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蹂躙愛  作者: LaDole
6/7

6 彼方

「148キロ」


校門を出たところで俺を待っていた彩は開口一番そう言った。

「何が」

「彼の球のトップスピードよ」

「……そんなのどうやって——」

「スマホのストップウォッチ」

彩が俺に向けてスマホを突きつける。

「軽く距離と時間から計測したのよ。まぁ、正確では無いかもしれないけれど」

「……お前それがしたくて選択Ⅱに行ったのかよ」

「そんな訳無いじゃない。むしろ測りたかったら近くへ行くわ」

そりゃそうである。

どうやら俺は歩のせいで疲れているらしい。

「あなた達を見ているところを見られたくなかったのよ。どうせ野次馬は湧くと思っていたし」

「……」

それくらい言って欲しかったのが本音だが、そう言う訳にもいかない。

「じゃあ、バッティングセンターに行くわよ」

「は?」

いきなり何を言い出すんだ。

「球技大会で勝つんでしょう?手伝ってあげるわ」





一時間後

電車を使って一番近くのバッティングセンターへ移動した。

「ところで、門限とかあるのかしら?」

「連絡だけ入れれば20時くらいまでかな」

「あらそう、じゃあ18時半までがいいとこね」

「本当にやるのか?」

一応確認をする。

「当たり前でしょう?あなたを負かす訳にはいかないもの」

「自分の男が負けるところを見たく無いから?」

「それは違うわね」

向き直って人差し指を俺の顔に突きつける。


「絶対勝てないような勝負に勝って私を惚れさせて欲しいのよ」


「……」

そうだった。

彩はそれが目的なんだ。




()()()()()





それはこの関係性ができた時から決まりきっていたことだし、俺も真由のために生きている。

「俺の勝ちたい理由がまた一つ増えたな……」

俺のくだらないプライドなんかより——

「あら、何かしら?」

「"彩"のためだよ」

「当然のことよ。さあ、行きましょう。時間が勿体無いわ」

「あぁ」

今の俺にとって"彩のため"って言葉はイコールで"真由のため"だ。彩のことを想わなければ真由は帰って来ないんだから。

(さっきの台詞を心の底から言わなきゃいけないんだよな)

この物語の終着点が最悪しかなくても俺達はそれを信じないで進み続けることしか出来ない。





18時30分

「お疲れ様、勘は戻ってきたかしら?」

「分かんねぇけど、マシにはなってきた」

あれから俺はひたすら打ち続け、彩は動画でも撮っていたのかスマホを構えてずっと俺を見ていた。

「後で改善点と一緒に動画を送っておくわ。熟読するように」

「あぁ、じゃあ連絡先——」

そう言えばまだ交換していなかったと思いスマホを取り出すと、

「必要無いわ、知ってるもの」

「え?」

「真由が教えてくれていたのよ。『LINEででも話して仲良くなってみれば?』って。その時は誰が恋敵と仲良くするものかと思ったけれど」

真由らしい。

真由はきっと三人で仲良く、とか思ってたんだろうなぁ。

「ボッーっとしてないで帰るわよ」

「あ、あぁ」

置いていかれないように急いでついていく。





19時20分

「ここで降りるのか?」

彩が家に一番近い駅の一駅前で降りようとした。

「ちょっと付き合ってくれる?」

「あぁ、構わないけど」

急いで帰りたい訳でも無いのでついていく。

「何か用事でもあるのか?」

「いえ、散歩みたいなものよ」

それはつまり俺と話がしたかったということだろうか。

外はもう暗く、月や星が出てきている。

「普段も散歩とかするのか?」

「しないわ、特に意味を感じないから」

俺と話すことには意味がある。

そう言いたいんだろう。でも特に話す話題も無い。

「明日もやるんだよな」

「そのつもりだけど、都合が悪いかしら?」

「いいや、俺に予定があることなんて少ないよ」

「そう」

会話が続かない。

何か話さないと、と思うあまり思ったことをそのまま口に出した。


「月がきれいだな」


バッ!と彩が俺の顔に向く。

あっ。

同時にやってしまったと言う気持ちが押し寄せてきた。

「ふっ……」

深い意味が無かったと顔を見て気づいたんだろう。彩は再び前を向いて歩きだした。

「いや、その——」



「私が月ならあなたは星ね」



「え?」

意味が分からなくて聞き返す。

「意味は自分で考えて。それで、答えが分かったら言いに来なさい。いつになってもいいから」

「……正解したら?」

「そうね、何でもしてあげるわ」

何でもする。

創作物ならともかく、それを女が男に言うのはどうなんだ。

「……」

そして俺は何も言えなくなった。





19時50分

特に会話も無く、彩の家に着いてしまった。

「じゃあ、また明日」

「ええ、また明日」

互いに手を振り、行きに彩の家に停めていた自転車で帰る。

(俺にあの言葉の意味が分かる時はくるんだろうか)

少なくとも今の俺には遠い言葉だった。

ここまで読んで下さりありがとうございます。

最初に書いておきますがこれは『異天使』との同時投稿です。両方読んで頂けるとありがたいです。

それより『蹂躙愛』は久し振りの投稿になってしまいました。今回は『異天使』の続きを急かした友人とは別の友人に急かされたのでどうせなら同時投稿してみようと思った所存です。バランス良く投稿できたらいいですね。

Twitterアカウントは@DoleLaです。作品について呟いたりしています。

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