それは誰もが通る道
「選民思考?」
「知りません? ダンジョンでスキルを獲得できた人は、選ばれた人間だ。みたいなやつですよ」
歩き出した日野くんが、俺を追い抜いていく。
「えー、それ確か七十%くらいやろ。選ばれたゆーには数が多すぎへん?」
もちろん、ダンジョンに入ったことがあるのは、健康で若い連中が主だから、全国民での割合はもうちょっと下がるだろう。だとしても、選ばれたとは大層な。
「ですよね。分かってはいるんですけど、俺はダンジョンに認められた!みたいなのがあって、せっかく獲得できたのに今更他の仕事探すとか……って、意地になってるんですよ。そのくせ、大したことも出来ずにいる」
視界が明るくなった。五階層は、洞窟のままだがさっきのところよりも随分と明るい。天井も高くなったので、圧迫感はなくなった。
「なんちゅーか、早死するタイプやな」
「はは。改めて言葉にすると、俺ヤバいですね」
「まぁ、自覚しとる分だけマシやろ。言葉のわりにヤケになった行動はしてへんし」
テクテク歩いていくと、花が向こうから歩いてきた。ご存知だろうか。手を叩いたりして音を出すと、クネクネするサングラスを掛けた花の玩具を。アレの大きいのが歩いてきていると思ってもらっていい。
「あ、フラワースプラッシュですね。花びらを飛ばしてくるんで気をつけて下さい」
これは初見のモンスターだ。日野くんの言葉に警戒したところで、花がこっちを認識した。前屈みになったと思ったら、ブワッと花びらが渦を巻くように飛んできた。
「危なっ!」
幸い見切れるスピードだ。当たりそうなのだけ、ナイフで散らしておく。日野くんは槍で振り払っていた。パラパラと花びらが落ちる。と、真ん中だけになった花が、くるっと反転してダッシュで逃げて行ってしまった。
「えぇ……」
落ちた花びらが消えていく。
「逃げるんですよね、あれ。あっちが本体なので、あれを倒さないとドロップアイテムが手に入らないんです。えーと、魔石と、種が落ちるみたいです」
日野くんがポケットからメモ帳を取り出して、そう教えてくれた。偉いな。ちゃんとそういうの調べてるんだ。俺はいつも行き当たりばったりやけど。
「種……。アレが生えてくんの?」
日野くんは一瞬キョトンとした顔をして、それからぷっと吹き出した。
「まさか。普通に植物の種ですよ。バラとかヒマワリとか、梅干しの種ってのもあったような。ランダムらしいですけど」
「やんなぁ。ちょっと想像してもた」
プランターで踊るフラワースプラッシュ。番犬代わりにいいんじゃないだろうか。
せっかくなので、花びらは結界で防ぐようにしてもらった。多少のタイムラグはあるが、二人分問題なく発動している。魔力切れが近くなると、武器での防御に切り替える。種は興味ないので、すべて見逃すことにした。それにしても、花びらがなくなったあいつらは、どこへ逃げていってるんだろう。
五階層も問題なく水晶のところまで来れた。ここでちょっと水分補給の休憩を取る。昼にはまだ早いが、オヤツを摘もう。
「……コーラとシュークリームって、よく食べられますね」
スポーツドリンクを飲みながら、日野くんが「うわぁ」みたいな顔をする。食い合わせは気にせんタイプなん。
「食う? 貰いもんやけど、なんかお高いところのやつらしいで」
康介からの差し入れだ。シュークリームが入っていた箱を見せると、日野くんは目を剥いた。知っているところらしい。バニラビーンズが入ったクリームが美味しい。葛藤したあと、日野くんもシュークリームを食べた。
「うぅ。美味しいです。いつか、子供に買って帰ってあげたい……」
そんなに高いもんなのだろうか。普通に昼ごはんが食える値段? へー。
「そういやぁ、さっきの話蒸し返すけどな」
指についたクリームを舐め、コーラで流し込む。日野くんがほわっとした顔を向けてきた。口の端にクリーム付いてるぞ♪ 取ってやんないけど。
「日野くんのは、選民思考ゆーより、中二的なアレやと思うで」
「はい?」
「選ばれたとは思ってても、やからとゆーてスキルを得てない嫁さんとかを下に見てるわけやないんやろ?」
「もちろん!」
「せやからなぁ、『俺って光魔法ゲットとかちょっと主人公属性じゃね? くっ、力が使いこなせないのはこの右腕の封印のせいかっ。俺は屈しない! 今に見ていろ! 俺が本気にさえなればこんなもの! うぉぉ、俺は選ばれた人間なんだー!』……みたいな」
右腕を抱えてワナワナして見せる俺。ぽかんとした顔でこっちを見ている日野くん。無意識にか、自分の腕をさすっている。あれ? ホンマに謎の文様とかあらへんよね?
「い、いやいやいや。何を言ってるんですか。俺がそんな……。隠された力が眠ってるとか、そんなこと思ってませんって」
「…………」
「……」
無言で見つめ合う。ジワジワと日野くんの顔が赤く染まっていき、茹でダコのようになった。ガバっと日野くんがうずくまって悶える。
「ちがっ違うんですってぇ。だってそんな、いい大人っすよ!? きっとなにか、きっかけさえあればランカーにもなれるとか、思ってないですからぁ〜」
「うんうん。誰しも自分が特別やと思うときはあるって。魔法とかなぁ、超常的な力持つんやもん」
「うぅ……」
「俺強ぇとか、誰でもなるって」
ゴロゴロ転がって身悶える日野くん。やがて気が済んだのか、ムクリと頭を上げた。スンッとした顔で、長々とため息をつく。
「ちょっと落ち着きました。なるほど。俺TUEEEしたかったんですね、俺」
まぁ、なんというか。真面目ゆえというか。もっと出来るはずだって、思ってただけだと思うよ。そしてそれは、誰もが通る道だ。
「んじゃあ、そろそろ下行こか。それとも、もう戻るか?」
日野くんはちょっと小首を傾げた。
「迷惑でなかったら、行けるところまで行きたいです。他のパーティーだと実験しながらっていうのが、難しいので」
「おん。ええよ。好きなだけ試したらええわ。使い方も一つとちゃうやろうしな」
ゴミを収納に収め、立ち上がる。えーと、登録はしたっけ? してるな。よし、行こう。
「そういえば、光魔法って、回復は出来んのけ?」
階段を降りていく。
「出来ないです。俺も、期待したんですけどねぇ。回復は『回復魔法』って、別のスキルっぽいです」
「へー」
ゲームだと、水魔法とかでも回復手段があるけど、そこまで優しくはないようだ。
六階層に到着した。平原が広がっている。
「六階層はゴブリンが集団で出ます。武器持ちもいるので、注意して下さい」
「へーい。したら、日野くんの撃ち漏らし狙うんで、どんどんやっちゃって〜」
「は、はい!」
弾丸の数を増やしとこう。進み始めると、すぐにガサガサと草を揺らしてゴブリンが出てきた。四体、奥の二体は弓を持っている。
「行きます!」
日野くんの声とともに、後ろの二体が吹き飛んだ。いい判断だ。とりあえず遠距離ヤロウを撃ち砕くに限る。前の二体が「ギャギャ!」と棍棒を振り上げたが、俺の弾丸が風穴を空けた。ドロップアイテムは、腰布一枚。臭い布というゴミアイテムだ。もちろん拾わない。
「おーし。次々行こか」
「はい。ってか、あのぬいぐるみたちは出さないんですか?」
平原なので、あちこちからゴブリンが沸いてくる。まぁ、大した問題はない。こいつら気配を隠すとか、こっそり忍び寄るとかしないから。日野くんが、撃ち漏らしたゴブリンを自ら槍で粉砕する。
「うーん。別に喚んでもええんやけど、俺らの仕事なくなんで?」
「そ、そんなにですか」
今以上に駄弁りながら進めるレベル。
「わっ!?」
ふいに日野くんが声を上げて大きく頭を下げた。
「ん? 大丈夫?」
「あ、平気です。眼の前に矢が飛んできたんで、びっくりしました」
周囲を伺うと、遠くの岩陰からゴブリンが覗いているのが見えた。ぞろぞろ出てきているのと少し顔の作りが違う。普通のゴブリンじゃあ、この距離は届かないはずだ。
「あれ、レアちゃうか」
「え、やりましょう!」
たまに出るレア個体は、強さも上がるがドロップアイテムもいいのが出る……と言われている。日野くんが意気込むが、顔を向けたときには、レアゴブリンは、アッパーを食らったかのように空中でキラーンとなっていた。
日野くんがじとっと俺を見る。
「いや、俺ちゃうよ?」
視線の先に、雄叫びを上げている高校生くらいの集団がいるのが見えた。なにかいいものでも出たんだろう。
「ああ、他のパーティー……。いたんですね」
「せやな。ここまで誰にも会わんかったほうが不思議なくらいや」
向こうのパーティーもこっちに気づいた。なんか挑発してるな。べろべろばーとか、幼稚園児かな。
「アホらしい。行くで」
「あ、はい。武田さんはああいうの、気にしない人なんですか? 俺結構ムカついたんですけど……」
チラチラ後ろを気にしながら、日野くんが付いてくる。奴らは追ってこないようだ。
「いちいち相手にするほうがしんどいやろ。ああいうのは、放っといても痛い目に遭うって」
「そうでしょうけど……」
最初の頃は、それでも「なにしよんや」と首を突っ込んでいた。が、結局痛い目を見ないと自覚しないし、その際命を落とすこともある。関わるとろくなことにならないと、俺は学んだのだ。
「それより、ほれ。二投で満足しとらんと、数増やせるよう頑張りや。あと、出来そうなら威力の調整もな」
次々、ゴブリンは出てくるで。
「威力ですか」
光の矢が二体を弾けさせる。残り三体。一体だけ弾丸で減らす。
「威力三で死ぬのに、十使うとか無駄やろう?」
「ああ、そういう」
残りの二体は、剣を振りかぶって走ってきた。光の矢が襲う。上半身が消滅し、キラーンとエフェクトが光った。ドロップアイテムは魔石が一個。ちょっと、ここドロップ率低いんじゃなくって? 渋すぎるわー。




