表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

どうする?


「な、なんで……。あんなデカいハンマーで殴ってもびくともしなかったのに……」


 男が呆然としている。それに対しては、弾丸がチートだからとしか言いようがない。手元に残った弾丸は四つ。それなりに硬かったようだ。まぁ、予備はたくさんある。四つを解除して収納し、改めて新しい三つの弾丸を取り出した。


「ジョニー。日野くんらぁ呼んできてくれる?」


「かしこまり」


 パタパタとジョニーが飛んでいく。


 壊れた宝箱のところまで歩いていった。覗き込む。何の変哲もない、しかし素材不明の宝箱だ。なにか魔法陣が描いてあるとか、底なしというわけでもない。ロイドが、そばにしゃがみ込んでツンツンしている。


「なんか変な感じとかするか?」


 聞くと、ううんと首を横に振った。手を伸ばし、宝箱に触れてみる。収納を意識したら、しゅんとその場から消えた。リストを見ると、”壊れた宝箱”と出ていた。持ち帰れるらしい。


 出入り口まで戻り、剣持ちの男に目を向けた。遺体の横で憔悴したように座っている。


「三人おるって聞いたんやけど」


 顔をしかめた。


「あいつは逃げた……多分。気づいたら、いなくなってた」


 剣持ちの彼の名は広橋くん。で、いなくなったのは田中くん。魔力切れで戦力外になった美和さんが助けを呼ぶために離脱。直後にデカいネズミが溢れ、それに対応していたら、田中くんがいなくなっていた、と。ちなみに宝箱横でお亡くなりになった田沢くんは、わりと最初の段階でああなっちゃったようだ。


「さよか」


 厳しいが、ぶっちゃけ仲間割れとか、いざというときに見捨てる、見捨てられるはよくある話だ。


「ドロップアイテムは全部そっちが回収して。代わりに、宝箱俺がもろてええかな?」


 ぬいぐるみたちが走り回ってアイテムを集めてくれている。モンスターハウスだと、自動で一箇所に集まるのになぁ。

 広橋くんが怪訝そうな顔をした。


「いいのか?」


「ええよ。まぁ、アレに価値はなさそうやけど、ああいうのん、好きそうなやつに売りつけるから」


 どこぞのグレーな会社のアイツに売りつけよう。噂の(俺は知らんかったけど)パンドラの箱だ。壊れていても買ってくれるだろう。


「広橋くん! 田沢くん!?」


 女性の声に振り向くと、ジョニーを先頭に、美和さん、日野くんが駆けてきていた。少しは回復したらしい。


「良かった、無事だったんだね。田沢くんは……ひっ!」


 あるべきものがないことに息を呑む。美和さんが広橋くんを見る。広橋くんは俺と同じように首を横に振った。美和さんは、両手で顔を覆い、うめき声を上げた。


「田中は行方がわからない。おまえ、会ったか?」


「ううん。見てないよ……」


「そうか」


 広橋くんたちの関係性は知らないが、逃げたにしろ死んだにしろ、辛いだろうな。だが、ここで悲嘆に暮れているわけにもいかない。


「集めた〜!」


 ロイドとアリスが両手を上げてポーズを取った。いつの間にか部屋の真ん中に山盛りになっている。結構な量だ。命の値段としては安いだろうが。


「えーと、広橋くん? 回収する余裕あるか?」


「あ、はい。大丈夫です。けど、本当に全部いいんですか?」


「おん。てゆーか、もう宝箱俺回収してるし」


「じゃあ……。美和も手伝って」


 広橋くんに促され、俯いたままの美和さんが頷いた。鼻をすすりながら、広橋くんの後を追う。残った日野くんが、深いため息をついた。


「こーいうのんは、初めて?」


 聞くとゆっくりと首を横に振った。


「一度、これより酷いの見たことあります。哀しむ間もなく、襲ってくるモンスターを退けつつ後退するので精一杯でした」


「ネズミー!」


 アリスの声に振り向くと、巨大ネズミが走ってきていた。パンドラの箱は壊したが、ここはダンジョンだ。普通にモンスターが湧いてくる。アリスが走っていって、ドゴンと頭を叩き潰した。


「残念。何もなしですわ」


 トコトコと帰ってきた。あ、そうだ。今のうちに魔力の補充をしておこう。ロイド、アリス、ジョニー。並んだぬいぐるみたちの額に手を当て、魔力を流し込む。代わりに日野くんが警戒に立ってくれている。終わる頃には、広橋くんたちも回収を終えていた。部屋がガランとしている。いつの間にか、入口脇に台座に乗った花瓶が復活していた。


「さて。乗りかかった船やし、最後まで付き合うで。田沢くんどうするん?」


 広橋くんが首を傾げた。日野くんを見る。


「あのね、死体はゲート通れないんだよ。収納もできない。だから、置いていくか、担いで戻るかって話になるんだ」


「そんな! 置いていくなんて!」


 日野くんの言葉に美和さんが悲鳴を上げる。


「せやけどな、二人とも今歩くのも精一杯な感じやろ。九階層分、それで戻れるん?」


「そ、それは……」


「ポーション売ったってもええけど、それでも二人で担いで戻るんは無理やんな?」


 広橋くんが唇を噛む。


「武田さん……」


 眉をへにょりとさせて、日野くんが俺を見る。


「ってなぁ、普通やとそうなるんやけど、今日は俺らがおる。依頼として、なにか対価考えてくれるんやったら、上まで運んだる」


 さすがに無償では出来ない。俺的にはこれくらいの階層なら、ロイドとアリスだけで十分戻れる。だが、それを当たり前と捉えられると困る。主に他の探索者が。あの人はやってくれたのに、とか言われると困る。


 美和さんはなにか言いたげだったが、広橋くんが「分かった」と頷いた。


「上まで頼む。このとおりだ」


 深く頭を下げてくる。こっちもちょっとホッとした。置いていきますとか言われたら、それはそれで困る。


「対価は……金銭くらいしか思いつかないが。なにか欲しいものがあるなら言ってほしい。とは言っても、俺たちはここの十二階までしか行ったことがない。あんたたちならもっと深く潜れるだろうから、ドロップアイテムでは無理か」


 うーん。対価とは言ったものの、特には思いつかない。


「まぁ、それは上で決めようか。二人は水晶で先に戻っとって。ついでに日野くんも」


「えっなんでですか! 俺も手伝いますよ! もう魔力も回復してるし」


「いや、時間的にな。最終電車、間に合わんで?」


「はうっ」


 ばっと日野くんが腕時計を覗き込んだ。もう午後五時を過ぎている。走れるところは走ったとしても、日帰りできなくなる。だいたい今は終電の時間自体早くなってるからなぁ。


「あれ渡すんやろう?」


「そうですけど」


「ぶっちゃけるとな、俺一人のが速い」


 言外に足手まといだと言われて、日野くんが顔を歪める。でも実際、日野くんがいないなら、爆走できるんだなぁ。


「……分かりました。一緒に上に戻ります」


「おん。ほんで先に帰り。ドロップアイテムは後日会ったときに分けようや」


「嫌です。上に帰ったら、電話いれます。これで先に帰るとか、逆に怒られます」


 ちょっと睨まれて、俺は肩をすくめた。まぁそう言うと思った。真面目なんだから。


「分かった。ほんなら上でな」


 収納からキャリーワゴンを取り出す。広橋くんに手伝ってもらって、足を折り曲げるようにして田沢くんを乗せた。カバーを掛けて、衝撃に耐えられるように縛っておく。八階層の方へと、みんなでいっしょに戻った。俺たちは歩いているだけだ。ぬいぐるみたちが無双している。


「改めて見るとすごいな」


 広橋くんが感心している。「魔力大丈夫ですか?」と日野くんが首を傾げた。


「ん〜今で七割くらいやな」


「まだそんなもんなんですか。ずっとぬいぐるみたち動いてるのに。使役系って魔力消費しないんですか?」


「さぁ。他の使役系に会うた事ないしな」


 そもそも『ぬいぐるみ遣い』が使役系なのかどうかも知らない。いや、遣いだからそうなんだろうけど、いちいち命令して動かしているわけじゃないからなぁ。起動時に込める魔力以外はあまり消費しない。


「俺、ゴーレム使ってるやつ見たことあるよ。単純な命令しか聞かない感じだった。それに比べれば、自由に動いてるし戦闘力も段違いだ」


 広橋くんの言葉に日野くんが目をキラキラさせる。


「まぁ、運が良かったちゅーことで」


 どんなスキルを得るかは、運だ。俺はたまたまぬいぐるみを持ったままダンジョンに入った。そのせいかどうか知らないが、自分にあった使い勝手の良いスキルを得ることが出た。だが、剣を持っていたからといって、剣術を得られるわけじゃないらしい。

 ちなみに、ぬいぐるみを抱っこして移動していたわけではない。ホームレスだったので、大きなリュックに全財産詰め込んで持ち歩いていただけだ。アリスだけは捨てられずにリュックに押し込んでいた。


 八階層への階段に着いた。みんなでキャリーカートを持ち上げて階段を登る。


「武田さん。ほんとに俺残らなくて大丈夫ですか? 結構重いですけど」


 日野くんが心配そうに聞いてきた。


「大丈夫、大丈夫。ほれ、はよ上戻り。あ、動く元気あるんやったら、なんか晩飯買っといて」


「……晩飯。分かりました。なにか買っときます」


 広橋くんがまた頭を下げてきた。美和さんもだ。


「お願いします」


「おん。のんびり待っといて」


 日野くん、広橋くん、美和さんの順で水晶に触れて転移していった。ふぅっと大きく息をつく。ロイドたちが俺を見上げている。


お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ