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名も無き天空島 Ⅱ

大変、お待たせしました。

 夜は自分達のいる距離から最も近い島の南端の草原に着地した。

 それから、ルティア達を島へと下すと、夜は黒装束の女性の姿に戻った。


「それじゃ、勇者様を治療する場所に急いで案内するわ」

「夜さん今さらっと重要な事を仰りませんでした?」

「その説明は向かいながら。私の後に付いてきて」


 そう言って、夜は湖の見えた方向へ走り出す。

 ルティアもソリトを背負って、ドーラと共に夜を追って駆け出す。


「それでソリトさんを治療出来るというのは本当なんですね」

「ええ。上空から見えた湖。あの場に治癒出来る場所があるの。それが何かはあたしからは口に出来ない」

「そうですか。ソリトさんの魔力欠乏症はどのくらいで治るかは?」

「それは個人と度合いによるわね。でも数日内には完治するから安心して」

「…そうですか」


 夜の言葉を聞き、ルティアは安心とは逆の暗い表情に変わった。


 ソリトが治ることはとても嬉しい。

 だが、回復に数日掛かる事に不安が募る。

 数日掛かるという事は、ソリトの冤罪を払拭する為の時間が長引きということ。難しくなる可能性もある。

 その間に、【天秤の聖女】が移動していたら更に時間が長引く。

 ソリトを治療している間にルティアが探して見つけたとしても、真偽を確かめる為の本人がいなければ意味がない。


 自分が交渉すれば【天秤の聖女】は〝必ず待ってくれる〟という確信がルティアにはある。

 ただ、彼女にも聖女としての仕事がある。

 その分、待ってくれる期間だって限られてしまう。


「大丈夫ですよ」

「ありがとう、ございます」

「ルティアお姉ちゃん、なにか見えてきたんよ」


 そう言われ、ルティアは前を向く。

 すると、十メートル程先に幾つもの木造レンガの建物を見つけた。


「あれは竜族の住む村の一つよ」

「竜族?」


 聞いた事の無い種族。

 考えられるとすれば、人の姿で夜がクレセント王国で裏の仕事をしている様に、地上で密かに過ごしているか、地上ではなく天空島で過ごしているか。

 この二つだろう。


 考えている内にルティア達は村の前まで到着した。


 止まることなく村の中を進みながら、ルティアは村を観た。

 また、逆に村の竜族という種族の者達もルティアとドーラを観ていた。

 訝しげなく視線ではない。

 理由は分からないが、とても温かい、出迎えてくれている様な視線をルティアは感じた。


 その村の竜族達はドーラと同じ様に、頭にツノが生えており、背中には小さな翼、手の甲には竜鱗があった。

 服越しで手の甲しか見えなかったが、他の部位にも竜鱗があるかもしれない。


「夜さん。竜族は人の姿に変身できる方達の事を言うのですか?」

「半分だけ正解。竜族は人の姿に変身出来る事に加えて理性があるドラゴンを呼ぶの。他のドラゴンは魔物。聖女様達が戦った地竜がそうね。本能のままに生き、魔族に使役されれば従う。でも、竜族の場合は使役なんてされず自由に行動できる」

「では、ドーラちゃんも」

「ええ。あたしが地上にいるのはその為でもあるのよ。生まれ方は変わらない。最初はドラゴンの姿で産まれるけど、自我が芽生えて成竜になると、人型に変身出来る事を本能的に理解してしまう」


 ドーラの人の姿を目にした日。

 本能的に理解しているという様な事をソリトに問われて答えていた。

 だが、ドーラの場合人の姿ではあったが、それは肉体と精神が別れていた。


「あの、ドーラちゃんは最初、肉体と精神が別々の状態で人の姿をとっていたのですが」

「…………ごめん。あたしもそれに関しては分からないわ。でも、今は違うんでしょ」

「ドーラ、今はちゃんとなれるんやよ」

「ならそれで良いじゃない?それよりも急ぎましょ」


 それはルティアも分かっている。

 夜の言う通り、ソリトの状態は急を要する程で、それは話していても何も変わってくれない、目を背けても意味はない、と。


 しかし、不安なのだ。

 あの日から目の前で命が消えてしまうのが堪らなく怖い。

 それは、一緒にいた時間が長ければ長い程、たった一秒後には一瞬で消滅する可能性とその瞬間と日々の時間がとても苦しいものであると教えられたルティアには。


 自分の目に入る、手の届く命は助けると決意していたとしても。

 自らの手で助けたい人達を殺めるしかなかった。でもそれがその人達には助けに救いになることだと知ったからこそ。


 とても辛いのだ。


「……けど、今一番辛いのは、ソリトさんなんだ」


 蒼白な顔色のソリト。

 そんなソリトを背負い、聞こえてくる息絶えそうな弱々しい呼吸音。それが徐々に弱まっている。


 それだけでソリトの状態が刻一刻と悪くなっていることを知らせて来る現実に少し耳を傾けたお陰で、再び現実に目を向ける決意が固まった。

 それでも怖いルティアは、心の中で逃げるな、と自分に言い聞かせる。


「ルティアお姉ちゃん。ドーラがいるんやよ」


 ドーラも主人が心配で堪らない筈。

 なのに、そのドーラがルティアを慰めている。

 それはルティアの心を支えるのに十分だった。


「ありがとうドーラちゃん。ドーラちゃんにも私がいるからね」

「うん!」

「…偉いぞ二人とも」

「え?」

「?」

「さ、もう少しだから頑張って!」

どうも、書きたいのに、プロットはあるのに、筆が乗らない。そして、余裕があったら幕間で何気ない日常を書きたい翔丸です。


休んで、待たせるのも嫌だ、ソリトを苦しめるのも嫌だと少しずつ書いてようやくです。


本当にお待たせしました。




頑張れ三人!

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