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① 悪役令嬢

 

「エリック様。これ、私が焼いたマフィンです。宜しければ……」

「本当かい!? 嬉しいな! 今、食べてもいいかな?」

「……っ、はい! 勿論です!」


 学園の中庭にあるガゼボで、学生服に身を包んだ男女が見詰め合う。茶色い髪と瞳を持つ男の名前は、エリック・カステル子爵。マフィンを差し出す桜色の髪と瞳が愛らしい女性は、アリス・カルソン男爵令嬢である。


「アリスさん? エリック様にマフィンを差し入れておいでのようですね?」


 私は二人が居るガゼボへと近付き、言葉をかける。


「……っ、ヴァイオレット様! これは……その……」

「ヴァイオレット……」


 アリスとエリックは私の登場に驚き、焦った様子を見せる。それはそうだろう。私は、ヴァイオレット・ハーブリオン伯爵令嬢。エリック子爵とは婚約者である。婚約者が居る者に気安く近付くことはマナー違反とされているのだ。


「言い訳は結構ですわ」


 私は彼等の弁解など聞く気はない。右手の親指と中指を弾くと、音を鳴らす。すると彼女達の前にレースのテーブルクロスが掛かったテーブルと、紅茶の入ったティーポットにカップルが現れた。


「こ、これは……」

「ティーセットですわ。飲み物が無くて喉に詰まらせたどうするおつもり? 貴族たるもの優雅と気品を持って行動なさい」


 アリスは初めて見る私の魔法に驚く。その反応に気をよくした私は捨て台詞を残し、その場を後にした。



 〇



「はぁぁぁ……。最高にお似合いだわぁ……」


 空き教室から、中庭を見下ろすと溜息を吐いた。目線の先に居るのはアリスとエリックである。私が出したティーセットを使い、マフィンを食す二人の姿は目の保養だ。絵になりお似合いのカップルである。


 私は転生者であり、趣味はカップル観察だ。


 この世界は前世でプレイしたことのある乙女ゲーム『学園の華』の世界である。そして私、ヴァイオレット・ハーブリオンはヒロインであるアリスと、エリックの仲を引き裂こうとする悪役令嬢だ。

 だがそれはゲームの中での話であり、私は二人を密かに応援している。悪役令嬢として婚約破棄をされなければならない為、二人には害のない嫌がらせを行っているのだ。中々に良い悪役令嬢ぶりだと思っている。

 アリスとエリックが無事に結ばれることを楽しみに、私は今日も悪役令嬢を演じるのだ。



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