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始まりの日2 SIDE康介

 

 事態が一応終息するのに、まる二日ほどかかった。日本国内には、全部で五体の化け物が現れていたらしい。自衛隊が出動して、まるで戦争時の様相でようやく倒せたようだ。死体は残らず、消えたらしい。

 被害は甚大だった。自衛隊や警察を中心に、民間人にも多くの被害者が出た。ライフラインも壊滅的だ。周辺の建物は倒壊し、一週間経っても救助が終わらなかった。人が足りない。無事だった地域から応援が続々と来た。


 世界と日本は分断されていた。いや、世界中が分断されているようだった。ようやく復活した世界との通信で、それが明らかになった。まるで見えない壁があるように、国外へと出られないらしい。船や飛行機が、いつの間にか向きを変え帰ってくる。地続きの国でも、同じ現象が起こるらしい。見えている先に進めないのだとか。


 追い打ちをかけるように、ダンジョンの出現が確認された。しかも全国各地から次々と報告が来る。中にはモンスターがいることも確認された。警察が警備につくが、人が足りない。流通が滞り、なんとかしろとデモが起こる。そこにも手を割かれることになった。それでも、国外に比べればまだマシだ。各国で暴動が起こっている。ダンジョンは警備会社に任され、民間人が立ち入るようになった。国は制御することが出来ずにいる。手が回らないと、丸投げしたと言ってもいい。なにしろ国会議員にも死傷者が出ている。まともに中枢が機能せず、それぞれが動いている状態だった。


 ダンジョンに入ると、スキルや魔法が使えるようになったという情報が広がった。そして様々なものが、ドロップアイテムとして手に入ることも。

 とある技術者が入り、魔石から電力を作る技術を会得した。既存の設備に付け加えるだけでいいという、なんともご都合的で便利な仕様だった。

 原油も石油も出る。小麦粉も、大豆も出る。レアメタルも、きんも出る。肉も野菜も出る。

 老いも若きもダンジョンに殺到した。勝手に商売が始まり、新たな流通路が構築されていく。出遅れた国は、そこに関わることができなかった。なんとかかんとか、エネルギー分野には割り込めたらしいが。

 もちろん、死傷者の数もうなぎのぼりに増えた。保険会社が手を離した。監視カメラなどあるはずもなく、行方不明者届を出されてもどうしようもない。事件を訴えられても対処できない。管理下に置けない以上、全部自己責任でとするよりなかった。


 ◆◇◆◇◆◇


 あの時から、一年が過ぎようとしていた。世界は相変わらず行き来できないでいる。人々はダンジョンがある生活に順応していった。ダンジョン産の物が、普通に店先に並ぶ。探索者という職業が認識されるようになった。


「は~……」


「大きなため息だね。退屈かい?」


 後ろから声をかけられ、俺は慌てて姿勢を正した。店長が苦笑してこっちを見ている。


「まぁ、客入りがさっぱりだからね」


 なんと答えていいかわからず、俺は曖昧に笑った。『始まりの日』と呼ばれるあの日以前から働かせてもらっている飲食店。幸い、店長はじめバイト仲間も店も無事だった。だが、駅ビル地下でにぎわいを見せていたこの店に、今は客が一人もいない。路線の廃線にともない、地下街は閑散としていた。

 ダンジョンからエネルギーが得られるとはいえ、乏しいことに代わりはない。電車に限らず、あらゆる交通手段が制限されていた。今では道を走る車も少ない。


「もう、うちも閉めようと思っててねぇ」


 店長が天井を見上げながら寂しそうな顔をした。常連さんのおかげでなんとか保ってきたが、厳しいらしい。数人いたバイトも、俺だけになった。そのバイト時間すら、昼時だけという短時間だ。


「康介君は、なにか当てがあるのかい?」


 首を横に振った。大学はもう諦めた。それどころじゃないというのもある。家族親戚は、なんとか無事だった。父親は普通に会社に勤め、弟は普通に学校に行っている。俺は知人に誘われてダンジョンに入ったものの、仲間割れがおきて宙ぶらりんになっていた。


「実はね、知り合いがダンジョン関係の会社を立ち上げたらしくてね、拾ってもらおうと思ってるんだよ」


「ダンジョンですか。店長潜ったことあるんですか?」


「いいや。もうそんな年じゃないしねぇ」


 付けっぱなしのテレビが、緊急報道を流していた。


「またかぁ……」


 どこかの畑の中を、ゴブリンがキョロキョロしながら歩いていた。ダンジョンから溢れたモンスターだ。二匹、三匹いるのかな。ジリジリと自衛隊が近づいている。そこで画面が変わってしまった。


「まだ増えるんだろうかね、ダンジョン」


「さぁ……」


 ダンジョンは放っておくと、モンスターが溢れてくるらしい。ダンジョンは建物など人工物内に出来る。普段人が出入りしているところならすぐ発見されるのだが、空き家などでは発見が遅れた。廃村の納屋からゴブリンが出てきたり、放置されていた廃ホテルがダンジョン化したり。なので、空き家の取り壊しが推奨されている。それが無理なら、定期的に見回ること、と。

 幸いと言っていいのか、始まりの日のあのサイズのモンスターは出てきていない。今のところ、スキルを持っていない人間でも対処できるレベルだ。だからか、こういう報道があってもはじめの頃よりかは騒がなくなった。もちろん、危険がないわけではない。


「いい会社そうなら、誘ってください」


 結局俺のバイト時間が終わるまで、一人の客しか来なかった。今日までのバイト代をもらって、店をあとにした。ガラガラの地下街を歩き、地上へと出る。


「探索者か……」


 幸い自分はスキルを得ることが出来た。慣れて潜れるようになれば、時給いくらで働くよりも稼げるらしい。ただし、命の保証はない。家族もあまりいい顔はしなかった。でも、ブラブラしているよりかは、マシだろう。



 数人規模のデモ隊が歩いていた。


『反ダンジョン協会』


 ダンジョンは異世界からの侵略行為であり、スキル保持者は異世界の尖兵と成り果てたものであり、ダンジョンに閉じ込め監視すべきである。

 みたいなことを主張してる人たちだ。


 どうしてこんな事になったのかはともかく、探索者を尖兵とは随分ないい草だ。今や生活のあれやこれやをダンジョンに頼っているというのに。

 その話になると、だからこそ管理すべきだという。閉じ込め管理し、ドロップアイテムを集めさせる。そうすれば善良な市民たちは、安価で安全な暮らしができるのだ、と。まぁ、奴隷扱いだな。


 もちろん、ほとんど相手にされていない。今や家族や知人に一人は探索者がいるのだ。それに、スキルや魔法はダンジョン外では使えない。何故危険視しなければいけないのかという話だ。


 ぶっちゃけると、彼らはダンジョンに入ったけどスキルを得られなかった人たちが殆どだ。逆恨みというか、自分たちが得られないのはおかしい、いや自分たちのが正しい、墜ちた奴らは支配下に置くべきだ、みたいなことらしい。

 

 バカバカしい話だが、実際国外では、スキル保持者をダンジョンに閉じ込め、搾取している国があるようだ。


 ぼんやり考え事をしながら、別の鉄道会社の駅にたどり着いた。大幅に減った本数に、待ち時間が発生する。目についたコンビニに入った。ここのコンビニは、まだ24時間営業で頑張っているようだ。おにぎりとお菓子とお茶を買い、店の外で封を開ける。


 ダンジョンに入るにしても、一人では心もとない。それに、俺は双剣のスキルがあるのに、剣を一本しか持っていない。まぁ、剣というか、大きめのナイフなんだけど。

 探索者が増え始めると、武器の類も作られ売られるようになった。銃刀法とかどうなんだって話だが、収納に入れとけば問題ないらしいし、今は自衛のためにも持っていても咎められないらしい。街中でも、ゴブリンが闊歩しないとは限らない。

 増えたといっても、安価ではない。そもそも、今のはネットで買い、それ以外の入手のつてがない。ダンジョンの一階にある店舗で売っているらしいけど……。


「それにしたって、あの辺の店入りにくいんだよな……」


 なんというか、カタギじゃない雰囲気が漂っている。実際、周りを怖い人で固められて安値で売ることになった、みたいな話を聞いたりもする。


 店長の知り合いの会社って、どのへんに食い込んでるんだろう。武器売ってる知り合いとかいないかな。


 とりあえず、家に帰ろう。帰って、再びダンジョンに潜るつもりだけど……と話してみよう。悲しませるのは本意じゃない。

 

お読みいただきありがとうございます。

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