表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/3

1回目 特殊能力『ニート』、チートじゃないよ

「なんだこれ……」

 目の前に表示させたステータス画面。

 そこには自分の能力値やら技能ならが記されている。

 そんなゲームのようなものに記されてるもの。

 備わった特殊能力。

 それを見て、男は愕然とした。

「なんだよ、ニートって」



 日本人、男、30代。

 学校犯罪のイジメの被害者であり、底辺高校・Fラン大学卒業。

 そしてブラック企業就職後、数年で限界を迎えて退社。

 以降、ニートという悲惨な経歴の持ち主である。

 そんな人生に絶望し、どうにかならんものかと思っていた。



 そんな矢先の、異世界転移である。

 投稿小説サイトなどで見ていた設定そのまんまだった。

 それの大量召喚によって呼び出されたようだった。

 現地人による説明でそういった事を聞いて。

 それで自分の能力を確認したのだが。

 目に飛び込んできたのが、件の言葉である。



「ニートって……。

 なにそれ……、チートじゃないのかよ」

 語感は似ているが、中身に決定的な違いのある言葉。

 意味する所は、おそらく正反対。

 そんなものが男のステータス・状態表示画面に記されている。

「ニートって……」

 うわごとのように繰り返す男。

 その声からは力がどんどんと抜けていった。



 それでも呼び出された世界では活動や活躍が求められた。

 男も多少は頑張ってはみたのだが。

 戦闘にも生産にも支援にも寄与しない能力である。

 活躍などできるわけもない。

 そこまでいかなくても、活動らしき活動もままならない。



 何せ、能力が最大限に発揮出来るのが、ニートである場合なのだ。

 特殊能力『ニート』は、本来の意味通り、部屋に引きこもってる場合に能力が発揮される。

 しかし、召喚者達の意向は野外における活動。

 ニートなどお呼びではない。



 それでも最初は、何か特別な力があるのでは、と思われた。

 その為、ニート能力が発揮出来るように取りはからわれた。

 狭いながらも一室が与えられ、食事などの世話もされた。

 この世界においては、そこそこ良い待遇だった。



 その状態でなら、確かにそれなりの効果はあった。

 経験値も手に入り、能力の成長もあった。

 だが、成長すればするほど、問題点もはっきりしてきた。

 ニートが成長したら、より激しく部屋に引きこもるようになる。



 しかも、その状態で何ができるのかというと。

 ほとんど何も出来やしない。

 外に出ないのだから、魔王討伐などが出来るわけもない。

 知的労働にて活路を見いだそうとしても、それも難しい。

 そちらは既に、学者や賢者といった特殊能力持ちが既に活躍している。



 ならば室内でも出来る作業をしようにもだ。

 事務作業や制作なども、相応の特殊能力を持つ者がいる。

 ニートの出る幕はない。



 そんな人間がいつまでも大事にされるわけもない。

 かくてニート男は叩き出される。

「申し訳ないが、これ以上あなたを保護出来ません」

 申し訳なさそうに担当者にそう言われた。

 本心から済まなそうにされてるのがせめてもの救いだ。

 当面の生活費にと、相応の金も渡された。



「お世話になりました……」

 ニート男もそう言うしかなかった。

 もとより、彼等にもんくを言えるわけもない。

 身の程という言葉をニート男はちゃんと知っている。



 そうして、教えてもらった場末の宿屋に出向き。

 その一室を借りた。

 宿泊代も食費も安い所だ。

 もらった金があればそれなりの期間は引きこもれる。

 だが、そこが自分の終の棲家だとニート男は覚悟もした。

「ま、しょうがないか……」

 そう言ってため息を吐く。

 諦観ではあるが、さっぱりした顔で。



 そうして、カプセルホテルのような小さな部屋での生活が始まった。

 ニートならば十分な広さである。

 そこでニート男は、やがてくる最後の瞬間を待つ事にした。

 幸か不幸か、経験値はそんな状態でも増えていった。

 むしろ、そんな状態だからこそ増えていった。



 特殊能力『ニート』

 それは、働かない、部屋を出ない、何もしない。

 そんな状態でのみ経験値が入る。

 おかげでニート男はこの世界に来てから結構な経験値を手に入れている。

 戦闘や作業に従事してる者達ほどではないが。

 何もしないで稼げるというのはありがたいものだった。

「なんの役にも立たないけどなあ……」

 それだけが泣き所である。



「いったい何なんだろう……」

 ふと、自分の人生を振り返ってしまう。

 小学校の頃からはじまった学校犯罪。

 イジメと可愛らしく表現されて誤魔化されてる悪事。

 それによって酷い目にあってきた。



 それ以来、人生は下り坂。

 決して這い上がる事は出来なかった。

 その挙げ句、異世界から召喚されて。

 これで活躍出来ると思えば、そんな事もなく。

 結局は駄目に人間のままで終わりそうだった。



 それでも、出来る所まではあがこうと思った。

 最後の最後、本当にどうしようもなくなるまで。

 それがどうにもならなかった人生への。

 身に降りかかってきた様々な悪事への。

 起こった全ての問題や事件への復讐だと信じて。

(これで本当に腐ったら……)

 それこそ完璧な負け犬にしかならないのだから。



 そんな思いが通じたのか。

 無駄に貯まっていく経験値。

 それらを費やして成長する特殊能力『ニート』

 それが開花していった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 活動、および生活支援をしてくれるとありがたい。
 書くのに専念出来るようになる↓
執筆時間を買うために/BOOTHでのダウンロード販売』
https://rnowhj2anwpq4wa.seesaa.net/article/483314244.html
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ