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第21話

 彼は植物をかき分けて奥に行き、向こうの壁のドアを開けてどこかに行ってしまった。やはり彼には敵意がなさそう……に思える。けれども、彼以外の気配がこの地下にはない。他に人は住んでいないのだろうか。それに、美しい場所であるには違いないこの場所も、人が住むに適しているとは到底思えない。多少外敵から身を守るためのシェルター的な役割は果たしているが、大雨でも降ったら池になってしまうだろう。天井のガラスも全てきちんと張られているわけでもない。

 

 「ついてきてしまったけど大丈夫だろうか。敵意が無いとは限らないよなぁ」


 独り言として呟いたが、二人には聞こえていたみたいだ。


 「いざとなったら戦うまでだ。お前は大人しくいつでも逃げられるよう気を張ってろ」


 「最初から疑ってかかるのはよくないよ~。折角親切にしてくれそうな人なのに」


 「あれは人なのか? まあ角生えてる女よりはよっぽど人っぽいが」

 

 「なんども氷漬けになってるのにピンピンしてるような男に言われたくないね」


 お互い離れたところにはいるが、会話の声は至って小さかった。僕たちの言語が彼に理解できているものとは思えないけれども、自然とみんな大きな声を出さなかった。

 

 程なくして彼は戻ってきた。背丈が大きいのでよっぽど奥の方に行かない限り、その体を植物では覆えない。ドアが開きガサガサと彼が戻ってくる動きにキリルは振り向き、反射的にICE9に手を沿える。

 彼は無言のまま僕のほうに歩み寄ってきた。彼は手のひらの上一杯に桜色の軟膏のようなものを持っている。僕の傷口を確認するや否や、それを傷口に塗りたくり始めた。傷口が何かに浸食されているような激痛が走る。あまりの苦痛に声も出なかったが、それが功を奏したのだろう。彼の後ろに立ち、今にも斬りかかりそうなキリルはあと一歩のところで刃を鞘に納めたままで済んだ。

 軟膏は貫通した傷口を埋め尽くすほどたっぷりと押し入れられている。彼の手が離れると痛みは少し収まったが、依然として傷口をかき混ぜられるような、動的な痛みが継続していた。桜色の軟膏はところどころ赤い筋が走っていて、心なしか水のように動いている気がした。

 彼が立ち上がり、再度まじまじと立っている2人を見つめた。キリルは警戒しつつもされるがまま、上から下まで、前も後ろも観察されていた。リュカの番になった時、彼女が話しかけた。


 「あなたは、ニンゲン、ですか?」


 彼は観察を続けながらも、答えた。

 

 「ちがう。でも、あまり、ちがわない」

 

 「どこから、きたの?」


 「あっち。ここより、ずっと、あっち」


 彼が指さす方向は、僕たちが進む方向を向いてちょうど左側だ。


 「ここに、住んでるの、ですか?」


 割と普通にコミュニケーションができるとわかり、僕も会話に混ざる。


 「ちがう。ここは、ハッパの、場所。チョットだけ、借りている」


 「……旅人ってことか?」


 キリルも口を開く。


 「たび、ちがう。シゴト。キミタチ、カロッカプロア。呪いを、知らないか」


 「さっきからよくわかんねえな。見たところ今日の狩りは成果がなさそうだったが、一泊の恩だ。こっちの持ってる食料を少し分けてやってもいい」


 キリルの提案を飲み込むのに時間がかかったが、彼は必要ないとのことだった。日が暮れ、夜の帳が降りてくるとこの地下施設の至る所が発光し始めた。とりわけリュカは驚いていたが、僕とキリルの2人は村の重要施設でこういった光景を見たことがあったのでそこまでそこまで動揺することはなかった。

 3人で食事の支度をしている最中、リュカは絶えず彼と話そうと努力していたが、きちんと会話が成り立っているとは言えないやり取りが続いていた。やがて会話がひと段落すると、彼は先程とは反対側の壁にむかって草木をかき分けて歩いて行った。様子を見ようと立ち上がると、そちらの壁側にはいくつもの大きな筐体が置いてあった。


 「あ! 足大丈夫になったの!?」


 リュカが叫ぶ。足元を見ると、確かに僕は両足で立ち上がっていた。少し前まで痛みで疼いていた足の怪我は薄赤い肌に溶けて消えていた。そこだけ色は違えど、触ってみると確かな肌の弾力と筋の筋、奥には硬い骨の感触が伝わってきた。


 「治ってる!?」


 「マジかお前。あいつも何か魔導機みてぇなの持ってるんじゃねえか?」


 「もしかして、あれもそうじゃない?」


 彼が弄っているその箱からは一定間隔で低い音が響いていた。


 「1,2,3……。あれ全部ってことか。でかくて重そうだな。かっぱらってくのは難しいか」


 「すぐ物騒なこと考える。ところで魔導機ってなんだい?」

 

 「リュカは知らないのか。キリルの刀みたいな、魔法を使うための道具だよ」


 「へぇ~。なんかすごいやつだよね」


 「あの刀にそんな感想しか持ってないんだ……。ほら、氷を操る魔法とか、凄くない??」


 「そこまで興味ないなぁ。男の子はそういうの好きってことなんじゃないの」


 いつの間にか機械弄りを終えて帰ってきた彼は、道中適当に草をちぎって持ってきた。僕たちの傍に座ると、それらをムシャムシャと頬張り始める。僕たちは、先日の村で貰っておいた米と根菜を煮て取り分けた。食事中、彼はしゃべり掛けても何も答えなかった。全ての葉を食べ終えると彼はその場に横になり、すぐに眠りについた。

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