表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

姉とだったり 弟がだったり

生き血をすすり 屍肉を喰らい

作者: 歌川 詩季

 第3弾は姉→弟のブラコン回です。

 まだまだ、日常しております。

「ちょっと。ほんとにそのバイト、大丈夫なんでしょうね?」

 聞きまちがいかしら?自分の耳をうたがった、心配顔の姉に。弟は、けろっとした表情で答える。まさにカエルのつらに、なんとやらか。

「平気だってば。

 むしろ、きちんとしたバイトだからだよ」


 仕事で留守がちの両親ゆえに、姉弟はマイ・ペースなふたりぐらし。自分も勤めに出る姉。通信制ながら、学業をおさめる弟。

 ここは山や林に囲まれた、人里離れた一軒家。交通機関は、バス停がぽつんと。食糧や日用品の買い出しや、姉の通勤に活躍している。


 ほほえましいほど、のどかで。

 もどかしいほど、不自由なくらし。


 そんな日常も、ふたりなら楽しく送ることができた。

 だからといって、この現状を享受するだけでは、快活な少年時代の浪費にすぎない。通信制の学校にも、長期の休みはある。家事をこなすだけでなく、外の仕事までもつ姉の姿を、ふだん、目にしているせいか。この期間を利用して、弟もバイトをはじめることにしたらしい。

 休みのあいだだけの短期で、送迎のバスが近くを通る。少年の彼にも、無理なくこなせる仕事で。給与はそこそこなものの、労働条件は、むしろ悪くない。

 とくに、なにかを買うために。どうしても、お金が欲しいわけではないのだが。これだけの好要素がそろっているなら、やってみようではないか。

 申し込んで、採用されると。募集のパンフレットを見せながら、今回の挑戦の報告を、姉へとはじめようとした弟だったのだが。

 冊子に目をとおすよりはやく、弟のひとことめに、姉は警戒反応を示すのだった。


 やっぱり、わたしの聞きまちがいかもしれない。とはいえ、もしそうでなかったら、そんなバイトに、弟を送り出してよいものだろうか?

 たしかに、世は資本主義経済。無形だったり、売買に適さない概念だったり。それらまで、なんだかんだで金銭で評価してしまう。いわば、あらゆる価値を金銭が媒介することによって、同じ土俵で相撲がとれるようするしくみだ。

 だが、価値を数字化するというのは残酷なもの。飢えや困窮に苛まれないためには、その数字を稼がなければならない。みずからが愛する者と生きるためには、他人の生き血をすすることすら必要になることもあろう。

 わかってはいるけれど。

 まだ幼い弟が、そんな業界に足を踏み入れてもよいものか?下手をしたらもう、太陽のもとを、いっしょにならんで歩くことさえ、かなわなくなるかもしれない。両手と、くちもとを血に染めて。月夜を飛び交う闇の眷属。その仲間入りを喜んでやるなど、彼女にはできなかった。


 そんな想いをめぐらせる姉をかたわらに、弟は報告のつづきを。申し込むまえに、ひとこと相談して欲しかったとのクレームも、自主性のうらがえしだと、彼女はごくりとのみこんで。姉は要綱の記された冊子を手にとると、弟のことばに耳をむけた。

「やることは肉体労働だけど。重いものや、力仕事は大人の役目で、そのお手伝いをするんだ」

 ふむふむ。

「長時間のシフトでも、ちゃんとお昼にはお弁当がついてて、食後のやすみ時間だってあるし。

 なんと、3時にはおやつまで出るんだぞ」

 へぇ、そいつはすごいわね。姉はちょっとだけ安心して、冊子に視線をおとすと。

 はっ、とするとはこのことか。

 募集のための、アピール・ポイントなのだろう。太字で描かれたフレーズに、これまでの自分の逡巡が、杞憂にすぎないことを知り、彼女は苦笑いするほかなかった。

「ねぇ、この現場では、どんな工事をしてるの?」

 気をとりなおして、はなしをつづけよう。これなら安心して、弟を送り出してやれそうだから。

 帰ってきたら、ふたりでピクニックも悪くないわね。おむすびとサンドウィッチ、両方ともつくっちゃおうかな。

 太陽のもと、ふたりでならんで歩けることと。

 今回の懊悩のはじまりが。みずからが犯したとんちんかんな、聞きまちがいであったことに感謝して。


 はじめのはじめ。

 どんなバイトかと、姉からの問いに。弟のこたえは、そこにあった。

 こう、描かれていたんだ。


 休憩つき


「ダムとか、堤防をつくってるんだってさ」


 そして、それは治水。


 吸血鬼でもなければ、血吸いですらない。

 4コマ漫画のネームと、未使用ネタのセルフ・リメイク。

 2本ぶんを、ニコイチ。

 おつきあい、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 途中、なんで夜の眷属と思ったよ。 思いましたとも。 そして、確かにその種族も頭に浮かびましたとも。 きっとこのあたりが落ちになるのだろうな、とも。 しかし、そういうことですか。 もっと思考…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ