買ってくるから、そこのベンチで休んでいなよ」

「ありがとう」


 私と別行動するということは、もしかしたら尾行に関する何かアクシデントが発生した可能性がある。私は素直に彼の指示に従い、ベンチへと腰かけた。


「カップルが沢山だぁぁ……」


 ハロルドと一緒だった時は周囲を観察する余裕が無かったが、一人になると休日を満喫するカップルで溢れている事に気が付いた。カップルの観察が趣味の私にとっては、正に天国である。


「このまま、戻って来なくても良いなぁぁ……」


 街を楽しむカップルを眺めていると、素直な感想が口から零れた。


「へぇ? そんなこと言う悪い子にコレは要らないかな?」

「……っ、ルド……」


 背後からの声に肩が跳ねた。恐る恐る振り向くと、眉間に皺を寄せたハロルドがクレープを両手に持っていた。彼は忍者なのか、私の背後から現れることが多すぎる。


「僕は別に良いよ? 包み隠さずに全てを依頼主達に報告しても」

「……うぅ……意地悪……。ご、ごめん……」


 彼は私の隣に腰かけると、クリームとフルーツたっぷりのクレープを差し出した。私はむくれながらそれを受け取ると、口に含む。何かで口を塞がないと、彼へ暴言を吐いてしまいそうだ。

 悪役令嬢である私を脅すとは、探偵という皮を被ったラスボスなのかもしれない。


 機嫌が悪い私はひたすらクレープを頬張る。クリームとフルーツのバランスが良く、とても美味しい。しかし、折角のクレープを満喫しようにも横からの視線が痛い。


「イオ、君は僕の『恋人』だろう?」

「むぅ……。ルドにも婚約者が居るのでは?」


『恋人』と言ってもカモフラージュ要員である。


 忘れているかもしれないが、私にはエリックという婚約者が居るのだ。公爵子息である彼にも、素敵な婚約者が居る筈である。私は恋愛感情がなく婚約破棄をされ予定である故に構わないが、彼はそうとも限らないだろう。尾行の為の『恋人』でもと軽く言葉にしない方が良い。


「気になるかい? 残念ながら居ないよ。僕は一生の伴侶は自分で選ぶ」

「……っ、そう……ですか」


 決意に満ち溢れた表情に言葉が詰まったのは、彼の顔が整っている所為だろう。


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