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うそ

作者: 柚子

ちょっとスキマ時間が出来たので、喫煙所で休憩していると

「あれ?黒木くん。昼から外やと思ってた」

「なんか新しい子に教えたいからって交代で中になりました」

「そっか、黒木くんにもとうとう後輩がねー」

「馬鹿にしてます?これでも3年目ですよ?」

「お?10年目の私に喧嘩売ってる?」


この人は前の部署で俺の指導係してくれてた真里菜さん。

小さくて、いつも明るくて、俺の憧れというか好きな人。


「袖のボタン、どうしたん?」

「ちょっと取れちゃったんですけど、昔から裁縫は苦手で・・・

 やってくれます?」

「いやー私もアカンねん。てか、3年目にもなると、ちょっと

 余裕出来てくるんやから彼女とか作ったらええのに」

「その彼女が真里菜さんみたいに裁縫出来ひんかもですけどね?」

「うー、耳が痛いですなあ」

「真里菜さんみたいな人が彼女やったら楽しそうやのになー」

「いやいや、意外と小言ばっか言うてまうかもよー?」


でも、俺は知ってる。

つい最近元カレとヨリを戻したこと。

元々内緒で付き合ってたからそれを公表していないこと。

(別に社内恋愛がダメなわけじゃないから、ただ恥ずかしくて

隠してるだけみたいやねんけど)


「最近、また小林先輩と親密ですよね?」

「そう?」

「まぁ、付き合ってるならそんなもんか」

「い、いや?ただの良い同僚や、よ?」


そんな真っ赤な顔で何言うてんねん。

目も泳いでるやんけ。

でも、何かその必死さが一周回って可愛く思えてきて、

思わず吹き出してしまった。


「なに」

「先輩、相変わらず嘘つくの下手くそっすね」

「相変わらずってどういうことよ」

「どういうことも何もそのままですよ」

「私、黒木くんの前で嘘ついたこととかある?」

「ありますよ?プロジェクト上手いこといってないのに、上手く

 いってるって言うて全部自分でこなしたことでしょ?やりたくも

 ない接待でしんどいはずやのに、無理して笑って大丈夫って言う

 とこでしょ?禁煙するって言うたのにこうやって喫煙所に

 来て吸ってるところでしょ?」

「最後のは反省点やけど、他のやつは別に嘘ついてるってわけ

 じゃないやんかー。心配させまいと思ってさー」


分かってるよ。ただの八つ当たりやし。

俺らのこといっぱいいっぱい考えてくれるのも分かってるし。

だって、だって・・・・


「そういう優しいところが俺は大好きですから、ずっと」

「え?」

「気にせんでええとこでめっちゃ気にしてくるところも、

 見てないようで色々見ててくれてちゃんと評価してくれる

 ところも、たまにポカしてちょっとヘコんだり、そういう

 自分の感情しっかり表に出しちゃうところも・・・・まだまだ

 言い足りひんけど、真里菜さんの全部大好きですから。

 せっかく小林先輩と別れたから、ゆっくり策を練って告白しようと

 思ってたのに。思いの外早く戻ってしまうなんてなー」

「えっと、あの・・・・」

「別に奪おうなんて考えてないし、小林先輩のことも大好きなんで

 2人で幸せになってくれて大いに結構ですよ。でも、僕は僕で

 勝手に真里菜さんのことずっと好きでいます。いつか、いつか

 それで俺の良さに気付いて振り向いてくれるように頑張りますんで」

「黒木くんのこと、いいなって言うてる子何人か知ってるのに・・・・

 というか、私、小林と付き合ってるなんて言うてないけど」

「え、この場に及んでまだそんな言い訳します?」


重すぎる。意気地なし。ほんま情けない。

だって、今せっかくの2人きりやねんで?

奪うには絶好のチャンスやし、せっかくちゃんと自分の思い

伝えられたのに。

でも・・・・真里菜さんへの気持ちに嘘もなければ、先輩のことに

関しても何も嘘はついてない。

大好きな2人に幸せになってほしいのは事実やし。


「あ、絶対無意識やと思うから言うときますけど、真里菜さん、嘘

 つく時、鼻のホクロ触りがちなんで、気を付けた方がいいですよ」

「え!?そんなん初めて言われた」

「ほんまですか!?・・・・これからも僕だけしか気付いてないこと

 いっぱい増やしてこ」

「そんな恥ずかしいことサラッと言えるのは若い証拠なのかねー」

「年齢の問題じゃないですよ。想いの問題ですよ」

「ありがとうございます。・・・・あ」

「小林先輩、帰社みたいですね。行きます?」

「せやね。あの人タバコ吸わんからこっち来やんし。あ、でも匂い

 消されへんなあ。なんか持ってる?」

「喫煙所に持ち込んでると思います?てか、別にいいじゃないですか」


真里菜さんじゃないタバコの匂いに戸惑ったらええねん。

俺と2人で居るって気付かせて嫉妬させたったらええねん。

・・・・俺がそんな黒いこと考えてるなんてきっと全く気付いてない。


「吸わへんだけで苦手とか嫌いじゃないんでしょ?じゃあ、別に 

 何も言わないでしょ?それよりも早く行ってあげて下さいよ。

 今日デート行くんでしょ?」

「なっ!」

「あんな隠し切れずウキウキしてる小林先輩見てたら分かりますわ。

 気をつけて楽しんできてくださいね」

「黒木くんはエスパーかね。じゃあ、お疲れ様」

「はい、お疲れ様です」


まあ、俺がこんだけ妬いたり、仮に奪おうとしたとしても、真里菜さんの

あの幸せそうな雰囲気を出せるのはきっと小林先輩だけなんやろなあ。

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