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第8話

 鈍く銀色に光る、密集した槍の数々。

 仄暗い落とし穴の見えるかどうかという深さに、氷漬けのキリルが落ちている。生きているとはいえ、氷内部は酷寒だ。早めに救出しないといけない。

 まず周囲を見るが、岩が追いかけてきたり、矢が飛んできたりといった怪現象は収まっていた。

 なにがきっかけで作動するかわかったものではない。動くときは慎重に、変なところに足をつかないようにしないと。


 改めて周囲を見渡すが、利用できそうなものはない。腕が3倍伸びても届かなそうな穴の中からキリルを救出するのは容易じゃあない。そもそも僕の力であの氷塊を抱えられるのだろうか。

 そこらの木に麻縄を括り付け、一応下りれるようにはしたものの、鋭い矛先に膝がすくむ。触れただけで突き刺さりそうな鋭利さだ。

 脳裏に、こいつを見捨てて行く、という選択肢がよぎる。なるほど、それはとても良い提案かもしれない。けれどもここまでこれたのもキリルあってこそだし、正直この先1人で行ける気がしなくなってきた。

 出発時点で、僕は村の外を舐めていた。噂は噂でしかないと思っていたし、元の世界を基準に考えすぎていたところがある。世界はもっと平和で、大体どこにいっても人里があり、文明は人間の活動を支えるために、自然を侵略しきっていると。

 しかしこちらの世界の自然は厳しく、また文明に見えるものですら、人々に優しいとは限らない。どう考えてもこの旅程には、仲間が必要だ。


 ふと、先ほど封印した靴を思い出す。あの頑丈そうな靴底なら槍の上でもあるけるのではないか? 

 早速履き替えると、青いラインがふっと光る。 

 縄が自重で落ちないか十分に確かめると、恐る恐る落とし穴を下りていく。

 徐々に槍の先が近づいてくる。ちょっとでも手を滑らせればグサリ、だ。若干の腐臭と、強く握った縄が手に食い込む痛みを耐えながら、少しずつ、少しずつ降下する。

 キリルの入った氷の固まりの傍にそそり立つ槍の一本を、試しに靴底でつついてみる。カン、カン、と落とし穴の中に音が響き、体重をかけても落ちていかなそうということを確認する。


 槍の数が多く、かなり頑丈に突き刺さっていることが救いだった。何本かの槍の先を足場とし、そっと体重を乗せてもびくともしない。綱から手を放し、穴の底に自立する。

 キリルのほうを見ると、既に氷は解け始めていた。完全に解けきる前にどうにかしなければ。穴の底に降り立ったものの、これをどう引き上げるべきか。

 氷塊は見た目よりも軽かったが、それにしたって上から縄で吊るして、僕一人で引き上げるには無理がある。


 ――この靴の跳躍力に賭けてみるか。

 凍ったキリルに腕を回し、力いっぱい踏ん張って持ち上げる。

 ……やっぱりクソ重い! 

 殆ど氷は解けているのに。奴の体は鋼でできてるんじゃないだろうか。  

 こっちの世界に来てからかなりの力仕事を経験して、それなりに腕力はついたと思っていたのに、自信なくなるなあ。


 槍の上でバランスを崩さないよう、慎重にしゃがみ込む。これで脱出失敗したら、氷で守られているキリルはともかく、僕は串刺し間違いなしだ。

 目標は地表、ではなく、さらに上の、僅かに穴から覗き見える木の頂点。勿論普段の僕にそんな超人的な技はできないが、今履いているのは魔法の靴だ。

 あとは、僕のマナがきちんと魔法を起動できるか、それにかかっている。真上に跳んで穴に戻ってきてしまっては本末転倒だ。壁を擦らないよう、慎重に角度を見極める。

 

 「助けてもらってばっかじゃ、恰好つかないからな。今度は、僕の番だ!」


 槍に足を突き刺さんばかりに踏み切る。

 一瞬、再び青のラインが光ったように見えた。

 次の瞬間、自分の体は森の中にあった。木々の頂点とは言わずとも、その中腹程度の高度まで跳んでいた。


 「よっしゃァアアアアアアアアアアアア!!!」


 ガサガサガサ、ドン!


 十分に角度がついた跳躍によって森の最中に跳ばされた体は、木々を緩衝材に落ちていき、地面に叩きつけられる。


 「がぁッ! やっぱ痛ェ……! ともかく、助かった!」


 キリルはというと、空中で氷を突き破り、枝を足場につかって飛び乗り、うまく着地に成功していた。


 「助かったぜ、ありがとな! ビビリなテメェのことだから見捨てて逃げ出すかと思ってたぜ」


 「そ、そんなことあるかって! 今まで助けてもらってるし、少しは僕も役に立たないとかなって。ビビってないよ!」


 ニヤニヤしながらこちらを眺めているキリルの背後で、煙が上がる。パチパチという音に振り返ると僕の後ろからも勢いよく火の手が回っている。気づけば周囲を炎で囲まれてしまっている。


 「何はともあれ、ここを切り抜けねェとな。。テメェも多少役に立ってきたことだ。一気に切り抜けるぞ!」

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