帰り道の二人の会話
「今帰りか?」
「うん、そうだよ」
響也に問われ、愛菜は答えた。
「空、見てたのかまた」
「うん……」
見られてたのかと愛菜は苦笑した。
そんな自分を心配そうに見てる響也に愛菜は無理やり笑って言った。
「今日ね園児の子が私の膝の上でね寝ちゃって。もうその寝顔が可愛くてー」
「そりゃ堪らんなー」
すぐに話に乗ってくれる響也。
幼なじみだけあって響也には何でも話せる愛菜だったが泣き言だけは、弱気なところは見せたくなかった。
音有響也は愛菜にとって幼なじみであり、家が近いこともあって男のきょうだいが居なかった妹たちにとってお兄ちゃん的な立場でも居てくれた。
小学校も中学校も高校も愛菜と一緒だった。さすがに大学は別だったが、こうして職場と職場が近くなったこともあり帰り道が一緒になることも多かった。
「それで部長がさ冗談キツくて」
「うわ、嫌だねそれ」
愛菜の相槌に響也が「ぴえん」と泣き真似をする。笑い声をあげる愛菜。
バス停でバスを待ちながらでも二人の会話は止まらなかった。
「愛菜、この後飲まないか?」
ジョッキを傾ける仕草をして、響也が飲みに誘ってくれたが、愛菜は首を振った。
「今日夕飯当番なの。ごめん」
「仕方ないなー。俺が振る舞ってやろっか。男料理もたまにはどうだ!」
「また今度ね」
「はいはい」と受け流しながら愛菜は夕食のメニューを思い浮かべる。
携帯を取り出してメッセージを確認し出した愛菜を響也が見つめる。
その視線は何気なさの中に熱いものがあった。
バスの席に当然のように二人は並んで座った。窓側に愛菜。通路側に響也という並びもいつものことだった。
街明かりが綺麗だな、と愛菜はぼんやりと思った。ふと愛菜は隣を見た。
響也が今度は携帯を見て、何やら考えている。
「響也」
「ん?」
「ありがとうね」
「何だよ急に」
怪訝そうに自分を見下ろした響也に愛菜は笑って言った。
「何かね、言いたいことは胸にしまっておかないで常に言った方がいいんだって思ったの」
「良いことだなそれ」
二人の間に穏やかな沈黙が降りたのだった。
バスは様々な人と二人を乗せて走っていった。
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