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安くない恩返し

ブックマークありがとうございます。

「はぁ…目立つな」


 注文したメニューを待っている間、ソリトは店内に視線を泳がせてみた。

 すると、向かい側に座っているルティアに視線を向ける連中が多いのが見渡せる。

 酒場という男連中がぞろぞろ集まっているような所に一人女子がいるのだから、集束しても何ら不思議はない。

 自身に関係はないが、ルティアを見る下品で下劣な目がソリトには不愉快だった。


「お待たせしました」


 暫くして、注文したメニューを店員が運んできた。ソリトは店員に銅貨十二枚を払ってルティアにパンとスープと白身魚のディナーセットを渡す。


「恵みに感謝と祈りを」


 ルティアは祈り手を作り詠ってからフォークとナイフで白身魚を食べる。

 貴族なのか、聖女として教育を受けたのかはソリトには分からないが、食事の所作が綺麗だ。

 ソリトもディナーセットのパンに手を伸ばしてかぶりつく。

 やはり味がしなかった。

 パサパサした食感だけがソリトの舌に伝わる。正直言って不味いの一言だ。


「安くても美味しいですね!」


 何も知らないルティアが笑顔でソリトに言った。

 ただそれにソリトは「そうか」と素っ気なく返しながら、食事を続けた。



「それで話ですが」

「ああ」


 食事を終えるとルティアが話を再開する。ソリトも無かったことにするつもりはないが、口にした以上は聞こうと目をルティアに合わせる。


「先ずは、()()()助けていただきありがとうございます」

「……三回?覚えがないが?」

「いえ、ちゃんと三回です。一回目は街の入口付近で男の方達から助けてもらいました」

「覚えがないな」

「ええ……」


 どう反応すれば良いのか分からないと言ったような表情にルティアの顔が変わる。

 プルトの街の入口付近でやったことと言えば、フードを深く被っていた一人の女性を取り囲んで下卑た笑みを浮かべていた男共にイラついて一発ずつのめした事しか思い浮かばない。


(あれ聖女だったのか)


 顔が分からなかったこともあるが、街の住人のような服装に質素な外套とかなり違っていた事あって一致しなかった。

 理由があるのだろうが、それに興味のないソリトは話を先を進める。


「まあ良い。二回目は?」

「ええ〜…二回目はさっきの魔物達からです」

「三回目は?」

「そこ無視ですか?」

「さっさと話をして欲しいんだが」

「…むぃ…分かりました」


 何故か不服な表情を浮かべて渋々返事するルティア。


「……三回目は、今です」

「……はぁ、勘違いするな。これは俺に矛先がけられるのが面倒だからだ」


 と言ってもソリトは特に何もしていない。

 ただ、周囲に軽く殺気を放って牽制しているだけ。

 今、酒場にいる女はルティアただ一人。酒場という場所ゆえに男が酔って絡んでくる可能性が非常に高い。そうでなくとも、軽薄な男がいても可笑しくない。

 要はソリトは巻き込まれたくないのだ。


 ゆえに、()()()()()()に軽く殺気を出しているのだ。

 だが、ソリトはルティアに対して殺気を向けてはいない。

 萎縮されて話が進まなくなる結果を望んでいないからだ。


「良く気が付いたな」

「伊達に各地を回ってはいませんので」


 確かに、各地を回っていれば危険が及ぶような事の一つや二つ巻き込まれたりしていても可笑しくはないだろう。

 それにしては下衆な男共に襲われそうになっていた、とは言わないことにした。

 同時にあることに気付いた。


「護衛とかいないのか?」

「ええ、いませんよ」

「そうか。あぁ〜やっと本題だぁ」

「理由聞かないんですか!?」


 ぐぐっと体を伸ばして気だるげな声を出すソリトにルティアがキレあるツッコミをする。


「聞いて、俺に何かあるか?」

「…ないですね」


 今度は諦めたような表情でしっかり納得した声で肯定した。

 そんな豊かな表情を持つルティアはもう一度お礼を言ってから本題に入った。

 だが、何を言うかソリトは殆ど予想できていた。


「助けていただいた、いただいているので恩返しをさせてください」


 やはりと、予想を裏切らない解答が返ってきた。

 それに対してソリトは即座に「断る」の一言を告げる。

 そのあとの解答、というよりは反応も予想に近いもので、やっぱりというようにルティアが溜息を吐いた。

 逆に考えればルティアも予想していたことになる。ソリトの態度を見れば予想の付きやすい。

 諦めが悪いようで、分かっていながらルティアは話しを続ける。


「私は貴方に一日に三回も助けられました」


 今思えばそれはそれで凄い事だなとソリトは思いながら聞く。


「最初は身体を、二回目は命を、そして今は周囲の目から。ですから私は全身全霊で貴方に恩を返します」

「いらない」

「そこは否定しないでください」


 どれも偶然に過ぎない事だ。何故ここまでして必死に恩を返そうとするのか、聖女の印象のため、聖女の義務か、自分の矜持(プライド)のためか、それとも返さないと気がすまない質なのか。どちらにしろソリトは信用できなかった。それも数時間いるだけの相手だ。尚更無理である。


 以前のソリトなら多少は信用し、恩返しを受け入れていたかもしれない。そういう人間だったのだから。

 しかし、今は違う。


「俺の望むことを聞くと言ったな。ならお前は身体を望まれたら了承するのか」


 表情を真剣なものに変えると直ぐにルティアははっきりと言った。


「いいえ」


 そう返し、ルティアは続ける。


「私にはやりたい、やるべき事があります。それに、私は聖女です。易々と捧げるなんてしませんし、一人の女性としても捧げるなら想い人だけにと決めてるんです」


 ソリトはフッと微笑して口を開く。


「分かった。お前の恩返しを受け取る」

「〜っ!!本当ですか!?」


 今までの沈んだりしていた表情が嘘のように、ぱぁぁと花咲ような笑顔でルティアは尋ね、ソリトは素っ気ない返事をする。


「ああ」

「私、頑張ります!」


 何故かルティアは嬉しそうに軽く頷いて言った。


 了承していたらそこで話を強制的にでも黙らせて打ち切ろうと思っていたが、真っ直ぐ意志を貫く瞳と覚悟、そして否定的解答に免じてだ。

 信用はできないが受け取るに値するものだと判断するには十分だ。

 それ以外に意味はない。


「これで話は終わりだな」

「はい、それではまた」

「は?宿まで送るに決まってるだろ」


 え、何で?と聞き返しそうな表情でぽかーんとソリトを見る。

 どうやら、本当に分かってないらしいと思ったのでルティアに率直に言った。


「離れた後にどうこうなるとか気分が悪いからだ」

「………ぷふ」


 突然、ルティアが笑った。

 何処に笑う要素があったのかソリトには分からないが、何処かにツボる部分があったらしい。


「素直じゃないですね」

「…………」


 明らかに真に受けていない弛んだ表情で返事をするルティア。どういう解釈に至ったのか分からないが、ここは何も言葉を返さずさっさと送るべきだと考えて席から立ち上がり店の出入口まで歩き出す。


「ちょっと、待ってください!」

「………」


 そして、慌ててルティアも立ち上がり、ソリトの後を付いていき、二人は店を出た。

 道中、ルティアはソリトに話しかけていたが、話しかけられている当人は場所を聞く時以外は無視して宿に送った。

 その後、ソリトは宿には泊まらず街の外で野宿した。


 理由は単純に、余りお金を使いたくなかったから。

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― 新着の感想 ―
[一言] くそ勇者サイドの顛末が要らなくなるくらいにはこっちのコントが面白いです
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