特別
沖 虹花18歳 の場合。
「はーい、撮りますよー!」
スタッフの掛け声に合わせてパシャっとシャッター音が鳴り響いた。
私はその瞬間、両手をグーの形にして顎下へ
そう、俗に言うぶりっ子ポーズ。
普段ならこんなポーズいやでもしないが、
今日は特別。
どんな時でも可愛くいたい。
可愛く写りたい。
何よりも好きな人がこんな近くにいるのだ。
せめて好きな人の前だけでは可愛くありたい。
そう、ここは地下。
地下の現場。
地下アイドル、そう言えば多くの人は女性アイドルグループを思い浮かべるだろう。
しかし、最近では男性の地下アイドルも
増えてきており、メンズ地下アイドル、略してメン地下などと呼ばれている。
私はその、【メン地下】のオタクだ。
私の好きなグループは今年デビューしたての、
乂 de King(すぐ で きんぐ)という5人組。
その中で、一際輝く存在…
それが、ルキ。
私の大好きなルキ。
ルキ「虹花、今日も来てくれてありがとう」
ルキがそっと私の両手を握りしめた。
きゅん、
触れられた指先がじんっ、とする。
熱い、
じっと、見つめられると、胸が高鳴る、
その顔、ずるい…
虹花「…今日は、10枚しか撮れなくてごめん、」
私は謝った。
今月お金がピンチなのだ。
現場の数も多い、
全通するにはここで何枚もチェキを撮るわけには、
いかない。
ルキ「謝らないで?次はなんのポーズにする?」
虹花「あっ、えっと………」
どうしよう、もうポーズが思いつかない!
ねこのポーズ、うさぎのポーズ、背中合わせ、ピース…などなどありきたりなポーズは全てすませてしまった。
地下アイドルには、チェキというものが存在する。
テレビに出ているアイドルなどにはない、
地下特有の魅力。
ライブ終わりに、好きなメンバーと写真を撮ることが出来るのだ。
もちろん有料なのだが…
なかなかポーズが決まらないでいると、
ルキは、虹花を後ろから抱きしめた。
虹花「!?」
うそ!?、
ま、待って…、
ぎゅって、抱きしめられてる!?
ぱくぱくと、口を金魚のようにしていると、
パシャっと、撮られた。
ルキ「ねえ、すごい間抜けな顔してない?笑」
やだ、ほんとだ…!
ルキから渡されたチェキに映っている私は
これでもかというほどのアホ面だった。
虹花「だ、だって…ハグなんて……」
ルキ「虹花、いつも来てくれるじゃん。特別」
皆には内緒ね、と口元に人差し指をあてて微笑む彼に虹花は、内心嬉しくて嬉しくて誰かに自慢したくて仕方がなかった。
私は、ルキの特別なんだ…!
チェキ券あと、2枚だけ、買い足そう…!
私は物販の列へ急いだ。