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第23話

 幸いなことに火の手は森に広がらず、立ち上った煙もたちまち消えていった。勾配の殆どなくなった森を歩いていくと、今まで歩いていた獣道らしき足場が明らかに人の手によって切り開かれた道に合流する。

 なんども車輪が通ったような跡を辿ってさらに進んでいくと、立派な木製の門が見えてくる。近づくと門から左右に隔壁が広がっている。カミナ村よりも断然立派だ。

 

 「門の上に1人、前に1人か。友好的な人種だといいがなァ」


 作戦会議をするべきだとキリルが言ったので、3人とも木陰に身を潜めている。


 「行くしかないでしょ。まず暴力を突破口の候補として考え始めるのは悪い癖だよキリル」


 「何も言ってねェよ? じゃあとりあえずお前行ってこい。逃げ足だけが取り柄だろ。何かあったら助けてやっから」


 キリルはニヤニヤしながら僕の背中を押し出す。リュカに救いの目線を送るが、微笑んで手を振るばかり。何かあった時犠牲は少ないほうが良いとはいえ、僕が1人で行くしかないのか……。1人でもどうにかなりそうな2人を置いて、門の方に進む。

 

 「こんにちは。カミナ村のツヅクと申します。あっちの方から来た旅の者なんですが、休ませて貰えませんか?」


 門の前にいる男に呼びかける。容姿や背丈はカミナの大人とそう変わらない。彼は金属製の鎧のような装飾が施された麻の服を着ており、大きな笛のような物を持っている。武装と言うには形ばかりの短剣を腰から下げていた。

 僕が恐る恐る近づくと、彼はにこやかに人語を発した。


 「やぁやぁ、旅の方。私はグンセイ都のザンギと申します。こちらの門に来るとは珍しい。ブシン村からのお客様ではないのですか?」


 物腰柔らかな対応に一安心。僕は後ろに待機している2人にこちらに来るよう手を振りながら答えた。


 「ブシン村? はわかりませんが、カミナはあの山の上の方です」


 「なるほど、ブシンよりもさらに西からですね。そんなところに人里があるとは。どうぞ、後ろのお二方も一緒に中へお入りください。取り急ぎ宿まで案内しましょう」


 門の内側はどこまでも整然と並んだ人工的な灰色の建築物で埋め尽くされていた。僕達は、人の手でこれほど壮観な景色を造れるものなのか、と圧倒されていた。どの建物も3階建て以上あり、道に沿って綺麗な直線を描いて並んでいた。

 そして人が多い。目に見える範囲だけで、リュカがいた村の人口と同じくらいの人数がせわしなく歩き回っている。多くは1階部分が露店になっている建物の周りでたむろしていた。

 賑やかさに対して道はいくらか狭かった。道中、走ってきた子供とキリルがぶつかる。キリルに睨まれたかわいそうな子供は、一目散に去って行った。僕とリュカが「子供には優しく」とキリルをなじっているうちに、男は歩みを止めた。


 「ここが商人や旅人が使っている宿になります。陽が沈むころに使いの者が来ますので、食事が必要であればそれまでに戻ってきてください」


 「あ、ありがとうございました! 村は見て回ってもよいでしょうか?」


 「ご自由に」と返事をして、彼は門の方に戻って行った。



※     ※     ※



 宿と呼ばれたその住居は堅い灰色の壁でできた5階建ての城のようだった。適当な1室を占拠し、扉に「使用中」の掛札を垂らす。


 「広いな。相当裕福な村だ」


 「村だなんて失礼だぞツヅク、都ってあいつは言ってただろ。俺は決めたね。ここで生きていくわ。お前らとは短い間だったが世話になった。じゃあな」


 永住宣言をしたキリルがこの世界で初めて見るベッドに飛び込む。


 「判断が早いね、キリル君。少し外を見て回らないかい? それから決めても遅くないだろう?」


 「うるせェ。俺は疲れた。寝る」


 リュカの誘いを断って背負い袋とコートを乱暴に投げ捨てようとするキリルだったが、突然表情が硬くなり、背負袋の中をまさぐる。


 「無ェ……。俺の本が無ェ!!!」


 見ると、キリルの背負い袋の中身はすっからかんに無くなっていた。


 「なんだ、お前も荷物落としたんじゃないか。僕にとやかく言ってたのはなんだったんだ?」


 「身軽になってよかったね。これで旅を続けても楽ちんだよ」


 「いや、確かに今朝はあったんだ。ってことは歩いてる最中あのノッポに……? 違う、俺は奴の後ろを歩いていた。なら道中落としたか? 袋に穴は開いてない。なぜだ……?」


 こちらの話しを全く聞かずにブツブツ言っていたキリルはやおら立ち上がり、猛ダッシュで部屋を飛び出していった。


 「どうしちまったんだあいつ」


 「暴走してない? 止めに行った方が良い感じするけど」


 リュカの提案に頷き、追いかける。キリルは先程の門番の男のところに向かったらしい。

 門から戻ってきたキリルとすれ違うが、修羅の如き表情で走り去る彼は叫んでも止まる様子がない。慌てて追いかけていくと反対側の門から出て森に入り、なだらかな丘を登ったそこにぽつりと立った小屋にキリルは飛び込んでいった。

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