7 連なる想い
6月10日 6時30分 球技大会当日
「とうとうか……」
歩と決別して約一ヶ月。
中間考査を挟んで勝負の日はやって来た。
「ふぅ」
無駄に緊張している。テスト期間は後輩であるにも関わらず彩に勉強を見てもらっていたし、毎日では無いがバッティングセンターにも一緒に通っていた。
(彩の労力に応えないとな)
正直大変だったと思う。それでも弱音一つ吐かずに俺に尽くしてくれたことは、本当に嬉しかったし、尊敬する。
俺は拳を握りしめて、着替えなどの支度を始めた。
「あ、おはよう」
「おはよう」
自室を出たところで妹の千栄と鉢合わせる。
「調子どう?」
「絶好調」
いつも千栄はこんなことを聞いてこないが今日は特別だ。
「へぇ、帰ったら活躍聞かせてね」
「期待しとけ」
千栄や親も俺が球技大会に入れ込んでいることは知っている。
そりゃそうだ。毎日のように遅くまで帰ってこない理由に嘘をつく訳にはいかないので、歩と彩のことは話さずに説明はしてある。
「毎日家で素振りまでしてまもんね。笑っちゃうよ」
「やるならとことんやりたかったからな」
そうこう言っている間に食卓につく。
そこには豚カツが並んでいた。
「……」
「え〜、朝から?」
「慎二がここまで頑張るなんて珍しいじゃない。応援しましょ」
「こういうのは前日の夜にやるもんでしょ」
千栄と母があーだこーだ言っているが俺は嬉しかった。
「まあ食べようぜ。いただきます」
「「いただきます」」
ここまで来るとただのプレッシャーだけどな。
「おはよう、調子はどうかしら?」
「おはよう、問題無いよ。後はやるだけだ」
いつも通り自転車で彩の家まで行き、そこから二人で歩いて登校する。
「そうね。私の肩の荷は降りたわ。楽しんで見物させてもらうから」
「あぁ」
こいつも容赦無くプレッシャーかけてくるなぁ……
歩が体調不良で休みとか期待してしまう。
「私は確認しなかったけれど、トーナメント式だったわよね?どこで当たるの?」
勿論俺は確認している。彩が確認していないというのは単純な話題作りだろう。
「決勝だよ。互いに全勝しないといけない」
「ふふっ、少年マンガみたいね」
本当にそれは思った。
悪魔が何か細工したんじゃないかと思わせるほど。
「まぁ、やることは変わらないよ」
「あら、今日はえらく強気ね」
「彩こそ無駄にプレッシャーかけてきてるじゃないか」
「そうね、私は見るだけだもの」
そう言えばあれ以来悪魔に接触されない。一ヶ月経っているのでそろそろ存在の真偽を疑う。
『失礼だな、ちゃんと見てるよ。何も言わなかったけどボクも結構楽しみにしてるんだよ?』
久し振りの声にギョッとするが彩はそうでもない。
「今まで無駄に口を出さなかったのは良いけど、今のこそ無駄口よ。楽しみにしているなら黙って見ていることね」
発言も強い。俺には到底真似出来ないだろう。
『相変わらずだねぇ。まあ、それもそうだから消えるよ。じゃあ、頑張ってね』
「……」
誰が悪魔に「頑張ってね」なんて言われる人生を想像出来るだろうか。どうせ皮肉だろうけど。
「私達もここまでね。じゃあ」
「あぁ」
気がつけば学校の目の前。
彩が最後に「頑張ってね」と言わなかったのは悪魔と同じことを言うのが嫌だったから、という気がした。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
物語の時間は前回から約一ヶ月経っています。間の話は番外として出せたら出そうかなと思います。
あと今回ちょっと短いですね。次で球技大会は終わらせるつもりでずが、結構苦戦してます。先に異天使が投稿されるかもしれません。
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