魔法戦2 魔法師狩りの女
視聴覚室。爆破後の室内に死者20名を出した未曾有のテロリズムアクシデント。
場所は、サクナン中もとい中紗倉南台中学校、時は6月半ばの曇天の頃。
死者数20名の男女生徒は、全員2年4組の生徒で、他の5名を除く若き尊い命が失われた。なぜにこんなテロリズムらしい爆破事件が勃発したのかは全く検討すら出来ない日本の警察の悩み所である。
遡る事2日前――。
美人教師、福川里依邏。その正体はレーラミエファーン・リワウスという魔法次元の世界人。
正体を隠して日本人名義で変装していたが、次元坑道を抜けた悪の権化が登場した所為でもあって魔力の強い場所である視聴覚室に向かった。
悪の権化ラッペス。彼の目的は地球蹂躪。支配下に置いて生存者を魔法で従者にする事だ。その為の準備計画に里依邏の関係する範囲内に魔法戦を挑む宣戦布告をした。
そして、後日に決行すると体力、その魔力温存理由で、数日間の眠りに就いたという。
ラッペスの就寝した時間から数えて22時間後。
2年4組の教室にいる全員にある広告が記載されたチラシが各自に配布された。ラッペスが解き放し忠実なる下僕、ギオウスが人化して、準備計画の一環を遂行したものだ。
[明日の放課後に視聴覚室に来られたし。
招待者へのサプライズイベントです。
尚、招待者の拒否権は受け付けません。
ご了承ください。
日時/20✕✕/6/✕✕]
こんな内容のチラシならば行かない選択肢はない。拒否権がないまで記述されてる自体が脅迫行為だが、手の混んだ悪戯にしては疑う生徒は誰もいなかった。
しかし、25名全員ではなく、その日に限って、他校へと遠征した5名の生徒はこのチラシ内容は知らされる事はなかった。
その5名は毎日仲良く固まってダベってる程に絆の強い仲間のような集まりだ。
仲間の中の一人が他校に親友がいて、スポーツ部の練習試合大会で応援席がゼロというから、遠征してまで応援しに出た訳だ。
もちろん、里依邏の指導の下、許可を得ての校外遠征。随伴者の付き添いで彼女はサクナン中を留守していた。
ラッペスの魔力温存期間での警戒が緩んだ活動なので、レーラミエファーン・リワウスとしてのお役目を果たしていない状態だ。
チラシを受け取った2年4組生徒全員は、プリントに施された催眠従者に変貌させる香料組成物を嗅ぎ取った。香料成分によって精神支配され、『人形化』されたという。
そんな施しの内容の事など気配すら気付けなかった里依邏。遠征して距離を置いてしまえば、魔力気配なんて微塵も感じられない。一介の魔法師なんてそういうものだ。
ラッペスが目覚める当日。
里依邏は、用心に越した事はないと自覚しているが、先日の留守中にあったギオウスのしかけについては読み取れる魔法索敵は不可能だったらしい。ラッペスからしてみれば好都合の展開だろう。
放課後になると、2年4組の催眠従者化した生徒らは、颯爽と視聴覚室へと向かった。
「この室内はサプライズイベントが開催されるみたい。だから、放課後の利用はいかなる理由でも禁止します。さ、出て行ってください」
器楽部が20名の勢力によって追い出された。いい迷惑行為だ。その中の一人が職員室へと駆けて行った。
「こらこら、廊下は走らない。あなた、血相かいてどうかしましたか?」
「里依邏先生……実は、視聴覚室を訳のわからないクラス全員くらいの数の生徒が占領行為してしまったのです」
「えっ⁉ まさかラッペ……いえ、何でもありません。こちらの事です。わたしが参りましょう。あなたはそこにいてください」
手始めの根絶やし作戦……それが生徒たちを精神支配する事なら、ラッペスのしそうな手口と推測した里依邏だった。
その頃、残りの器楽部部員たちは、職員室に向かった部員から携帯で連絡受けては、2年4組の教室まで駆け出した。
「あなたたちは、まだ帰ってないのね。いったい何かあったの?」
「皆一斉に向かった方向が同じだったから聞こうとしたら、変な能力か知らないけど跳ね返されたんだ」
グループリーダー格の立石ミチヤが部員たちに熱い口振りで伝達した。
「いったいどこへ……アンタたち、器楽部? 視聴覚室なのか、みんなが行ったのは?」
「行っちゃダメ。あそこは気が狂った2−4の全生徒の占領区になった所よ」
「テロの連中にハメられたとか? 許さねえ。俺は頭にきた。みんなを救ってやる」
「ミチヤ君、行ったらダメと言われたばかりでしょ。慎重に行動しよ」
仲間の一人、木島カヤサがミチヤを制止した。が、彼は言う事をすんなりと聞くキャラではなく、イライラしていた。
「俺は止めても行くぞ」
ミチヤの後頭部をかち割るようにチョップかました北沢マサトが怒声を挙げた。
「バッカ野郎!! てめえ、無鉄砲もいい加減にしろよ。無計画で出しゃばっててうまくいった試しなかったろう。今までさ。とにかく落ち着けって」
続けて涌谷ミズホが突然分析しだした。
「集団催眠の確率は高いわ。みんなは何かの媒体によって操られたに違いない」
「うむ、これはボクから言わせれば明らかにテロリスト集団の嫌がらせかと。そもそも……あっ、そこっ……まだボクの説明が〜」
桂ユキオは学年別全教科が断トツ一位を勝ち誇る秀逸な存在。しかし、毒舌が哲学すぎてて連れの仲間さえも飽きられていた。
足の遅いユキオがやっとの事で視聴覚室にたどり着くや、里依邏先生が見ず知らずの青年とのやり取りを、2年4組の生存者5名は一斉に見とれた。
なぜならば、先生の姿が魔法使いのようなコスプレ姿で応対していたからだ。
「ラッペス、貴様は許さない。さ、その起爆魔法円を解除してもらうぞ」
「ムダだと言ったろう? そう、魔力温存はこの室内結界の為にしたもの。他の部屋には影響ないから安心しなよ。ちなみにこの張り巡らせた魔法円は解除不可の強力な魔力紋様で描かれている。もはや他者の魔法師が何人かかろうがムダ足なのさ」
「起爆魔法円が解除不能? わたしが何かすれば起爆は免れるか?」
「言ったはずだ。解除不能の回避などこの
ワタクシでもムリなのに無茶な事言うなよな」
「罰はわたしだけで十分だ。生徒の解放を頼む。お願いだ!!」
「もはや問答無用。さぁさ、イッツショータイム!! 生血と舞い踊るが良い。ヘルズ・デリート」
中二病的な技名を挙げるや、スナップきかせた後に視聴覚室内部は、ラッペス以外は魔法円効果で爆破しだした。
もちろん20名の生徒たちは、まだ遊びたい盛りの若き命が散り散りに焼失されてしまわれたのだった。
再びスナップをきかせたラッペスにより、鎮火魔法で焼け焦げた室内と数々の生命の最期を里依邏や他生徒5名の目の中に焼き付いてしまった。
「鎮火は何とかできた。フフフ。お前ら、ここで見たことを漏らしても、魔法世界から放った魔法の手前では信用されまい。つまりは、そんな環境などすぐにでも落とせる。わたくしの意志は焦って遂行はしない事だ。じわじわと炙らせて痛めつける。思う存分にな」
「この畜生な野郎め」
「わたくしを倒すのはまだだよ。お前はまだ赤子に等しい。よって、その魔力成長を見届けよう。しばしの退散だ。さらば諸君ら……」
「チッ、貴様っ……ま、待て!!」
ラッペスは一旦自分で建てた魔招礫へと帰投し、再び眠りに就いた。
「魔招礫に帰ったらしいな。魔法世界は悪行者が領域に進めば強力な電気ショックみたいのにかかるからな。しかし、担当クラスの全員を守れなかったのは悔しいものだ」
「先生……俺たちは先生が魔法使いのコスプレーヤーしてる中二病者と思ってしまって……ごめんなさい」
「良いのよ。人払い効力が薄いから、警察や消防が駆けつけるのも時間の問題。あなた達は早く避難や帰宅なさい」
「イヤだね。こんな無様な視聴覚室見せられて知らん顔できないからな」
「ミチヤの言う通りです。先生、どうか協力させてください」
「魔法師狩りという魔女狩りみたいなのを伝えるわ。この惨事にかかわったとして、わたしが地球に残る事は上に立つ社会人より調べ上げる。そしてわたしが魔法を公共で発動した後でそれが危険行為として立証。マスコミから注文されて、お茶の間にわたしが裁かれる所が映り、拷問され続けては飲食すら許されずに廃れていく。そういう流れになるわ。だから、わたしは難を逃れる為に今から帰郷するのよ。あなたたちを魔法世界に行かせられない。だから、ここでお別れね」
「魔女狩りなんてもはやアナクロな手法です。こんな現代にある訳がないですよ。先生に万一があれば自分たちが先生を守ります」
真剣な眼差しでマサトが里依邏を見つめ、彼女の両肩にしがみついた。
「マサト君、肩痛いから、離して」
「あっ、ごめんなさい。先生が思いつめて言ってるので、つい」
「わたしを思う気持ちは理解したわ。でも、魔法人はね、非能力者の地球人に守られてたら立場がないのよ。分かって? だから、あなたたちはわたしのこの姿やさっきまでのいきさつを見なかった事にしてここを去りなさい」
「イヤっ。あたしは先生と一緒にいたい!! 先生が好きなんだもの。絶対に離さないから」
カヤサが自分勝手にわがままを言い出した。
「カヤサちゃん、泣かないでね。わたしだって辛いもの。別れるのなんて。……だからといってあなたたちを連れて行くことはムリ。さ、ここを出なさい」
「出るのはボクだけにするよ。どうせここであった事はボロが出るでしょう? ボクは頭脳派のモヤシ人間。自分で言っちゃオシマイだけども。この場を凌ぎますので、皆さんとあっちで冒険してくださいよ。警察官やら消防隊員やらなんとかごまかせられます。さぁ、皆さん先生のサポートをよろしくお願いします。では、ボクは人払いの魔法術が解けたら、なんとか説明するので、皆さんもお気をつけてください」
桂ユキオの積極的な発言がクラスメートのグループ仲間を圧倒させた。全員開いた口が塞がらなかった。
「カツラ、お前凄いな。正直、頼もしいキャラになってんじゃんか。よしっ……みんな、先生をサポートしに魔法世界へ行こうぜ」
流石はリーダ格のミチヤだ。指揮する姿に活気が湧き出した。
「みんな……判ったわ。じゃあ、カツラ君、あんまり無茶はダメだからね。特にマスコミ関連は探偵まがいにしつこいから用心する事。良い?」
「フフフ。ボクを誰だと思ってます? 桂ユキオはこれでも学年トップの秀才キャラ。どんな槍でもかかってこいですよ」
「なんか、不安だ」
ミチヤは小声でユキオを心配した。
なんだかんだ言っては、結局は生徒4名と里依邏は、魔法円に入って、魔法世界『シュレソルーテ』へと魔法転移し、旅立った。
「皆さんのご武運を健闘します。では、ボクは警察と消防の方に事情説明しに参りましょう」
丸焦げた遺体の中、ユキオは見慣れぬそのグロテスクな群れを見遣ると、今まで我慢してきた吐き気を一気に催したのだった。