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探しものは出るのか


「どうする? 先に進む?」


 残念ながら金目のものはまだ出てきていない。聞くと、日野くんは「うーん」と考え込んでから、


「もうちょっと、探してみたいです!」


 と言った。ということで、回れ右して、またウロウロを再開する。途中、他のパーティーとすれ違ったが問題はなかった。そうそう絡まれるわけでもない。


「ここは、図書室かな」


 ドアを開けると、ずらりと本棚が並んでいる部屋だった。本がある部屋、もっと言えば小物が多い部屋は面倒くさい。が、その分ドロップアイテムも増える。

 足を踏み入れると、次々と本が襲いかかってきた。地味に分厚い本が多い。洋書って、重いんだよな。まぁ、こんな洋館だし、マンガ本が詰め込まれてる訳はないよな。


 日野くんと二人入り口に陣取って、ライトアローと弾丸で落としていく。ロイドとアリスはちょっと量が減るまで待機。放っといても被弾はしないだろうけど。


「もういーい?」


 本が減ってきたところで、ロイドが聞いてきたのでGOを出す。飛び出していくロイドとアリス。


「武田さん、武田さん! 俺今三発出せましたよ、ライトアロー!」


 ふひーっと息をついていたら、日野くんが興奮した様子で話しかけてきた。


「え、そうなん? すごいやん!」


「はい! すごいですね! 俺こういうのって、もう増えないんだと思ってました。頑張れば増えるんですね!」


 ふんふん鼻息を荒くしながら、「見ててくださいね!」と、ロイドたちがいない方へとライトアローを飛ばした。たしかに三本飛んでいる。


「おー! 威力も変わらへんみたいやし、手数増えたな」


「はい! ……ところで、なんで捕まえてるんですか?」


 俺の手には一冊の本がある。バサバサと逃れようと暴れている、モンスター化した本。


「あーこれな。エロ本かと思て」


「は?」


 日野くんがぽかんとした顔をした。改めて手元の本を見る。精巧な絵が描かれた表紙。中身はほぼカラーで、いろんな絵が載っている。画集だな。で、エロ本じゃなかった。裸の絵が多いけど。


「……襲ってくる一瞬で、よく中身見えますね」


「たまたまやって」


 別にこれを探していたわけじゃない。残念ながら持って出ると流石に捕まりそうなので、サクッと引き裂いておく。エフェクトを残し消えた。ドロップアイテムはなし。本が残ったらいいのになぁ。


「終わったー!」


 ロイドの声に顔を上げると、部屋の端と端に一台ずつ本棚が残っていた。本は一冊もない。


「なんかあるか?」


 本棚の場合はどこから何が出てくるんだろう。日野くんとともに、まずは窓際の本棚を見てみる。なんの変哲のない木製の本棚だ。


「あ! ありましたわ!」


 下の方でアリスが声を上げた。横板の裏側に、箱がくっついているらしい。背の低い二人じゃないと見つけられないな。アリスに取ってもらう。ぱかっと箱を開けた。


「……? なんですか、それ」


 覗き込んできた日野くんが首を傾げる。


「ビーズやな」


 色とりどりのビーズが細かく分かれたケースに入っているセットだ。大きさもいろいろある。うーん。ビーズに手を出したことはまだないんだよなぁ。まぁ、これは売らずに持っておこう。


「こっちの本棚にもあったよ〜」


 ロイドが同じような箱を持ってきてくれた。いや、さっきのより厚みがある箱だな。今度は日野くんに開けてもらう。箱の中に箱があった。あれだ。夜景の見えるレストランとかで、パカッとする、アレだ。


 はわわっと日野くんが俺を見る。頷いて開けるように促す。ここだけ見たら、俺が彼にあげたみたいになってる。見られてないだろうな? 思わず入り口の方を確認する。よし、誰もいない。


「う、うぉぉ!」


 予想通り中には指輪が鎮座していた。青い透明度の高い宝石らしきものが付いている。これは本物かな?


「サファイアですかね!? うちの奥さんの誕生石なんですけど!」


 日野くんの鼻息が再び荒くなる。へー。誕生石。俺、元嫁さんのそういうの知らへんわ。


「良かったな。ええもん出たやん」


「はい! けど、これ、俺がもらっていいんですか? 他のを全部武田さんに渡しても、こっちのが高そうですけど」


「ええよ。最初通り他は折半で。毎回やとあれやけど、初回特典みたいな」


「ありがとうございます!」


 日野くんは嬉しそうに大事そうに指輪の入った箱を収納へと仕舞った。そこに入れると家で渡せないと思うんだが、まぁ、帰りに覚えてたら言おう。


 目的の物は手に入ったので、サクサク進むことにする。十分程歩き、九階層への階段に到着した。水晶に登録し、階段を降りる。ここはデカいネズミって言ってたな。内装はさっきの階とそう変わらない。


「来た!」


 廊下をデカいネズミが走ってきた。いやデカいな。廊下いっぱいだ。アレ方向転換できないんじゃね? っていうか、俺らが避けるスペースもないな。


「俺が行きます!」


 日野くんが腕を伸ばす。三本のライトアローがネズミの巨体を撃ち抜いた。「ピギャ」みたいな声を上げ、ネズミがエフェクトを残して消える。


「お〜瞬殺やん」


「ふぉぉ!」


 嬉しそうだ。前来たときは殺しきれなかったらしいからな。アリスがドロップアイテムを拾ってきてくれた。白いぶ厚めの板みたいなのだ。


「歯ですね」


 日野くんが教えてくれる。なんに使うんだろうなぁ。首を傾げていたら、粉々にしてコンクリに混ぜると付け加えてくれた。建材ってことか。


 テクテク廊下を歩き、ときどき出てくるネズミを駆除する。部屋には極力入らない。ネズミはあんまりお金にならない。だというのにやたらと出てくる。


「日野くん、後ろ後ろ!」


「はい! っていうか、魔力切れっす!」


「ボクが行く〜!」


 ロイドが反転してバックアタックしてきたネズミに突っ込んでいった。進むにつれ小さいネズミも出てくるようになって、忙しなくなってきた。日野くんの魔力切れが頻発し始める。うーん、まだ低層なのにこんなに出るもんなのかね。


 と、向こうの方で悲鳴があがった。別パーティーがいたらしい。


「こっちに来ますわよ」


 アリスがハンマーを担ぎ、長い廊下の向こうを見やる。誰か走ってくるな。女性か。向こうが俺たちに気づいた。


「助けて下さい!」


 あ、蹴躓けつまづいた。後ろからデカいネズミが走ってきている。弾丸を飛ばす。うん。俺はまだ一発で倒せるな。キラッと何かがドロップしたようだが取りに行くのは後だ。


「大丈夫ですかっ!?」


 日野くんが駆け寄った。女性はなんだか黒く煤け、咳き込んでいる。新しい水のペットボトルを取り出し、彼女の目の前で、パキッとフタを開けて渡す。おっさんの飲みさし飲まされたとか、後で言われても困るし。


「ありがとう……ございます」


 女性は何度か口を濯いでから、ごくごくと喉を鳴らした。半分ほど空けてから、大きく息をつく。


「なにがあったんですか?」


「それが……」


 ドガーン!!


 日野くんの問いに答えようとした女性の声をかき消すように、爆音が響いた。吊り下げられた灯りが揺れ、窓ガラスがビリビリと鳴った。相変わらず外に風景はない。驚いたのか振動でか、周囲の警戒をしていたロイドとアリスがぴょっと飛び跳ねていた。


「助けてください!! まだ、三人あそこにいるの!」


「落ち着いて。状況を説明して下さい」


 女性に縋りつかれた日野くんは落ち着いている。非情だが命に関わることだ。無理だと感じれば助けに行くより、撤退を選ばないといけない。


「ポップが止まらないの! 多分、パンドラの箱じゃないかって……」


「そんな! よりによってこのダンジョンで!?」


「倒しても倒しても出てくる。捌ききれなくて、どんどん漏れていって……」


「それでやたらと居るのか」


 日野くんは難しい顔をしている。女性は小さく震えながら、爆音がした辺りを気にしていた。時折戦闘音らしきものが聞こえる。


「あ、あたし、もう魔力も武器もなくて、助けを呼んでくれって……行かなきゃ、行かなきゃいけないのにっ」


 踏ん張って立とうとしているが、足に力が入らないんだろう。涙をこぼしながら震えている。


 日野くんがこっちを見た。


 その前に、パンドラの箱ってなんぞや。

 


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ダンジョン産のビーズでデコったら属性やらのなにかしらの効果が付いたりするのかな? あと、指輪はちゃんと鑑定してもらおうね、日野くん。 [一言] パンドラの箱、とはなんぞや? 字面からな…
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