きっかけ。
古山桜々乃21歳の場合。
今日も残業は終わらない。
カタカタとパソコンを入力し続けて早、2時間半…
「古山さん、少し休憩しませんか?」
隣で業務をしていた後輩の杉澤が私に話しかけてきた。
疲れてきた頃だし、少しくらい休憩してもいいか。
寧ろ休憩しなければ、頭がおかしくなる。
古山「そうだね、そうしようか」
私たちは席を立ち、オフィス内のカフェへ向かった。
杉澤「ほんと、休憩がなきゃやってらんないですよね〜。」
アイスティーのストローをクルクルと回しながら彼女は文句を垂れる。
私は苦笑し、少し、間が空くと彼女が話題を切り出した。
杉澤「あっ、そうだ!古山さんってアニメ好きでしたよね!今期のハイスペみました!?」
古山「見た見た!昨日のスザーク回まじでやばかった…もう、かっこよすぎて泣くかと思ったよね…いや、ほんとに…」
杉澤「やっぱりスザーク推しか!いや、古山さんってスザーク好きそうな顔してますよね!ふふっ、これまでの推しの系統見てきたら分かります。」
古山「まじか!なんでバレるんだ毎回!」
ああ、好きなものの話が出来るって素晴らしいな。
疲れてたけど話してたら楽しい気分になってきた。
杉澤「…それで、なんですけど、古山さんて2.5次元とか…興味無いですよね?」
古山「2.5?あぁ、実写ね〜…実写はあんまりかな…やっぱ、2次元は2次元で楽しみたいし、」
杉澤 「実はハイスペが舞台化するんです…!それでチケットが余ってまして…良かったら一緒に、と思いまして…いや、ほんと、無理にとは言いません!でも意外と舞台もいけますよ!なんと言っても俳優さんがかっこいいんですから!」
身を乗り出して力説する後輩の杉澤。
そうだった、この子は…少し強引なんだった。
古山「ウーン、私、厳しいよ?それでもいいなら…」
杉澤「やったー!!では、これ、チケットです!公演日は、明後日なんで!では!」
えっ……
置いていかれた……。
ふぅ、今日も仕事疲れたな。
お疲れ、私。
疲れた身体を伸ばし、暗い道のりをてくてくと歩いていく。
そう言えば…今日言ってた舞台…
スザーク役はどんな人なんだろうか…まぁ、気になるし、調べるだけ調べておこうか。
【鈴木 純輝】
へぇー、25歳か…なかなか整った顔をしている…
さすがに芸能人だもんな。
顔は良いか…でも、この人がスザークを演じるのか…
なんか、正直、似ても似つかない気がする…
本当に私、楽しめるのかな
不安になってきた。
ま、別物だと思えばいいか。
私の中のスザークは、スザークなんだし、
あんまり、深く考えずに行こうか。
〜そして当日〜
杉澤「古山さん!いよいよですね!なんだか緊張してきました…」
た、確かに…こういう劇場に入ったのは、生まれて初めてというか…
人も思ったよりたくさんいるし、少し緊張してきたかも
あ、あの子もスザーク好きなんだ…
同担拒否ってわけじゃないけど、なんかちょっとやだな…
ギラギラとした缶バッチがたくさん鞄についていて、
明らかにスザークのオタクって感じだ。
杉澤「古山さんってちょっと独占欲強いですよね…!」
古山「は?」
杉澤「だって顔しかめてましたもんっ!それに普段からお話聞いてて同担拒否っぽいなーって思ってたんです。」
いやいや、まさか。
古山「そんなわけ…私が嫌なのは厄介な同担であって、
別に被りが嫌なわけじゃ…」
あっ、あの子もスザークのグッズ持ってる…
杉澤「あ!ほらまた、その顔!」
古山「ええ!顔に出てるの!?やだ、私、別にスザークが人気なのは嬉しいんだよ!?でも、、ああ!もう認めるよ!!私同担拒否かもね!」
躍起になって声を張り上げた。
杉澤「あはは!やっと認めた!でも、それは、悪いことじゃないと思いますよ。好きなものには貪欲でありたいですもんね。それほど好きって事ですよ!素敵じゃないですか…!あ!そろそろ始まるみたいですよ」
―思っていたよりも舞台というものは、素晴らしかった
俳優さん達がそのキャラクターに情熱をかけて演じている。よく知りもしないで敬遠していたの恥ずかしいな。
観に来て良かったかも。
あっ、スザーク出てきた
うそ、かっこいい…
本物だ……
存在、している…
2次元の彼が、
今までずっと画面の中だった、スザークが
現実世界にいる…、、
凄い…
声も違和感がない、
髪色だって派手なはずなのに、
ちゃんと似合っていて、
表情や指先のひとつひとつが、スザークそのもののようだ、ここまで、完璧に演じてくれるなんて…
きっと並大抵の努力じゃないんだろうな
原作のファンを傷付けないように、キャラクターへのリスペクト、作品への想いが………
全部全部、伝わってくる。
きっかけは、こんなとこ。
推しキャラを演じてくれたこと。
推しと彼を重ねて見ているわけじゃないけれど、
こんなにも情熱的にスザークを演じてくれた
彼の内面に私はこの時、とても惹かれたのだった。