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第12話

 コケッコッコー!

 納屋が鶏小屋の真隣にあるせいで、朝の報せが耳をつんざく。この大音響の密室で、キリルは我関せずと言わんばかりに眠り続けている。

 体中がむしろに刺されて痛痒い。背中をかきながら納屋の扉を開けると、どんよりと灰色の雲に覆われた空に田園風景は色彩を奪われており、湿った空気が流れ込んでくる。

  

 「おはよー! ハヤト!」


 「おはよ! 朝から元気だね、アカシくん」


 彼は鶏小屋の餌やりと掃除に来ていたようだ。僕の姿を見るや否や、ブンブンと手を振ってきた。だいぶなつかれた感があるなあ。嬉しいけど、計画が上手く行こうが行くまいが、今日でこの村とはおさらばだろう。


 「朝ごはんそろそろできるって! おっきいお兄ちゃん起きてないなら起こしてきてだって!」


 だれが小さいお兄ちゃんだ。


 いつもの体操を終えると、キリルを起こしに納屋へ戻る。


 「おい、起きろ。良いこと考えたんだ。上手くいけばいろいろ手に入るかもしれない」


 「あ? ああ……。なんだ? 武力で脅して奪って逃げるのか?」


 「そんな物騒なことするわけないだろ。もっと穏便に食料が手に入るかもしれない。そうすればここを出た後の旅がもっと楽になるはずだ」


 「そりゃあ願ったり叶ったりだ。だが俺はこの村でずっと生きていくってのも良いと思ってるんだがな。寂れてるが呑気にゆっくりできそうだ」


 「ふーん、そりゃあ良いご身分だこって。なんでもいいけど、少し協力してくれ。俺についてきてればいいから」


 「ま、お手並み拝見だな」


 キリルが起き上がると、ちょうどアカシの母親が様子を見に来た。ついていくと、僕たち以外の食事は既に済んでいた。

 梅干しと粟粥を即座にかっこむと、村長の部屋を訪ねた。


 「おはようございます! お話があって参りました!」


 「なんじゃなんじゃ、騒々しいのぉ」


 「我々に鬼退治、任せていただけないでしょうか!?」


 キリルは少し驚いた表情をしたものの、すぐに不敵な笑みを浮かべた。どうやら意思は伝わっているようだ。


 「鬼退治……。正気か?」


 村長はというと、あまり気乗りしないような面持ちだった。


 「勿論! 僕たち、実は結構強いんですよ」


 「そうだなァ。一昨日も一匹、仕留めたばっかだしなァ」


 「そうは言っても、あやつはそんじょそこらの魔物とは訳が違うぞ。大体、村のものは誰も協力せんじゃろうて」


 「助けなんて結構です。僕たちだけで十分!」


 「お前たちをみすみす見殺しにするなんぞできんな……。それに、今のところ西に行かない限り被害は出ない。触れぬ神に祟りなしじゃ。わざわざおぬし等に危険な目に会ってほしくないのじゃ」


 「そうは言っても村長。西側の畑が開拓できれば、村はもっと大きくなるのではないですか? 僕たちは別に慈善で化け物の巣に入ろうというのではありません。腹を割って話せば、リスクに見合った報酬目当てなのです。かわりに、鬼の処分までこちらで引き受けましょう」


 「報酬?」


 「あの鬼を村から追い出すことができれば、旅に必要な食料を頂ければと思います。準備はできておりますので、今からでも報酬の用意をしていただければ」


 「成功するとは思えんがな。まあこちらも本音を言えばたかが旅人。勝手に死のうと知ったことではない、とも言えるのじゃがな。そこまで言うのであれば任せてみよう。具体的には報酬は米で支払えばええかの?」


 「ありがたいです。では行ってきます」


 上機嫌で家を出ると、キリルと共に昨日来た道を引き返す。つばめの飛行する高度が下がりがちだ。日中まっただかにもかかわらず、辺りは益々暗くなっていく。予想よりも早い雨の予感。はやくたどり着かないとずぶぬれになってしまう。


 「あそこまで大見得切るとは。見直したぜ、ハヤト。お前もやるときはやる奴なんだなァ」


 「無駄口叩くな。雨が降るまで時間がない。走るぞ」


 「でもどうすんだ? あいつをどうにかできるとは到底思えんが」


 「そんなことない。キリルは後ろで見てればいい」


 「男2人を担いで山を下った女相手によくそこまで強気になれるな」


 「戦うわけじゃないからな? 勘違いしてるみたいだけど」


 「話し合って解決か。感心した俺がバカだった。お子ちゃまなのは見た目だけじゃないってか」


 「うるさいなあ。黙って走れよ」


 パラパラと地面が濡れ模様に染まってゆく。ミナミの家が見えた。ちょうど家を出ようと戸口から出てくるミナミが見えた。


 「ちょっと待ってくれー!」


 大声で叫ぶと、ミナミの体がびくっと揺れる。慌てて振り向くミナミがこちらに気が付くと、僕は走っていた足を緩める。

 

 「丁度良かった。ミナミに用があったんだ」


 「村に入ったのかい?」


 「ああ。いろいろ話も聞いた」


 「そうか、そうか! じゃあ、もう語ることは無いね!」


 ミナミのやさしそうな表情が豹変する。肉食獣を思わせるような鋭い眼光。獲物をいたぶる直前の愉悦に口角が上がる。頭の角はどんどん伸びていき、1本、2本と枝分かれしていく。


 「ま、待ってくれ! そういうことしに来たんじゃ……!」

 

 「こりゃあ、村の人間が正しそうだなァ。お前の話し合いとやらは取りやめだ。逃げる準備でもしてろ。俺も後で追いつく」


 バラバラバラと雨が降りしきる。

 一瞬にらみ合ったキリルとミナミは、僕が次の声を掛ける前に攻撃を始めていた。

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