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② 公爵子息

 

「ねぇ、ヴァイオレット・ハーブリオン伯爵令嬢。君、婚約者が他の令嬢が仲良くしているのを認めているよね。なんでだい?」

「……っ、これはこれは……ハロルド・グランスター公爵子息。御機嫌よう」


 何時ものように学園のカップル観察を楽しんでいると、背後から声をかけられた。振り向くと、ハロルド・グランスター公爵子息が居た。何故、彼が私の元を訪れたかは分からない。

 だが話の内容は他の生徒に聞かれると、今後の婚約破棄に影響を及ぼす可能性がある。此処が空き教室で良かったと、こっそりと息を吐くと挨拶を口にした。


 ハロルド・グランスター公爵子息。彼の異名は『公爵探偵』である。学生の身でありながら、猫探しから盗難事件まで解決する探偵だ。乙女ゲーム『学園の華』の中には登場しなかった人物であり、二学年上の先輩については噂話でしか知らなかった。

 彼の質問について考える。婚約者のエリックとアリスが仲良くしているのを認めているのは確かだ。何故ならば私は二人の仲を応援していて、結婚というゴールテープを切って欲しいと思っているからだ。しかし彼の目的も分からない為、この事実を話す気にはなれない。


「言い方を変えよう。君はエリック・カステルとアリス・カルソンを結び付ける為に、悪役を演じているようだね?」

「どんな根拠がありまして、その様な見解になったのでしょうか?」


 私が質問に答えないと分かると、彼は一歩踏み込んだ質問を口にした。探偵ということだけあって、中々に核心を突いて来る。彼の銀髪に紫色の瞳は一見、柔らかい印象を与えるが瞳の奥は確信に満ち溢れているのだ。

 私の悪役令嬢ぶりは中々に様になっていた筈である。何故、私がエリックとアリスを結ばせようとしていることがばれたのか気になる。肯定はせずに、情報収集に努める。


「……本気で言っているのかい?」

「ええ。勿論ですわ」


 ハロルドは瞠目すると、少し困ったような表情を浮かべた。私は自身の悪役令嬢ぶりに自信を持っているのだ。理由を求めるのは普通だろう。


「はぁぁ……まあ良い。僕はある人物からエリック・カステルの素行調査を依頼された。婚約者が居る身で、アリス・カルソンと関わり過ぎているからだ。調べてみると、彼等を支援しているのはヴァイオレット・ハーブリオン。君だった」

「支援? 何のことでしょうか?」


 呆れたように溜息を吐くハロルドは経緯を説明した。成程、依頼が居ての探偵業だったようだ。依頼主は私の両親か、エリックの両親かのどちらかだろう。その両家かもしれない。

 私の家は伯爵家、エリックの家は子爵家。爵位は私の家の方が上であることからも、エリックには婚約してから避けられている。自分より爵位の高い家の女性は扱い辛いのだろう。


 それは私にとっては好都合である。今すぐにでも婚約破棄をされたら喜んで受け入れる所存だ。私は誤魔化すように、ハロルドに向かって首を傾げた。


「僕には依頼主達に報告する義務がある」

「…………」


 彼は低い声で告げた。私がのらりくらりと躱していた態度に痺れを切らしたようだ。依頼主を複数形で言い表すと所を見ると、私が依頼主に心当たりがあることを察しているのだろう。依頼主達はハーブリオン伯爵家とカステル子爵家で確定だ。

 それよりも今の問題は、その依頼主達に報告するということである。彼は全てを知っている上で、それを報告するというのだ。言葉に詰まる。


「君が二人を結ばれる為に、わざと悪役を演じていると知ったら依頼主達はどう思うかな?」


 確実に追い詰めるように、紫色の瞳が私を見下ろす。


 ハーブリオン伯爵家とカステル子爵家の両家は、お互いの利益があって結婚をする。貴族の結婚とはそういうものだ。それをお似合いだからと言って、婚約破棄されようと画策しているなど知られたら怒られることは必至である。

 もしかすると、逃げないように無理矢理に結婚させられる可能性も考えられる。それは絶対にさけなければならない。


「……っ、何が目的ですか……」


 私は目の前の探偵に白旗を上げた。


 伯爵家と公爵家では財力の差は明らかだが、口止め料を要求されるならば応じるまでのことだ。卒業パーティーまでの二年間を耐えれば、私はゲーム通り婚約破棄をされるのだ。それまでの我慢である。


「デートしようか」

「……え?」


 先程とは打って変わり、明るい声で告げられた要求に気の抜けた声が出た。



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