VSキラーフィッシュ
カンカンっ!
甲高い音が響いた。
「ええっ!?」
日野くんが驚愕の声を上げる。虎の子のライトアローが弾かれてしまった。ボスのキラーフィッシュは鋼のボディーをお持ちのようだ。それとも、単純に威力が弱いのか、光属性に耐性があるのか。
考えたら、キラーフィッシュのボスと当たるのは初めてだ。ただデカいだけではないらしい。
「グギャギャギャ!」
笑っておられる。ボスがピカピカボディーを揺らして笑い声を上げた。
「日野くん。とりあえず、魔力切れにならない程度に頑張って。口の中とか」
「そ、そうですね」
外皮は硬いけど、腹とか口の中は柔らかいというのはよくある。浅い階層だし、そんなに強敵は出てこないと思うんだけどな。
ライトアローが口元を狙うが、キラーフィッシュのボスは長い口を振って、ライトアローを弾いている。
「ん〜?」
弾丸をぶつけてみる。
「グギャアッ!?」
ぞりっとこめかみの辺りを弾丸が削っていった。ちょっと滑るけど、通らないわけじゃなさそうだ。ビタビタと胸鰭で水面を打ちながら、ボスが暴れる。
「えぇ~なんで当たるんです……?」
日野くんが涙目だ。まぁ、俺のは『何でもぶち抜く弾丸』だからね。そういう仕様なんよ。
「マスター! 攻撃が来ますわよ!」
アリスが駆けてきながら、ボスのほうをハンマーで指した。なんか、ほっぺたが膨らんでいる。と思ったら、テッポウウオのごとく、水弾を飛ばしてきた。
バレーボールぐらいの大きなの水弾を避ける。一発ずつではあるが、続けて撃てるらしい。右に左に避けていくうちに、その辺がビシャビシャになってきた。
水弾、キラーフィッシュ、キラーフィッシュ、水弾、キラーフィッシュ……うーん、攻撃する暇がない。
「んにょあ〜!!」
ロイドがまともに水弾を食らって宙を舞った。あ~あ~、ずぶ濡れだな。ダメージ自体はさほどなさそうだけど。
「武田さん! 攻撃切れました!」
日野くんは結界を駆使して無事のようだ。俺と同じようにズボンがびしょ濡れだけど。
ボスは口に含んでいた水がなくなったのか、通常モードになっている。ただ、ゼェゼェと肩で……多分肩で荒い息をしていた。雑魚キラーフィッシュの数は残り少ない。
「日野くん止め刺す?」
「いいんですか?」
「おん。したら、もう一回攻撃するで、口の中狙ってな。それやったら、多分通るやろ」
「はい!」
ということで、今度は弾丸二発を飛ばす。ボスの左右のこめかみがぞりっと削れた。気合が入った顔になったボスが、大きく口を開ける。サメみたいな口内だな。
「喰らえ! セイントビーーームっ!!」
えっ。なんて!?
思わず日野くんの方を見たら、額の辺りで横向きダブルピースポーズだった。飲み会のときやってたやつ、冗談でやってると思ってた。
ピョルルルル……!!
意外にかわいらしい音を立てて、ダブルピースの間から白い光線が走った。それはまっすぐに、ボスの口内へと吸い込まれていった。
「ブギャァ!」
どうや!? あ、アカン。倒れへん。
「日野くん、もう一発……って日野くぅん!?」
ガックリ膝を付いて燃え尽きてるぅ。
しょうがないので、止めはいただきます。
「いてこますぅー!」
あれ。今なにか飛んでいった。
ゾンッ! と、ボスの首が飛んだ。そこには、ぶっ飛びながらドヤ顔のロイドが。やったぜ!ポーズのまま、ポチャンと水面に落ちていった。
「うぉぉい!!」
標的を失った弾丸が虚しく戻ってくる。
ちょうど雑魚キラーフィッシュも全滅したようだ。キラキラーっとそこいら中でエフェクトが光り、戦闘の終わりを示す。なんか、不完全燃焼だけども、うちの子だししょうがない。
ロイドはバタ足で戻ってきた。お前、泳げたんか。
「えーと。日野くんは大丈夫?」
アリスは近くにいる。もうハンマーを仕舞って、ロイドとハイタッチをしている。俺はずぶ濡れだが、無傷。日野くんは……?
「うぉぇぇ」
グロッキーだが、怪我はなさそうだ。
波打ち際にドロップアイテムが積み上がった。水中で死んだモンスターのも、ちゃんと掻き寄せてくれている。それとともに、水浸しだったこっち側の地面もからっと乾いた。優しいダンジョン仕様。ついでに俺たちも乾かしてくれたらいいのに。
「日野くーん。ほら、ドロップよーさん出たで」
「……ふぇい」
ボスのキラーフィッシュの物だろう、ひときわ大きな魔石がある。小さめの魔石と、あとは、釣り針。大小いろんなサイズの釣り針が、小分けパックされている。残念ながら縫い針はない。口の硬いやつは、何に加工されるんだろうな。よく見ると、ちょっとギザギザしていた。これ刺さったら、抜くとき傷が大きくなりそうだ。
「あとは、スイーツ。どら焼きか」
「どら焼き!?」
日野くんが顔を上げた。
「え、なに!? 好きなん? どら焼き」
ズリズリ這いずってきた日野くんが、俺の手元を覗く。
「どら焼きというか、あんこが好きなんです。おお! しかもこれ、栗が入ってる! あんこもたっぷり!」
「そうやね。どこのんやろうな」
「うーん。俺も詳しくはないんで……。でも、粒あんですね♪」
ちょっと復活したようで何より。
まぁ、ダンジョンのドロップアイテムは、どこか企業のものが落ちるわけではない。このどら焼きは一個ずつ個包装されているが、商品名とか、成分表とかはない。ただ、どこかのを真似ているのではないかという噂だ。
「したら、昼休憩にしよか」
その前に、クリーン! キレイになるだけでなく、からっと乾くのだ。ロイドとアリスも呼び寄せてクリーンを掛ける。ふわふわの毛並みになりましてよ。日野くんにも掛けておこう。
「うぅ、ありがとうございます」
あとは、テーブルと椅子二つ。今日のお昼は、いつ買ったのか覚えてないけど、ホカホカの天丼。デザートはどら焼き。二つしかないから、一個ずつね。
「日野くんは、手持ちあるんやったな?」
「あ、はい」
まだ顔色は悪いが動けるようになったようだ。しかし、これでは頻繁に使えないというのも納得だ。モンスターハウスだから、倒したあとは安全だけど、通常はどんどんモンスター湧くからなぁ。
日野くんが収納から弁当箱を取り出した。愛妻弁当か。流石にキャラ弁ではない。彩り豊かで、冷凍物は使っていないように見える。
「愛されとんなぁ」
「へへっ」
羨ましいかというと、まぁ、正直そうでもない。だって食いたいもの食えるもの。その日によって麺とかご飯とか、あるじゃない。
天丼はつゆが甘めで美味しかった。どら焼きも美味い。こちらは甘さ控えめだ。日野くんが噛みしめるように、どら焼きをもぐもぐしていた。
ちなみにぬいぐるみズは、食事が必要ないのでその辺をポッキュポッキュとお散歩している。せっかく呼んだし、代わりに俺は楽をさせてもらおう。
「次の階層はなんなん?」
「八階層はですね、家具ですね。机とか椅子が向かってきます。洋館風の迷路になるんですけど、最短ルートだと二十分くらいですかね。九階層は同じ洋館風で、デカいネズミです。で、十階層がイモムシですね」
「あ~引き返したとかいう」
「はい。いろいろ思い出してきました」
メモを見ながら、日野くんが教えてくれる。洋館風の迷路は、どこのダンジョンも凝った作りになっている。草と岩しかない草原とは、気合いの入り方が違う。残念ながら、凝ったランプとかは持って帰れない。わざわざ洋館層まで潜って、コスプレイベントをしたりするツワモノたちもいるらしい。
「うーん。今午後一時半。やっぱ九階層までかなぁ」
腕時計、防水で良かった。
「マスターマスター! 宝探ししようよ!」
話が聞こえていたのか、ポテポテっとロイドが駆けてきて、テーブルの縁にぶらさがった。
「宝探し?」
「家具が出るところはぁ、宝箱が出るんだよ!」
「へぇ。そうやったっけ?」
日野くんを見ると、首を傾げている。
「出ますわよ。宝箱というか、設置されてる机の中にたまになにかある……ですけれど」
ロイドの隣にアリスもぶらさがった。
「あ~、そういえば家探ししたら出たな」
「そうなんですか?」
日野くんが目を丸くした。
「モンスター化してない家具をゴソゴソしたら、たまになんか入っとんや。大体みんな最短ルートで抜けるからな。あんまり知られてへんかも。というか、俺もさっき思い出したけど」
ぬいぐるみのが記憶力がいいという、悲しい現実。ステータスに記憶力という項目はないようだ。脳みそ入ってないのに、どこで記憶してるんだろう、この子ら。
「何が出るんですか?」
日野くんの問いに、俺はロイドたちを見た。何だっけ?
「宝石ー。鉛筆ー。へそくりー。セミの抜け殻ー」
「……当たり外れが激しいですね。このあたりが噂が広まらない原因でしょうか」
「かもなぁ」
「でも面白そうですね。えーと、家具が落とすのは、魔石とリボンと本ですね。お金にはならなそうですけど、ウロウロしてみます?」
リボンかぁ。アリスの衣装作るのにええかも。
「ええん?」
「大丈夫です。武田さん、折半してくれるって言うし、ここの魔石もあるし、あと、宝石出たら嬉しい!」
「お。プレゼントか」
ぽぽっと日野くんの顔が赤くなる。ご馳走様です、けぷ。
ということで、ちゃっちゃと片付けて進みますか。
お読みいただきありがとうございました。




