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買取りしてもらう


 ようやく一階層に戻ってきた。


 アイス熱はちょっと冷めたが、今回なんでこのダンジョンに来たのか、思い出した。そういや七階層でのドロップアイテムを、お願いされてたんだった、と。のんきに下へ進んでる場合じゃなかった。まぁ、いつまでにとは言われてないから、平気平気。


 七階層で蜘蛛を狩りまくり、瓶に入った液体をゲットしてきた。なんか、美容液に使うらしい。売れるらしいんだけど、蜘蛛が苦手な探索者が多いのか、数が集まらないらしい。で、買取価格割増するから取ってきてと言われた。のを、すっかり忘れていた。


 で、一階層。人で賑わっている。プレハブ店舗が乱立していて、黄色や赤ののぼりが客を呼び込もうとはためいていた。「高価買取!!」「現金OK!」「他店対抗価格!」などなど。初めての人では、どこに行ったらいいか分からないだろう。

 買取価格は、店によって違ってくる。それは販売ルートの差とか、店の規模の違いだろう。一定の値段は、業界で決まってるらしいけど。結構危ない筋の買取店もあるので、気をつけよう。

 販売店は、スーパーの出張所だったり、お弁当屋さん、武器防具屋、小物屋などなど。商店街をギュッと詰め込んだ感じだ。


 俺はぐるりと見渡し、隈取をした狐面がマークの店を見つけた。だいたいどこのダンジョンにもある、買取店だ。全国規模なのに、店の大きさ的には一番小さいくらいで、端の方にぽつんとある。


 プレハブの引き戸を開けると、地上の貴金属買取店と同じような作りをしている。カウンターの向こうに一人の店員、こっち側に客だろう大学生ぐらいの男が一人。衝立があって座席が並んでいるが、誰も待っていない。


 相変わらずの店だ。これで儲かっているらしいが。


「いらっしゃいませ。そちらの席でお待ち下さい。あと、アリスちゃんください」


 キツネ目の店員が、営業スマイルで寝言を吐く。


「シバクぞ、コラ。流れるように何ぬかしとんねん」


 大学生ぐらいの男がこっちを振り返って、顔を青ざめさせる。


「ちょっと、やめてくださいよ。お客さんが怯えちゃったじゃないですか」


「誰のせいや。ええか、青年? こいつの言うアリスはこんな小さな女の子なんやで? しかも、そのアリスに罵倒されたいっつー変態さんやで?」


 今度はドン引きの顔で、大学生ぐらいの男が店員を見る。ちなみに今はロイドもアリスも収納の中だ。ここもダンジョン内なので動けるが、わざわざ目立つことはしない。


「ひどい風評被害です」


あずま。遊んどらんと、はよ査定したりぃな」


「やってますよぉ」


 確かに手は動いている。東は顔だけで困った表情をしつつ、ザラザラと魔石の重さを計り、紙に書き込んでいった。人の買取りを見ている訳にはいかないと、衝立の向こうに移動する。


 『ご自由にどうぞ』と、コンセントがあるので、スマホの充電をしておく。置いてある雑誌を手に取ったところで、さっきの大学生が出てきた。こっちを見て一瞬迷ったあとペコリと頭を下げられた。どういう人間に思われたのやら。口が悪いのは自覚がある。


「どうぞ~」


 ひょこっと顔をのぞかせ、東が手招きする。


「ちょお待って。充電中やねん」


「誰も来ませんよ」


「それが店員の言葉か」


「んもー」


 東はスタスタと入り口まで向かい、『営業中』の札をひっくり返し、ご丁寧に鍵まで掛けた。


「これで安全ですよ?」


「それが店員のすることか。つーか、俺が逃げられへんやろ」


「逃げなきゃいいんですよ。さぁさぁ、アリスちゃんをお願いします!」


 ため息を付き、収納からアリスを取り出す。こうなるとアリスと対面させるまで買取り業務すらしてくれなくなる。勝手知ったる店員とは、楽でいいが面倒もある。


「『起きろ』」 きゅぴーん。


 いつもの電子音の後、むくりとアリスが起き上がった。


「おはようございます。マs「アリスちゃーん!」……た」


 口上が終わる前に、がっと抱き上げられるアリス。ぬいぐるみにあるまじき拒絶の表情を見せ、アリスは腕を突っ張った。


「マスター! このどぐされの前で起こさないでくださいって、お願いしたじゃありませんの!」


「あ~スマンな、話進まへんで。蹴飛ばしといて」


 スリスリしようと近づいてくる東の顔を突っぱねながら、アリスが「マスターのばかぁ!」となじってくる。


「ああ、アリスちゃん! それ、ぼくに! ぼくにお願いします!」


「黙れ! このド変態!」


 アリスが右手を振りかぶる。音的にはぽふんと軽いのだが、頬にパンチを食らった東は「ごべらっ」とか吹きながら後ろへと倒れた。


「あぁ~久しぶりのモフパンチ! 相変わらずの破壊力。今度はそのおみ足をくださいっ!」


 床に座り込んだ東の次を下さいモーションに、自由になったアリスが、収納から巨大ハンマーを取り出した。


「うぉおい。待て待て。流石にそれは死ぬ!」


 ハンマーを掴んで止め、アリスごと抱き上げる。


「マスターのバカバカぁ!」


 ポフポフと叩かれる俺。もちろん手加減されているので、ダメージを負うことはない。そしてそれを羨ましげに指を咥えて見ている東。


「お前もええ加減にしぃや。嫌われたいんか好かれたいんか、どっちやねん」


「それは! 悩みどころですね……。(アリスを)ギュッとするのも、(首を)ギュッとされるのも素敵そうです……」


「……東。買取頼むわ」


 付き合ってられるか、と、話を戻す。


「はいはい。かしこまりました。では、こちらへどうぞ」


 東も何事もなかったかのように立ち上がり、カウンターの方へと戻っていった。アレさえなければ優秀なやつなのに。鑑定系のスキルを持っているので、ごまかしは利かないが、その分いいものは隠さず高値で買ってくれる。


 カウンターの上に戦利品を出していく。


「あ、大きいのもええか?」


「ここで出せるものなら大丈夫ですよ」


 ということなので、トレントからゲットしてきた板材を出す。壁に立てかけると、


「お〜。トレントのドロップアイテムですね。これ大きいんで、持って帰ってこない人もいるんですよね」


 と、東が目を輝かせた。


「収納に入らんからか? でも、あそこまで潜れるんやったら、それなりに容量あるヤツとちゃうん?」


「え、十層だから、そんなに深くもないでしょ」


「あ~、ちゃう。これ三十三階層のモンスターハウスのや」


「なんと!」


 がたっと立ち上がり、改めて鑑定し直しているらしい東。目を細めるとキツネ目が糸目になる。


「いやぁ危ないところでした。ぼくもまだまだですね。先入観で十層のトレントのものと判断するところでしたよ。こちらは一段階上の品質のものですね! ちょっとお待ち下さい。先にこちらの価格を調べてみます」


 そう言って、スマホを手に店を出て行ってしまった。ダンジョン内で電話ができないので仕方がない。ただ、客をひとり置いていくのはどうかと思う。他店ではこういうときのために、数人体制のはずだが。


 今のうちにアリスを戻しておこう。スマンスマンと謝り倒し、スリープモードにして収納。


「お待たせしました!」


 東が戻ってきた。走ってきたのか、ちょっとハァハァしている。急いでないから、ゆっくりでいいのに。


「マリンちゃんにお会いしまして! いいですよね、クールビューティー。『消えろ!』を頂いてしまいましたよ」


 前言撤回。

 ちなみに、マリンちゃんとやらはこの豊洲ダンジョンをホームとしているチームの娘らしい。知らんけど。


「そんで?」


「はい。一応出回ってはいるんですが、数は少ないですね。すでに引取先とも話が付きましたので、こちらの値段で買い取らせて頂こうかと思います」


 東が見せてくれた紙には、結構な額が書かれてあった。俺は買取価格をあまり気にしないので、十層のトレントの板材がいくらだったかは覚えていない。


「おん。そしたら、それで。他のも頼むわ」


 特に反応もせず頷いた俺を見て、東は「はぁ~」とため息を付いた。


「タケハルさんはゴネないんで楽なんですけど、なんだか張り合いがなくて寂しいです」


「妙な呼び方すんなや。そんな、千円・二千円で揉めとる時間あったら、ダンジョン潜ったほうが有意義やろ。ちゅーか、飯代稼げたらええもん、俺は」


「千円・二千円は大きいと思うんですけどねぇ」


 たしかに、ダンジョンに潜る前の俺なら気にしただろう。会社に勤めていたときも、弁当の二百円差に五分は悩んだ。でも今の俺は両方買う。お金があるから、というだけでなく、貯めといても意味がない、というか、どうでもいい精神で生きているので。


 ぶっちゃけ、ダンジョンなんていつ死んでもおかしくない。お金を残しておかなきゃいけない人間はいないし、俺が死ねば収納内の一切合切も消える。死んだ人間の収納内の物を取り出すすべはない。これは外でも中でも同じだ。


「あ~、それね。政府とか経済界で問題になってますね。できるだけ、現金は銀行に入れてくれ〜って。まぁ、うちでは電子マネーが大半ですけど。あ、タケハルさんは現金派でしたね」


 おしゃべりをしつつ、手は魔石を計っていっている。


「あ、これ。七階層の蜘蛛ですね。あれはないんですか! 美容液の!」


「あるけど別口の依頼品やからアカンで」


「え〜残念です。あれならいくらでも買取るんで、またお願いしますよ。えーと、はい。これで全部ですね。合計金額は、こちらになります」


「おん。したらそれで。現金で頼むわ」


「……タケハルさん。せめて見てから言ってくださいよ、もう。今準備しますね」


 ため息をつかれた。お札を受け取り収納へ、硬貨は尻ポケットの財布に流し込んだ。スマホの充電も満タンになった。


「おおきに。んなら、またな」


「ご利用ありがとうございました。アリスちゃん置いていってください」


「おととい来やがれwww」


 さぁて、次は……アイスだ!


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